ランプの精と乙女心
ぽっちゃり系という言葉があります。男子諸君から見ればそのほとんどは「デブ」だそうですが、そこはそれ乙女心ですから、そんな言い方をしてはいけません。
叔父さんが急病で、ぽっちゃり系乙女のサチに留守番をしてくれと連絡がありました。それでサチは急きょ叔父さんの営む骨董品屋に行くことになりました。
「ほとんどお客さんなんて来ないから大丈夫だよ。店番頼んだよ」
と言われた通り、お客さんはだーれも来ませんでした。
「ヒマだなぁ」
サチはポツリと言いました。でも誰も答えません。お客さんなんてお店に入ってこないのですから。このままじっとしていてはぽっちゃりがグレードアップしてしまいそうです。ぽっちゃり系はじっとしていることが好きではありますが、若干の危機感を感じてもいるのです。その裏腹が乙女心ってものなのです。
サチはお店の中を歩いて、品物を見ることにしました。
和風のお皿、洋風のお皿、壺やガラス細工が並んでいます。棚を挟んで反対側は、紙製品が積み重なっています。掛け軸が入っていると思われる木の箱がたくさん積まれています。大きいものだと鎧や、中世風のドレスなども飾ってありました。
綺麗にはしてありますが、さすがに古いものばかりで、ちょっと埃っぽいと思いました。
サチは乾いた布を持って、ガラス製品を磨くことにしました。ちょっと磨くだけでも随分と見栄えが変わります。綺麗になると気持ちの良いものです。サチはいい気になって、次々と食器や壺まで磨いていきました。
「こんなものまである」
サチが笑いながら手に取ったのは、カレールーを入れるソースポットのようなものでした。サチはてっきりカレー用の食器だと思ったのですが、ふたが付いていました。サチが要領よく磨くと曇りが取れてピカピカになりました。
そして、そのソースポットがボワンと煙を吐きました。
「けっほ、けっほ!」
中に埃が入っていたにしては煙すぎです。サチは思わず咳き込んでしまいました。そして手でその煙を払うと、サチはこの店に留守番に来て初めて、店内に人がいるのを見ました。
「あ、いらっしゃいませ」
サチがソースポットを持ったまま挨拶をすると、お客さんが笑いました。
「わはは、面白いことを言う。私はランプの精。お客さんじゃないよ」
「ランプの精?」
サチはあまり驚かずにその人を見ました。
確かに、普通の人には見えないいでたちでした。アラビアンナイトよろしくターバンを巻いた怪しげなランプの精です。
「さよう。あなたがランプをこすったので出てきたのだよ。さあ、3つの願いを言いたまえ」
「え、今?」
そんな急に願いを言えと言われても、そんなつもりじゃなかったので思い浮かびません。
「今、言ってくれたまえ。私は他のランプでも呼ばれるので、多忙なんだ。すぐに頼むよ」
サチは急いで願い事を考えました。
ぽっちゃり系のサチには勿論、かなえたい願いがあります。一つ目はそれにしました。
「じゃあ、痩せたい!ものっすごく痩せたい!」
せっかくなので、ちょっと細くなりたいじゃなくてものすごく痩せたくなりました。
「かしこまりました、ご主人様」
そう言って、ランプの精はすぐにサチに魔法をかけてくれました。
サチはガリガリにやせ細って、倒れました。痩せすぎたのです。息をするのも辛いほど、痩せてしまいました。このままでは死んでしまいそうです。
サチは必死になって、言いました。
「元に戻して!」
「かりこまりました、ご主人様」
サチはすぐに元通りになりました。死んだか、と思いました。でも勢いで、もう二つも願いを言ってしまいました。あと一つしか残っていません。ここは慎重に考えないと、また死ぬほどやせ細ってしまうようなことになってしまいます。
そうだ。どのくらい痩せたいか具体的に言えば良いのだと思いました。そこで目に付いたのが、骨董品のドレスです。あれは9号くらいでしょう。ウエストがきゅっとくびれていて可愛いデザインです。
「あのドレスが着れるようになりたい」
うまい言い方をした、とサチは思いました。
「かしこまりました、ご主人様」
ランプの精は魔法をかけ、3つの願いを聞いて消えてしまいました。
あとには、サチの身体に合わせて伸びきったドレスだけが残っていました。とさ。