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人生リセットスイッチ

「汚っちゃねぇーなー」

「社会のごみだな。ごみは掃除しないとな」



 暴言を吐き散らす三人は危ない感じではなく、ごく普通の中学生っぽい。

 だが、このままだと浮浪者風の男を殴り出しかねない雰囲気だ。


 取り囲まれている男も、そう感じているらしく困惑した表情だ。

 まったく、困った中坊たちだ。


 が、取り囲んでいる者たちも、取り囲まれている男も、俺の知らない顔だ。

 ここで、仲裁と言う面倒な事に、わざわざ自分から飛び込んで関わる必要はない。

 俺としての結論は、そのまま通り過ぎるだ。


 四人から目をそらして、公園の出口を目指す。

 その時だった。



「助けてください」


 俺の耳に、そんな言葉が届いた。


 言葉のした方向に視線を向けた瞬間、哀願するような浮浪者風の男と目が合ってしまった。


 面倒な事に巻き込まれそうだ。

 そう思った次の瞬間、そんな予感を現実にするようなイベントが起きた。


 俺に視線を向け、男への注意を失っていた中坊たちの囲いを突破して、浮浪者風の男が俺のところに駆け寄って来た。



「お願いです。助けてください」


 もう一度、俺にそう言った。


 俺の身長は180cm近いし、がっしり体型だ。

 頼られるのも分からない訳じゃない。

 これでいかつい系の顔だったら、マジ一睨みで、こんな中坊たちなら霧散してしまうだろうが、残念なことに、俺の顔立ちはかっこいい系だ。と、自分では思っている。

 そこが弱い点なのか、俺を恐れずに中坊たちは俺の前までやって来た。


 俺としても、面倒事にはかかわりたくはないが、ここで逃げ出すほどチキンじゃない。

 俺にもプライドがあるし、こいつらのやっている事も気に入らない。

 俺は面倒事に巻き込まれる覚悟を決めた。



「弱い者いじめは止めな」


 顔つきは俺に逆らうなら、ぶん殴るぞ! と言うオーラを漂わせ、声も渋めの低いトーンで、恫喝気味に言った。

 そして、いつでも手を出せるように右手の拳に力を込め、三人の動きに全神経を集中させ、三人が攻撃に出て来ても即応可能な態勢をとる。

 そんな俺の威圧に、相手が少し怯んだのを感じた。



「ああ? どうなんだよ?」


 ずいっと一歩踏み出しながら、怒鳴って、もうひと押しした。

 中坊たちはお互い顔を見合わせると、一歩引き下がった。


 中坊たちの反応に、俺は勝ちを予感した。


 一度引き下がると、あとはずるずる引き下がるしかない。

 もう一歩踏み出すと、中坊三人組は何も言わず、俺に背を向け足早に立ち去って行った。


 とりあえず、暴力沙汰と言う最悪の結果は回避でき、よかったと言うのが俺の本心だ。


 中坊三人組がそれなりに離れ、戻ってくる素振りを見せない事を確認した俺は、浮浪者風の男に向き直り、軽く右手を上げて言った。



「じゃあ」


 今日は色んな事があった。

 そう思いながら、浮浪者風の男に背を向けて歩き始めた時、その男の声がした。



「待ってください」


 まだ何があるんだよ? そんな事を思いながら、振り返った。


 男はごそごそと自分のぼろっちくて、小汚ちゃない服のポケットに手を突っ込んで、何かを探している。


 そこから何か小さな箱状の物を取り出し、俺に差し出しながら、こう言った。



「助けてくれたお礼に、これを差し上げます。

 これはある科学者が造った人生を一日リセットする装置なんです」

「はい?」


 俺が助けたこいつはただの浮浪者でなく、ちょっといかれているのかも知れない。


 だいたい、そんな物が存在する訳も無いし、それ以前に、そんな便利な物を持っていたら、こんな事にならんだろうし、ただでくれると言う事も合わせると、それはただの小汚い箱でしかない事は、すぐに分かる。


 不審げに思い、受け取りそうもない俺の気配を察したのか、男は突然俺のズボンの中に、それを突っ込んできた。



「お、おい、何するんだよ!」


 そう言って身を引いたが、その箱状の物体は俺のズボンの中に納まってしまっていた。


 勝手に入れやがったぜ、こいつ。


 こう言っちゃあ、こいつに悪いが、俺的には汚い物を入れられた。

 そんな気分だ。


 慌てて手を突っ込み、ポケットからそれを取り出した。



「ほら、返すよ」


 そう言って、男に差し出しながら、その箱状の物に視線を向けた。


 昔流行った二つ折りのガラケーくらいの大きさで、樹脂のようなもので出来た箱にボタンが一つだけついた簡素な作りの物だ。

 しかも、ご丁寧な事に、一つだけついているボタンは透明の保護カバーで覆われていて、ボタンを押すにはまずそのカバーを開けなければならない構造のようだ。



「これで一日リセットできるんなら、色々役に立つだろ?

 あんたが持っていればいいよ。

 そもそも、俺は礼なんて要らんのだから」

「いや、僕はもういいんです。

 僕はもうこれは使わないと決めていたんだ。

 それに、これは君のような立派な若者が持っていた方がいいはずですよ」


 そう言うと、男は俺に背を向け、よたよたと歩いて立ち去り始めた。



「おい、待てよ」


 男を追いかけ、その肩に手をかけて、男を引き留めた。

 俺の言葉に振り返った男に、手にしていた箱状の物を差し出した。

 男は俺の手の上の箱状の物にちらりと視線を向けた後、俺に視線を向け、にんまりとした。


「信じてないかも知れないが、一日リセットできると言うのは本当だよ。

 押してみたらどうだい?」

「は?」


 男の言葉とその表情。俺的には挑発を受けた気分だ。


 しかし、ここで俺がボタンを押せば、男の言っている事が嘘だと確定する訳で、俺を唆してボタンを押させる事に男にとって、何のメリットがあるんだ?

 それとも、押せないとでも思っているのだろうか?


 そう思った瞬間、何だか試されているのかもと言う気になって、俺はちょっとむきになった。



「いいだろう。押してやるよ」


 もしかして、爆弾? なんて事が少し頭の中によぎったが、この国でそんな確率は低すぎるし、勢いから言って、もう後戻りはできない。


 俺はチキンじゃない。


 左手に箱状の物を持ち直して、右手でカバーを開けると、ボタンを押した。


 目の前の光景が歪んで行く。

 その中に浮かぶ、男の顔は悪魔の笑顔に見えてしまう。

 立っている事もできない感覚に、目を閉じた。


 げっ! もしかしたら、このまま死ぬのか?

 俺ってばか?


 そんな思いが脳裏をよぎった。

ブックマークを入れて下さった方、ありがとうございました。

引き続き、よろしくお願いします。

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