俺はどうすればいいんだ?
豪雨による増水であふれ返った用水路の上を流れていく黄色い小さな傘。
「彩佳ぁぁぁ!」
そう叫びながら、流されていく傘を追った。
土色の激流の中に目を向け、彩佳を探しながら。
が、彩佳の姿は見えない。
用水路は最後にはふたが被せられていて、その下に吸い込まれたら、もう助かる見込みはない。
どこだ?
どこにいる?
必死で探すが、彩佳の姿は見えやしない。
やがて、その傘が用水路の上にかぶせられたふたに乗り上げて、流れる速度が遅くなった。
俺は思いっきり走って、その傘を手にした。
どうか彩佳のものでありませんように。
そう願いながら、傘の取っ手を見た。そこには彩佳の名前が書かれていた。
「うわぁ~!」
俺は声を上げて、頭を抱え込んで、川のように雨が流れる地べたに座り込んだ。
なんでだ?
なんでなんだ?
茉実を助けたら、どうして彩佳がこんな事に?
どちらかを選べと言うのか?
止めてくれ。そんな選択。
俺は後の事は覚えていない。
俺の両親が駆け戻ってきて、警察やら、消防団やらで彩佳を探してくれた。冷たくなった彩佳が見つかったのは、捜索が始まってから数時間後だった。
道路と境目が分からなくなった用水路に落ちたのだろう。そう言う結論だった。
茉実を助けた事で、どこかで気が緩んだのかも知れない。
俺がちゃんとしていれば、こんな事にならなかったはずだ。
全ては俺のせいである。
俺は発狂しそうだった。
あんなかわいかった妹が。迎えに来た俺を見て、あんなにうれしそうだった妹が。
俺は自分の部屋で、自分の愚かさに涙しながら、ベッドを殴り続けた。
どれくらい経っただろうか。
俺は早くあのSWを押さなければならない事に気付いた。
そうだ。一日戻せば、彩佳は、あの彩佳は元気なはずだ。
俺は慌てて、机に駆け寄ると、引き出しの中から、あの装置を取り出して、SWを押した。
一日戻ったはずの俺は目を開けると共に、涙があふれ出した。
そんな涙を腕で拭い去ると、慌てて自分の部屋を飛び出して、一階のリビングに駆け下りた。
そこには平和そうな俺の両親がいた。
「彩佳、彩佳は?」
俺が叫ぶように聞いたので、何事かと言う表情で両親が俺の方を見た。
「何かあったの?
彩佳なら、もう眠っているに決まっているじゃない」
母親の言葉に俺は時計を見た。
九時。
俺は慌てて、二階に駆け上がった。
そんな俺を両親が怪訝そうな表情で眺めていた。
二階の両親の部屋。そこにすやすやと寝息をたてて、彩佳が眠っていた。
「彩佳!」
俺は涙を流しながら、かわいい妹の頬に頬ずりをしてしまった。
「よかった」
俺はひとまず元気な妹の姿に安堵した。
しかし、明日、再び俺に大きな試練が訪れるはず。
俺はどうすればいいんだ?




