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そのいちのにっ

第一章第二話です。




携帯用に各話ごとに細分化しました。

 狡猾な手紙爆弾に動揺していた社は、不覚にも背後への接近を気取る事が出来なかった。

「よぉっ、何してんだ富永!」

 半ば体当たりをする勢いで、クラスメイトの峰隆志が肩を回してくる。

 彼自身に言わせれば親友、社からすれば悪友以外の何者でもない彼は、野球のユニフォームを着込んでいた。

 察するに朝練でもしていたのだろう。ご苦労なことだ。

「なんだよ、今日は早ぇじゃねぇか。……ん?」

 伸びた前髪でちくちくと社の顔を刺していた彼の視線が、その手紙へと向けられるのは必然だった。

 あっと声を上げる間もなく、社の手から奪い取り、

「おぉ〜っ、ラーブレターじゃなーいでーすかぁー」と妙な所で伸ばしながら峰が叫ぶ。

 社よりも頭二つ分背が高く、そのリーチを利用して頭上に掲げる野球少年。

堪ったもんじゃないと躍起になる社だったが、身長差は如何ともしがたく、ついに取り返そうという意志は儚くも根元からぽっきりと折れたのだった。

「そんなもんじゃないって」

 にやにやと顔を歪める峰に降参し、傷を抉られる前に先制する。

「巧妙に作られた果たし状だよ。峰が今踏んでるのと同じ」

 まったく、ある意味偽札よりもたち(・・)が悪い。なんだかやるせなくなった社は、リストラされたサラリーマンの如く深い溜息をついた。

「毎度毎度、みんなよく飽きないね。今学期からよりいっそう激しくなった気がするよ」

 以前は下駄箱からはみ出るほどの量ではなかったはずだ。

「そりゃあ一年のマドンナまで手篭めにされちゃあな」

「手篭めって……、千佳(ちか)ちゃんは関係ないで――」

「てめっ、あの安住(あずみ)千佳をちゃん付けするとは……!」

 ぐりぐりと拳で頭を挟まれる社。とりあえず、宙に浮いてしまうこの身長差はどうにかならんかなと思う。

 鼻息荒く怒り狂う悪友をどう宥めようかとぼんやりした頭で考えあぐねていると、


 突然ピタリと動きが止まった。


 見上げた悪友の、さらにその視線を辿って、ようやく気付く。

「せんぱああああああああああああい!!」

「あ、千佳ちゃぐふあっ」

「うあっ、富永が潰れたっ」

 テ○ドン並みの破壊力で突っ込んできたのは、噂の後輩、安住千佳その人だった。下駄箱と後輩に押し潰されるという、なんとも珍妙な事件に巻き込まれた社は、やはりたまったもんじゃなかった。

 峰に吊られていた為に、更に威力増大。

鳩尾に、貰ってはいけないプレゼントをされてしまった。

「いででででででっ!」

 画鋲がぁっ、と叫んでいる社を見れば、何があったかは一目瞭然だろう。

背中を押さえてのた打ち回る社に、未だしがみついて離れようとしない千佳。

「千佳ちゃん、痛い、痛いって……、こらそこ、黙祷するんじゃない!」

 四苦八苦の末に何とか起き上がると、社は腹の辺りにくっ付いている

小動物を引っぺがした。

「先輩、何で今日はこんなに早いんですかぁ?」

 舌っ足らずな猫撫で声で問いかける千佳。頭の両脇から伸びた短いお下げがぴょこんと跳ねる。栗色の毛先からほんのりと甘い香りが漂ってきた。

その小柄な体格とぱっちりした目から、“守ってオーラ”を放つ「ミスしのちゅー」筆頭候補、最終兵器はその人懐っこい笑顔という、破壊力抜群の一年女子だ。

 そんな彼女の上目使いに、ばっくんばっくん心臓が飛び跳ねている。

 いや、さっきの鳩尾への一撃も効いたけど。

「僕は日直だか――」

「私はですねぇ、新作が出来たんで先輩に試食をと思いまして……」

 社が尋ねる前に答え、いつの間にやら用意してあったタッパーの蓋を開けようとする。心臓が高飛びの後に海面ダイブを決め込んだ。厭な予感がぷんぷんする。特にその蓋の辺りから。

「え、ちょ、ここで開けなくても」

「?二人きりの方がいいですかぁ?」

 そう言って峰へとガン――本人はそのつもりなのだろうが、どう見ても目蓋を開いたり

閉じたりしているだけにしか見えない――を飛ばし始める千佳。

「あ、俺、邪魔者?」

 後ずさりし始める峰の額には、びっしりと玉の汗が浮んでいた。

コイツめ、逃げる気満々じゃないか。

「じゃあ俺もう行くわ、――」

 光の速さで、と言って去ろうとする峰の腕を光の速さでがしりと掴む社。それはもう万力のような力で。

「あれ、この間千佳ちゃんの手料理食べたいとか言ってたよね、峰?」

 峰の顔が引きつる。ついでに口パクで何かを必死に伝えようとしている。

……何々、どうしても、千佳ちゃんの、手料理が、食べ、たい?

「いいいい、言ってねえだろそんなことぉ!」

 そっくりそのまま千佳ちゃんに伝えると、峰が光の速さで社を揺さ振り始めた。

 吐く、吐くよ峰、吐いちゃうよ、と心の中で叫ぶ社。たーべーてーくーだーさーいー、と

ついでに千佳まで揺らし始める。吐くよ、吐くよ千佳ちゃん、食べたらもっと吐いちゃうよ、


「何してんのアンタら」


 後光が見えた。ついでにひょっこり現れたポニーテールも見えた。

「千佳ちー、ちょっとその社の口に突っ込もうとしてる箸を止めて」

「はーい」

「バカ峰は口開けて」

「んが(おう)」

 ひょいっと消し炭――千佳の手料理の最上級褒め言葉だ――を摘んで放り込む。

ここまでの動作を数瞬で済ませ、ジャージ姿の女子が両手をパンパンと払う。

 峰が倒れるまで時間は要らなかった。

ぱたりと床に伏し、それきり動かない。いや、微かに呻きが聞こえた。

「ほら、感想聞いてみたら?」

 顎をしゃくり、まるで猫のように千佳の首根っこを掴んでどける。

「あんた、大丈夫?」

 そう言って助け起こしてくれたのは、幼馴染みである高月(たかつき)みのりだった。

「ありがと」

 短く礼を言って、溜息をついた。

「みのりも朝練だったの?」

 学校指定の野暮ったい体操服ではなく、有名メーカーのジャージを着込む彼女は、東雲西中学校の陸上部員だ。

 成長期の盛りか、運動部の宿命か、その身長はこれまた社を通り越して頭一つ分高い。

というか、社が男子の中でも小さめなのが主な原因であるのは確実なのだが、一応本人も気にしているらしく、ちょうど中学校に上がってからは並んで登校することもなくなった。

 誰とでもあけすけな態度で接する彼女の顔が今は曇り、

「あ、ん、……まぁね」

 ぽりぽりと頬を掻き、伏し目がちに視線を泳がせるみのり。

「正確には片付けとかもあったんだけど、コイツが、ね」

 また顎をしゃくって峰を指す。

 峰が、どうかしたのだろうか。

「また朝練サボったらしくてさ、連れてくるように頼まれたんだ」

「ぎくっ」

 何かが聞こえてきた。

「鬼瓦が後でけつバット五千回だ、とか」

「ぎくぎくっ」

 また何か聞こえた。

「部室のエロ本没収、とか」

「ぎくぎくぎくっ」

 いつまで続くんだろう、と思っていた社だったが、その先をみのりが口にする前に、

峰がむくりと起き上がった。

 千佳がぼんやりと見上げる中、

「ならーーーーーん!!!」

 峰が叫んだ。

 耳の中で鳴り響くエコーに顔をしかめながら、社は尋ねた。

「何が?」

 シンプルなその問いに、みのりは「エロ本でしょ」、千佳は「エロ本なのです」、

そして峰が「無論エロ本……あ、いや、けつバットがだ!!」と答える。

 その場に居る全員の白い目に耐えられなかったのだろう。一人、しなくてもいい独白をしてしまった峰は、なんだかOとTとLを重ねたような体勢でがっくり(こうべ)を垂れている。







明けましておめでとうございます。

遅筆ですが(つД`)今年もよろしくお願いします。


本文更新しました。(01/03/08)


<補足>OとTとLを重ねた体勢=OTL です。ネットスラングですみません^^;


遅いのはオンラインゲームのせいではありませんので、あしからずw



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