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99話 フェイマの街 8

 店に入って開口一番に僕は叫んだ。

「もふもふの魔物の卵ください!」

「いらっしゃーい。もふもふの魔物の卵が欲しいの? それなら、こっちを引いてね〜」

 あれ? なーんかお店のお姉さん、どっかで見たことあるような。白銀の獣耳と、同じ色のふさふさの尻尾。にっこりと笑顔で出迎えてくれたんだけど、かなり綺麗めのお姉さんって感じだ。少し長めの金髪は首の後ろで一つ結びにされ、すみれ色の瞳が優しく僕を見つめている。服は緑色の袖無しのへそ出しタンクトップと、茶色の短いキュロット。ただ、うーん。福引き会場の虎のお姉ちゃんに似てる。

「虎のお姉ちゃんの家族?」


 思わずポロリとこぼしてしまった僕に、獣人のお姉ちゃんは少しだけ目を見開き、クスクスと笑いだす。


「虎のお姉ちゃん、ね。ひょっとして僕、フィーガの洞窟の奥の福引き会場に行ったことあるの?」

「うん。それで、虎のお姉ちゃんに勧められるまま福引き引いたんだ」

「そうなの。あそこ、知る人ぞ知る隠れスポットのはずなんだけど。僕が会ったのは、お察しの通り、私の妹よ。妹はナナ、私はネネよ。よろしくね。さて、僕が欲しいのはもふもふの魔物の卵よね? このかごの中から一つ選んでくれる?」

「これは?」

 かごの中にはたくさんの卵が入っていた。本当に色とりどりで、蝶の卵みたいに小さなものから、大きなものは僕の身長の半分ぐらいの物まで揃ってる。


「これは、全部魔物の卵なんだけど、特に鳥系の魔物の卵がたくさん入ってるの。ちなみにどれも初回お試し価格で五百ギルよ。どれにする?」

「そうだなぁ。どれにしようかな」

 綺麗な薄桃色の柄の卵も捨てがたいけど、なんか虹色に光ってるおもしろい卵もあるし。かなり悩むなぁ。

 その中で、妙に毒々しい色の魔物の卵があった。なんて言えばいいんだろ。ヘドロの中に、黒い虫がたくさん浮いてるような、一目見て、うっとなる色だった。かなり取るのが躊躇われる卵だ。

 これは、スルーだね、スルー。その隣の白い卵を僕は取ろうとしたんだけど。


 ごろん。


 毒々しい色の卵が動いた。そして、今にも僕の手に触れそうな位置にやって来る。

 僕は別の卵に手を伸ばそうとするけど。

 ごろんごろん。

「・・・・・・・・・。卵ってひとりでに動くものだっけ、ネネお姉ちゃん」

「え、いえ。私はあんまり聞いたことがないけど。と、いうか動くのね、ひとりでに」

 ネネお姉ちゃんもビックリしてる。

「選択権は、僕にあるはずだよね、ネネお姉ちゃん? 僕がこの卵を選ばない自由もあるはずだよね?」

「それはもちろ・・・いえ、君はこの卵を選ぶべきです!」


 あれ? ネネお姉ちゃんの様子がおかしい。


「なんたってこの卵、ここ以外ではほとんどお目にかかれない、稀少かつ貴重な魔物の卵なんです! これを手に入れれば、強力な魔物使いとしての第一歩を君は歩むことになるでしょう。そう、この卵にするべきです、絶対! これを手に入れた君は、素晴らしい未来に感謝することになるでしょう! さぁ、手に取ってみてください!」


 大袈裟な手振りと一緒に、なんだか怪しい勧誘業者のようなセールストークを展開するネネお姉ちゃん。


「いや。手に取った瞬間、なんか起きそうだから、やめとく」

 ずずいっと、差し出された卵を手に取るまいと僕は手を後ろに回したんだけど。

 後ろに回した手に何か落ちてきた。

 ばっとネネお姉ちゃんの手元を見遣ると、卵がない。

 恐る恐る、後ろに回した手を前に持ってくると、うわー、予想通り。

 僕の手には、ネネお姉ちゃんが押し売りの勢いで勧めてきた卵があった。


「毎度、ありがとうございます!」

「いや、これにするって決めたわけじゃ・・・!」

 僕は必死に反論しようとするんだけども。

 ピシピシピシピシピシ。パリン!

 僕の手にあった卵が割れた。


「え!?」

「これって・・・」

 中から現れたのは、ヘドロの様なものを背負ったよくわからない生き物だった。その生き物が僕の手に直接触れると、異変が生じる。


「指輪が・・・」

 僕が呪いのせいで常に身に付けている指輪が光ったと思ったら、その生物が背負っていたヘドロの様なものが全て指輪に吸い込まれる。

 ようやく、本来の姿を現したその魔物に僕は絶句した。


「まさか、こんなところでこの魔物に会うなんてね。確かに、稀少かつ貴重ではあるね。しかも、相当に君、ずる賢そうだ」

「カァ!」

 僕の手のひらで翼を広げているのは、漆黒のカラスの雛。足が三本あり、両の目は血のように赤い。

 その嘴は鋭く、足爪もかなりの硬さだろう。

 だが、何より驚くのはその羽毛だ。温かさは感じる。だが、その羽毛はまるでしなやかな金属のような感触で、見た目に反してものすごい防御力を秘めている。


「もふもふじゃないね。見た目もふもふなのに。もふもふ詐欺師だよ、君」


 ヤタガラス。時に、神の使いと現実世界(リアル)では呼ばれる霊鳥の名を冠した魔物は、僕の手の中で、挨拶代わりに「カァ」と鳴いたのだった。


次→6/2 寝坊しました。書き上がったら。投稿します。(´・ω・`)

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