早まった天候の悪化
最初の今日、茉実が亡くなり、彩佳は無事だった。
次の今日、彩佳が亡くなり、茉実は無事だった。
今の今日、俺はどうすればいいのか?
人生は大きく変わらないばかりか、究極の選択まで俺に迫ると言うのか?
俺が選びたいのは第三の選択肢、両方を救うだ。
ベットに寝ころびながら、その選択肢の答えを探し求める。
茉実を一人であの道を雨の中、帰さない。
彩佳の手を離さない。
それを実行するだけなら、簡単そうだが、これまでの事を考えれば、そう簡単には行かせてくれない気がする。
石野を怪我させた自転車。
本屋にまで現れた大原。
芸能人の事故。
イベントはどうやっても起きるに違いない。
しかも、今回のイベントは、その相手を変えると言うとんでもないオプションまで用意していた。
とてもじゃないが、この中で解を見つけるのは難しすぎる。
ふと、窓に目を向ける。
まだ空は青空であって、あの黒い悪魔のような雲は広がっていない。
きっと、その悪魔はこの空のどこかでもう生まれ始めているのかも知れない。奴が生まれる前に答えを出さなければならない。
そう思った時だった。俺は答えを思いついた。
きっと、これなら、悪魔のイベントを回避できるはずだ。
俺はベッドから飛び起きると、部屋を飛び出し、取る物もとりあえず、玄関のドアを開けた。
空から突き刺すような真夏の日差しと、ムッとした熱気が俺を襲い、体から汗を噴出させた。
この汗は暑さのためなのか、これから起きるかも知れない事への恐れなのかは分からない。
保育園に、いや通学もそうだし、俺が鉄道を使ってどこかに行こうとすれば、必ず通らなければならない用水路の道。そこの光景を見ると、心が痛み、足が震えてくる。今の今日はまだ何も起きていないと言うのに。
そんな怯えをなくすためにも、今日は乗り切らなければならないし、その自信がある。
ぐっと拳に力を込めて、彩佳のいる保育園を目指していく。
俺が保育園に到着した時には、彩佳は被った帽子にも汗が滲むくらい汗ぐっしょりで元気に遊びまわっていた。
「彩佳」
「お兄ちゃん!」
俺の呼びかけに振り向いた彩佳が、嬉しそうな顔をして、俺のところに駆け寄って来た。
「帰るぞ」
頭を撫でながら、そう言った。
「先生、お兄ちゃんが迎えに来てくれたぁぁぁ」
彩佳がてけてけと保育園の先生のところに駆けて行く。
「あら、よかったわねぇ」
そう言いながら、俺ににこりと微笑んで、頭を下げた。
「ありがとうございます」
俺も頭を下げた。
結構早い時間だが、これで彩佳を雨に合わせずに、家に連れて帰る事ができる。
教室の中では、お帰りの準備を彩佳が始めている。
教室の窓越しに、その彩佳の姿をほほえましく見つめる俺の視界が突然暗くなり始めた。
まじかよ?
空を見上げると、さっきまでの青空はどこへ行ってしまったのか、真っ黒な雲に覆われていた。
昨日の今日より、天候の悪化が早まっている。
早く!
焦らずにいられなす。
やがて彩佳がてけてけと俺のところにやって来て、小さな右手を差し出してきた。
その手をにこりとしながら、左手でとって、園庭に一歩を踏み出した時、俺の頭上にぽつりと来るものがあり、地面にも大きな水模様が描かれ始めた。
まずい。
遅かったか。て言うか、自然現象まで、イベントに協力しているらしい。
走って帰るか、ここにとどまるか? そんな迷う間も無く、ぽつり、ぽつりで始まった雨は、ザーッとすぐになった。




