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石野の好みのタイプ

 三回目の放課後の校舎の廊下。


 俺は教室のドアの取っ手に手をかけて、大きく息を吸い込む。

 廊下の窓を通して、校庭で部活をしている生徒たちの声だけが聞こえてきている。

 辺りを見渡す。

 長い廊下に生徒の姿は無い。


 三回目の今日も、今までの今日と同じだ。

 だが、今日の目標は違う。


 二兎追う者一兎も得ずと言う。

 今日は茉実からの告白をかわすことに専念する。


 石野に告るのを恐れて屁理屈をこねての目標変更じゃない。

 と、自分自身を納得させる。


 石野には、好きな相手がいるのかと言う確認にしておく。

 これで、俺が告った時の成功確率も少しは見積もれると言うものだ。


 教室のドアの取っ手に手をかけても、告る訳じゃないだけに緊張感は少ない。


 ガラガラ。


 教室のドアを開けると、石野が俺に目を向けて、にっこりとほほ笑んでくれた。

 三回目の同じシチュエーション。



「何してるの?」

「ノート忘れちゃったんだよね」


 石野がそう言いながら、カバンのチャックを締めた。


「そうなんだ」

「伊藤くんは、どうしたの?」

「俺も似たようなものかな」


 そう言いながら、自分の席を目指すふりをしながら、石野にたずねる。


「そう言えば、石野ってさぁ。

 男子から人気高いじゃん」

「えぇぇぇ。そうかなぁ?」


 小首を左右に傾げて、思案気な表情もかわいい。

 きっとすぐ横にいたら、髪の甘い香りが漂ってきたに違いない。


 このまま告りたくなる衝動が沸き起こってくるが、ぐっと押さえる。


「そうだよ。

 きっと、石野だったら、より取り見取りだと思うんだよね」

「そんな事ないよぅ」

「石野って、付き合っている人いるの?」

「えっ?

 いないよぅ」


 俺的には、石野がまだフリーだと言うその言葉はうれしい。

 俺がなる可能性はあると言う事だ。



「好きなタイプって、どんな人なの?」

「そうねぇ」


 立てた右手の人差し指を顎に当てて悩むような表情もかわいい過ぎて、告ろうかと言う衝動が出てくる。


 もしや、俺はここで告るのが運命だったんだろうか?


 そんな思いを抱かずにいられないが、俺のそんな気持ちをばっさりと切り捨てる言葉が石野の口から届けられた。



「やっぱ成績は良くないとね」


 石野は学年でもトップクラスだ。その石野が言ういい成績とはどんなだ?


 学年の成績でも中の中のちょっと下くらいの俺では、話にならないに違いない。


「で、優しくて、運動もできて」


 まだ条件は続くのか?

 才色兼備を地で行くような石野なら当然の条件かも知れないが、ここまでの条件だけでも、どれだけの男子生徒が振り落された事か。


 今のところまでなら、とりあえず俺は成績を上げれば何とかなる気がする。

 それだけに、条件はもう十分。

 これ以上の条件は聞きたくない。

 そんな気持ちに応えるかのように、石野の言葉を止める声がした。



「准くん。何してるの?」


 やっと来てくれたか。今日はそんな気分で、声の主 茉実に目を向けた。


「いや、特に何も」


 言い終えると、石野に目を向けた。


「じゃあ、また」


 石野が最初の今日と同じように、にこりと笑顔を向けて、胸の辺りで小さく手を振ると、カバンを持って廊下を目指し始めた。



「そうそう。石野って俺たちと同じ方向だよな?」

「えっ? うん」


 石野が立ち止まって、俺に振り返った。


 電車で何度も見かけた事があるので、お互い同じ方向だと言う事くらい知っている。



「三人で帰らないか?」

「えっ?」


 石野がちょっと驚いた顔を俺に向けた後、茉実にも向けた。

 茉実は俺の言っている事の意味が分かんない的な感じで、ムッとした表情を浮かべている。


 その理由は俺には分かっている。


 昨日、つまり二回目の今日、二人で帰る途中、茉実は言った。


「占いでね。今日二人っきりになった時がチャンス。

 そこで告れば恋が成就するって、書いてあったんだ。

 当たるんだよねぇ。その占い。有名なんだ」


 二人っきりにならなければ、茉実は俺に告って来ない。


 このまま三人で下校すれば、電車を降りるまでは三人。

 そして、駅を出てからも、茉実の家の近くまでは人通りもあって、二人きりになる可能性は極めて少ない。


 結局、茉実は俺に告って来ないことになって、俺と石野と茉実の関係は今までどおりのまま。


 この関係を変えるのは今日じゃない。

 俺はそう思っている。

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