占い信じる?
にこやかな笑みを浮かべる俺とは対照的に、ムッとした表情の茉実。
石野が俺と茉実に視線を行ったり来たりさせてから、言った。
「いやあ、でも、お邪魔?」
石野はちょっと小首を傾げ気味だ。
茉実の表情から茉実の気持ちを読み取ったらしい。
が、ここでお邪魔を認める訳にはいかない。
「そんな事ないよな。茉実。
だって、期末も近いんだし、帰りの電車の中で石野に勉強教えてもらおうぜ」
「そう言う事ね」
石野は俺のとってつけたような理由を疑わずに受け入れたようだ。
が、茉実は何も言わず、むっとした表情のままだ。
「じゃあ、いいよ」
にこりとした石野の表情は、やはりかわいい。
告りたくなる衝動をぐっと押さえて、石野が立っているところに向かって歩き始める。
教室を入ったばかりのところで立ち止まっている茉実の横を石野が通り過ぎると、すぐ俺も茉実の横にたどり着いた。
「何で、突然そうなるのよ!」
非難気味に言う茉実に、何? 的な笑顔で諭すように言う。
「だって、試験大事じゃないか。
分からない所を石野に教えてもらうって、チャンスだろ?」
それだけ言って、石野の後を追うと、仕方なくふくれっ面で茉実が後をついてきた。
教室から廊下、廊下から校庭、校庭から駅、そして電車の中。
ずっと三人だった。
電車の中で、口実通りまじめに勉強を教わる俺と、教えてくれる石野。
黙って、ただいるだけの茉実。
石野も茉実に気を使い、時折話を振るが、茉実は「知らない」とか言うネガティブな一言だけを返して、俺たちの輪の中に入って来ない。
ちょっと、茉実に悪い気がしてしまうが、この状態を崩す訳にはいかなかった。
30分ほどで、俺と茉実が降りる駅に電車は到着した。
「今日はありがとう。じゃあ、また」
電車が駅に着いて降りる時、石野にそう言う俺に、石野がまたかわいい笑顔で応える。
「うん。試験勉強頑張ってね。
じゃあ」
そう言って、小さく手を振る石野を見ていると、やっぱかわいい。
俺の選択は石野しかありえない。
平日の昼間のこの時間帯、駅からあふれ出て行くのは俺たちと同じ高校生が多い。
そんな流れの中、俺は茉実と並んで歩く。
そう。今までの偶然帰りが一緒になった時のように。
話す話題は友達の事、学校の事、趣味の事、世間話。
いつもはそんなところだった。
が、今日は茉実が不機嫌そうな顔で、一言も話しかけてこない。
「どうしたんだよ」と、声をかけてもいいところだが、理由も知っているし、へたに話しかけて、避けたい話題が持ち出されて困るので、俺もただ黙って歩いていく。
そんな俺たちの少し離れた場所には数人の高校生たちの姿があって、二人っきりではない。
そして、もうすぐ茉実との分かれ道。
これで茉実から告られると言う問題もクリアし、三人の関係を確定させるのは先送りできた。
あとは今日もう一度、あの男からあの装置を手に入れるだけ。
そう思った時、いつもの分かれ道の角で茉実が立ち止まって、ふくれっ面で俺に言った。
「なんで、話しかけても来ないのよ?」
「いや、茉実が黙っていたから」
「なんで、石野さんを誘ったのよ?」
「だから、試験勉強したいなぁって」
「なんで、今日なのよ」
「たまたま?」
疑問形で茉実に返す俺に、茉実は一度大きく息を吸い込んでから、吐き出した。
「准くんてさ、占い信じる?」
「えっ?」
俺の頭の中に浮かんだ二つの選択肢。
もちろんだ。と言う答え。
これで返せば、二人っきりにならないかぎり、茉実から告られることはない。
いや、信じない。と言う答え。
俺的にはこれだが、今、これを答えてしまうと、茉実に告られると言う可能性だったあるはずだ。
「信じる!」
俺は視界の片隅に映る高校生の姿を確認しながら、言い切った。