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放課後の教室

 放課後の校舎の廊下。


 俺は教室のドアの取っ手に手をかけて、大きく息を吸い込む。

 廊下の窓を通して、校庭で部活をしている生徒たちの声だけが聞こえてきている。


 辺りを見渡す。

 長い廊下に生徒の姿は無い。


 教室のドアに設けられた小さな窓から、教室の中に目を向け、もう一度大きく息を吸い込み、心を落ち着かせる。


 教室の中にいるのは石野めぐみ。

 女子の中では真ん中よりちょっと高い身長に、肩まで伸ばしたストレートヘア。

 ほんの少しだけだが、下がり気味の目は大きく、顔もスタイルも言う事なし。

 しかも、成績優秀とあって、才色兼備とは、石野のためにある言葉だと、俺は思っている。


 そんな石野を見るだけで幸せな気分に浸れる俺の気持ちは、もう告らずにいられないところまで高まっている。


 今がチャンス。

 二人っきりになれるなんて、これは神様がくれたチャンスで、俺の背中を後押ししているのかも知れない。

 そう自分を信じ込ませ、勇気を奮い立たせる。



「よしっ!」


 気合を込め、ドアの取っ手を持つ手に力を入れる。


 窓の向こうから聞こえていた部活の生徒たちの声が遠くなり、「ドク、ドク、ドク」と言う俺の鼓動が高鳴り、俺の体を揺らしている感覚にとらわれてしまう。


 ガラガラ。

 思い切ってドアを開けると、石野が俺に目を向け、目と目が合うと、にっこりとほほ笑んでくれた。



「や、やぁ。

 何してるの?」

「ノート忘れちゃったんだよね」


 石野がそう言いながら、カバンにノートを入れてチャックを締めた。



「そ、そ、そうなんだ」

「伊藤くんは、どうしたの?

 何か、忘れたとか?」

 そう言って、またにっこりとほほ笑んだ。



「お、俺はさ」


 そこで、言葉は止まってしまった。

「石野がいるので話したくて、入って来たんだ」と、続けたかった言葉は勇気が無くて、喉のところで全て零れ落ちた。



「うん?」


 石野が笑顔で小首を傾げて、俺を見つめている。

 鼓動がさっき以上に高鳴っている。


 ここは石野の言葉を受けて、明るく、ちょっと冗談っぽく「石野に告るのを忘れちゃってさ」ってのもありかも?

 

 それで行こう。

 両手にぎゅっと力を込めて、大きく息を吸い込む。



「俺はさ、石野に」


 そこまで言った時、背後から俺の名を呼ぶ声がして、言いたかった言葉は霧消して、またまた声に出せなかった。



「准くん。何してるの?」


 振り返ると、幼馴染の小野田茉実が両手でカバンを持って、教室のドアの所に立っていた。


「あん?

 いや、特に何と言う事は」


 張りつめた緊張を一気に絶たれた衝撃で、もごもごとした口調でそう言った。


 小野田は石野に一瞬、目を向けた後、俺のところに向かって、すたすたと歩き始めてきた。



「じゃあ、また」


 石野は俺ににこりと笑顔を向けて、胸の辺りで小さく手を振ると、カバンを持って廊下を目指して、歩き始めた。


 石野と小野田がすれ違い、教室の中にいる組み合わせが変わった。


 俺の視線は後姿の石野にロックオン。

 その視線を感じた訳じゃないだろうが、石野は廊下に出た時、教室の中に振り返り、もう一度、俺に笑顔を向けた。


 あの笑顔はもしかして、俺への好意を表している?

 だって、そのまま振り向かず教室を出て行けばいい訳で、わざわざ振り返って、微笑んでくれたのは……。


 膨らむ妄想。

 そんな妄想を打ち破ったのは小野田の声。



「何も無いんなら、一緒に帰ろうよ」


 俺と小野田は家もそう遠くなく、一緒に帰る事もあるが、それはいつも偶然帰り道で一緒になった時であって、あえて一緒に帰った事などなかった。


 なんで、今日、突然誘うの? と言うのは、心の片隅にはあるのだが、あえて、その理由を聞くほどの事でもない。


「あ、ああ」


 それだけ言って、一歩踏み出す。

 せっかくのチャンスを逃してしまった後悔と、告らずに済んだほんのちょっとの安堵感が、俺を包む。


 一歩を踏み出すたびに、緊張感を失った俺の脳が思考力を取り戻していく。

 石野のあの微笑み。あれはやっぱシグナル?

 女の子はさりげなく、シグナルを送るのかも。


 茉実の横に並び、追い越していく俺の後を茉実が追う。



「なあ、茉実。

 女の子ってさ、好きな子にさり気なくシグナルを送ったりするのかな?」


 俺がそう言い終えた時、俺より少し遅れて歩いていた茉実の足音が止まった事に気づいた。

 振り返ると、茉実がにっこりとした笑顔で立ち止まっていた。



「それって、あれかな?」


 茉実はそこで一度言葉を止めて、さらににっこりとほほ笑んでから続けた。



「一緒に帰ろう! とか?」


 なるほど、そんなのもありか。

 微笑むよりも、ありかもな。


 そんな思いで茉実に頷いてみせると、茉実は満面笑みで、ぎゅっと、たぶん女の子の力で力いっぱいに、俺の腰のあたりを両手で抱き付いてきた。

 茉実の胸の柔らかな部分が俺の体に密着し、俺の思考が乱れ始める。



「と、と、突然、どうしたんだよ?」

「やっと気づいてくれたんだぁ。

 准くん、好きなんだ!」


 えっ、えっ、えぇぇぇぇ。

 どんな展開?

 目が点になってしまっていたが、茉実は顔を俺に密着させていて、俺の驚いた表情には気づいていない。



「ずっと、言いたくて、言いたくて、でも言えなくて。

 私のシグナル、分かってくれたんだよね?」


 えっ、えっ、えぇぇぇぇ。

 好きな子に告るつもりが、幼馴染に告られてしまった?

「人生リセットスイッチ」を全面改稿しました。

3作目と言っていいほど、「人生リセットスイッチ」とは内容が違っていますけど、懐かしい場面(リセットスイッチを手に入れるシーンとか)も出てきます。

そうなんです。今回も、あの浮浪者から、もらいます。

感想なんかいただければ、うれしいです。

よろしくお願いします。

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