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1日リセット

 ボタンを押した事で、俺を襲った立っている事もできないようなくらくら感。


 それはそれほど続くことは無かった。

 ほんの数秒で消えてなくなるとともに、女の子たちの声が近くで聞こえ始めて来た。



「あ、それ、知ってる、知ってる」

「でしょう」


 同時に俺の視界も明るくなっていき、信じられない光景が目に飛び込んできた。

 さっきまで、家の近くの公園にいたはずなのに、今、俺がいるのは学校を出たばかりの通りである。


 周りは下校中の俺と同じ高校の生徒たちであふれている。


 1日リセットできると言う話はマジだったのか?

 それとも、俺の頭は狂い始めているのか?


 俺は一人、通りの歩道で立ち止まり辺りを見渡しながら、現状分析に入った。


 左手の中。あの箱状の物は無い。

 ズボンのポケットの中に手を入れて探してみても、スマホとハンカチとポケットティッシュがあるだけ。


 スマホの日付を確認してみる。

 7月7日。俺の記憶の中の昨日の日付だ。


 あの箱状の物は本当に一日をリセットできる装置だったのか?

 一日前に戻ってリセットしたから、装置は俺の手には無いと言う事なのか?


 その可能性が高い気がするが、まだそんな装置の存在は信じ切れない。

 ドラ○もんが四次元ポケットの中から出したのなら、信じられるだろうが、何しろそれは浮浪者風の男の小汚ちゃない服のポケットの中から出て来たのだ。

 速攻で信じる事なんてできやしない。まだ半信半疑だ。


 俺は単に明日の夢を見ていただけって事の方が信じられる。

 答えは出せない。


 が、一つ確実な事があるはずだ。

 今の俺は茉実に告られる前の俺であって、石野に告るチャンスを再び手にした事になる。


 よっしゃぁ! 

 心の中で気合を込め、次のチャンスは絶対ものにする決意をした俺の視界に、友達と下校する茉実の姿が目に入った。


 歩道の脇に立っている俺に気づいた茉実がにこりと微笑む。


 あれ?

 今まで特に気にしなかったが、石野と同じように茉実も俺にあんな風にいつも微笑んでいたじゃないか。

 これって、茉実のシグナルだったのか?


 と言う事は、いつも俺にかわいい笑みを見せてくれる石野も、俺へのシグナルであって、告ると成功する確率は高い?


 勝手な妄想を膨らませている俺の前まで来た茉実が、俺に言った。



「一緒に帰る?」


 その言葉は俺をどきりとさせた。

 ついさっき、いや、来るべき明日の放課後の教室で聞いた言葉と同じだ。



「い、い、いや。ちょっと用事あるし、茉実も友達と一緒だろ?」


 どもり気味に茉実に返すと、茉実はにこりとした顔つきで、軽く右手を振った。


「だよね。

 じゃあ」


 いつもの茉実だ。

 俺と茉実が付き合う事になった事実は完全にリセットされたらしい。


 たぶん、俺が経験した明日と言う日の記憶が正しければと言う前提が付くが。



 茉実に追いついて、同じ電車になるのを気分的に避けたかった俺は、ゆっくりとした足取りで駅に向かった。

 その駅に向かう間、俺の頭の中は迷走を繰り返していた。



「そもそも、一日戻ったと仮定して、昨日の帰り道、俺は茉実とは会っていない。

 だと言うのに、今日茉実と会ったと言う事は、すでに過去が変わった事になるんじゃないのか?」

「と言う事は、明日、茉実に告られると言う事も自然消滅か?」

「その前に、石野と教室で二人っきりになると言うチャンスも無くなったと言う事はないのか?」

「うおっ! それは痛いが」

「それはそうとして、もしも、本当に一日戻っていたとして、あの装置はもう一度俺の手に入るのか?」


 茉実との恋人関係のリセットと、石野に告るチャンスを再び手にした事は大きな成果だが、それ以上に、あの装置を再び手に入れられたとしたら、俺の人生を変える大事件だ。


 そう思い至った時、俺は目標を決めた。


 それは、俺として二度目の明日、石野に告る事と、あの装置を手に入れる事だ。

 俺はそのため、これ以上未来を乱したくない。


 とは言え、すでに狂わしてしまっている訳だし、昨日の事、つまり今日の事なんか、いちいち覚えちゃいない。


「俺はどうしたらいいんだ!」


と、叫びたいところだが、そんな事しても仕方ない。


 政治家じゃないが、粛々とやって行くしかないだろう。

 そんな気分で迎えた夜。


 俺はやはりあの一日リセットできるとか言う装置が本物だと言う確信と、未来はそれほど書き換えられちゃいないと言う確信を持った。


 夕食のテーブル。

 上に並ぶ夕食のメニューは、俺の記憶と同じ「ぶりの照り焼き」を中心にした和食。

 そして、そんな夕食の時に流れているテレビのニュースが伝える事件も、俺の記憶と一致する。


 明日は再び俺が手にした決戦の日に間違いない。

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