第2話 ーー学校に来ない!!ーー
学校の教室。
「はぁ……」
先ほど新翔の説得に失敗し、自分の机に項垂れるこもる。
それに気づいたのか、同じクラスの朝霧都々葉が近寄ってくる。
「どったの?まあ大体予想できるけど」
「トト……まーた追い出されたぁ」
「新翔君のこと?こもるも飽きないねー。何でそこまでするのかね?本人が来たくないって言ってるんなら無理に連れて来ても充実しないと思うよ?」
「うーん、そうなんだけどさぁー。でも、来て欲しいな……」
「あー」
都々葉には以前から察しがついていた。
するとニタリと笑って……。
「惚れとるんか」
「んまっ !」
ソッコーで顔が赤くなる。
「図星か……」
「なっ、何言ってるのトト!?ほ、惚れたとかそーゆーのじゃなくてぇ!」
「こもる」
「な、なにさ……」
「声でかいよ?」
「え……」
気がつけばクラスは静まり返っていた。
すると「え?丸々が惚れた?誰よ?」「俺か!?俺なのかぁ!?」「そんな……丸々にはもう他に好きな人が……」などと、男子を中心に話題になってしまった。
「ハッハッハ!自ら墓穴を掘ったのぉ!?」
「だああぁぁああ!!なしなし今のなしぃ!!みんな忘れてえぇぇぇええ!!」
両手をブンブン振り回し誤魔化そうとするが、誤魔化せてない。
クラスのざわめきはおさまらなかった。
「もー、トトのバカァ……」
涙目になって都々葉をポカポカと殴るが、当の本人に反省の色はなかった。
「HAHAHAHAHA!!こんなん笑うわぁ面白過ぎる!」
都々葉爆笑。笑い泣きさえしていた。
チャイムが鳴り、丁度担任が入ってきてホームルームが始まった。
ズズズズズズっ……。
「あーーカップラーうめ〜」
まあ嘘だけど。カップラーメンはたまに食べるからうまいのに……こんな日常的に食ってたらもう美味しくも不味くも感じない。ただ腹を満たすだけだ。
しかし、初めて食べたカップ麺は美味すぎた。
そんなくだらない事に思考を回しながら、俺はネットで見つけた適当なフリーゲームを落としては良ゲーを探していた。既に何作かやっているがなかなか面白いと感じるものは見つからない。
やがて本音が漏れる。
「クソゲーだな!!」
まあ所詮は無料ゲーム。それ相応の出来でしかないか。
不意に一階から声がした。
「しんー、仕事行ってくるけどシンは学校行くのー?」
この声は母さんだ。
心配してくれているのかわからないが、毎日この質問をしてくる。
そして、返す言葉はいつも決まっている。
「行かないよ」
「了解」
一択だ。
このやりとりはもう何度目だろう。母さんはどういう意図でこの質問をしてくるのか今だに理解できない。
なぜなら、高校に入ってから一度も肯定を示したことはないのだから。
俺が行くと言うのを期待しているのだろうか。
もはや聞くまでもないだろうに。
そんな思案をしているうちに玄関の開閉音とともに母さんの気配が消えた。
「………」
母さんは優しい母親だった。いや、だったという表現は正しくない。今も優しいのだから。ただ、優しいの方向性が昔と変わってしまっただけだ。
昔は褒めてくれた。叱ってくれた。だが、今は何も言ってくれない。学校に行けとも、よく出来たねとも、とも。
放任主義というやつだろうか。いずれにせよ、見放されてしまったんだと思う。
父さんはいない。俺が物心つく前にとある事情で死んでしまった。
そんな悲劇の中でも、母さんは俺を女手一つで育ててくれた。
俺を希望に生きてくれた。俺を愛してくれていた。
母さんは、幸せだったんだろうか。
人生で一番幸せな時に、一番不幸な出来事が起きて。こんな親不孝な俺しか家族がいなくて。
変な話だが、今の母さんにこんな事を聞いてみたらなんと帰ってくるだろう。
「俺をまだ愛しているの?」って。
予想は出来るが実証など出来ない。聞く勇気などないのだから。今は普通に接してくれているが、そこに愛情があるのか引っかかる。母さんはただ、自分が生んでしまった息子なのだから、せめて体だけは大人になるまで育てる責任があると考えているだけなのではないか?
そんな思いが胸をよぎってしまう。
だが、それでもつくづく思う。
こんな親不孝な息子を育てるなんて、なんて優しいんだろう……。
2話目です!