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膨らむ妄想

 占いを信じて、俺に告って来た茉実。

 人生をやり直す事で、今日俺に告ってきた茉実の動機を把握していた。

 それだけに、占いにある「二人っきり」を回避する事に全力投球してきた。


 放課後の教室で、茉実から告られるのを無事回避した俺は、最後の詰めに差し掛かっていた。

 辺りの状況を確認し、茉実に告られないための選択肢。

 それを選んだはずだった。

 


「そうなんだ」


 だと言うのに、そう言った茉実の顔になぜだか笑顔が戻った気がした。


 なぜに、笑顔?


 慌てて周りに目を向けた。


 さっきまでいたはずの高校生たちはいつの間にかいなくなっていて、視界の片隅に映っていた高校生は、交差点近くに建つ家の門扉を開けて、その中に消えて行こうとしていた。


 ま、ま、まずい。訂正だ!

 占いの状況が、今目の前に展開されようとしているじゃないか。

 ここは占いを全否定し、茉実の占いを信じる気持ちを萎えさせなければならない。


「いや、じ、じ、実は」


 そう訂正しかけた俺の口元に、茉実が立てた自分の右手の人差し指を近づけて来た。


「黙って」と言う意味だと感じた俺は、従順にも黙り込んでしまった。



「占いでね。今日二人っきりになった時がチャンス。

 そこで告れば恋が成就するって、書いてあったんだ」


 茉実が言葉をそこでとめて、一歩前に出て、俺の目の前に近づいてきた。



「そうなんだよ。

 今がチャンス」


 茉実は俺を見ながらだが、自分に言い聞かせるかのようにそう言った後、もう一度大きく深呼吸した。



「ずっと、ずっと准くんの事が好きだった」


 なんでだぁ!

 頭の中で、俺は叫んだ。


 一日リセットしてみても、茉実に告られてしまう。

 が、今日の俺は、そんな最悪ケースだって想定していた。



「あ、あ、ありがとう。

 俺としてはあれだな」


 ちょっと、照れ気味に頭をぽりぽりと掻く仕草をしながら、そこで言葉を止める。


 茉実がじっと俺を見つめて、次の言葉を待っている。



「茉実の事は気になるよ。

 でも、突然すぎて、どう答えていいのか分からないんだ。

 ちょっと、時間をくれないかな」


 そう。

 先送りだ。

 今日はまだ三人の関係をはっきりさせる時じゃない。



「うん。分かった」


 茉実は小さく頷くと、ちょっと寂しげな表情で一歩下がって、俺との距離をとった。


「今日は占いは当たらなかったけど、待つよ。

 私。准くんが答えを出すの」

「お、おう」

「じゃあ。また明日ね」


 茉実はそう言うと、俺に背を向けて、家に向かって歩き始めた。


「ごめんよ。茉実」


 茉実は後ろを振り返らなかったが、後姿の茉実が見えなくなるまで、心の中でそうつぶやいて、茉実を一人見送った。



 そして、俺はあの装置をあの浮浪者風の男から、受け取った。


 これで三回目。

 そして、その場では使わずに自宅に持って帰った。




 自宅のエアコンが効いた自分の部屋のベッドに寝転んで、その装置をまじまじと見た。


 外見は何の変哲もないただの箱である。

 実際に経験していなければ、これが1日をリセットする事が出来るなんて、信じられやしない。

 この装置を見ていると、色んな疑問が沸き起こってくる。


 この中はどうなっているんだろう?

 色んな角度から見てみたがネジも無い。


 と言う事は、電池の交換はできないのか?

 いや、そもそも電池で動いているのかどうかも分からない。

 

 と言うか、一日をリセットするエネルギーって、どんだけよ。

 

 まあ、そんな事を考えていても仕方がない。


 一番大事な事は、これをどう使うかだ。石野を落とすために。


 俺は決めていた。

 最初にする事は、期末テストで石野が驚くような結果を出す事だ。


 問題を見て一日戻せば、100点満点だって難しくないはずだ。

 そんな抜群の成績をとった俺に石野は言うだろう。



「伊藤くん。すごいっ」ってな。


 そこで、こう言うんだ。


「石野が付き合う相手は成績がよくないとね。

 俺、石野の相手の資格は取れたかな?」


 すると、石野はちょっと頬を赤らめながら、こう言うんだ。


「私のためだったんだぁ」


 当然、それはOKのシグナル。

 俺と石野は……。


 未来の俺と石野の姿に、一人妄想を膨らませる。


 今までに持った事のない、期末試験が待ち遠しいと言う感情がこみ上げてくる。



「全てはお前のおかげだ」


 そう思うと、この装置をぴかぴかに磨いてやりたくなったので、机に走り寄り、引き出しから除菌アルコール付きのウェットティッシュを取り出して、丁寧に装置を拭いた。


 石野との妄想冷めやらぬ俺は、その装置に唇をつけた。


 チュッ!


 いずれは石野の柔らかな唇に。

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