98話 フェイマの街 7
変な魔物(?)にかまれた後、いつのまにか魔物は消えて、僕の手には紫色のカードがあった。
表に返してみると、さっき僕をかんだ魔物の絵柄が書いてある。
「すげぇ。ミルカスレーグイの召喚符なんて初めて見たぜ」
「ミルカスレーグイの実物を見たの初めて、私」
その、ミルカスレーグイがそもそも何かわからないんだけど。二人が興奮してる様子から、どうやら相当、レアな魔物なのかもしれない。
「そもそも、ミルカスレーグイって何? 魔物なの?」
僕の質問に、マスターもレーラも怒った。
「お前、ミルカスレーグイに対して失礼すぎるぞ、魔物なんて!」
「そうよ、失礼よ。ミルカスレーグイは、精霊。滅多に会うことができなくて会えば幸運になれるなんて言われてるくらいなんだから!」
へえ〜。いわゆる、縁起物扱いの精霊なんだ。
精霊は、簡単に言えば魔法と同じ効果をもたらしてくれる存在だ。
魔法と違うのは、精霊は一度召喚すると、コストのSPを支払い続けることでずっとその効果を維持し、精霊によっては一定の時間経過と共に特定の攻撃をしてくれたりすることもあるらしい。
物理攻撃は効かない精霊だが、指示を出したりとかはできないし、得られる効果も一つか二つだけだ。
つまるところ、精霊を召喚して戦うとなると、SPがきちんと回復できる手段と攻撃手段を整えとかないと意味がなかったりする。さらに、精霊を扱える精霊使いという職業もあるにはあるが、まず、肝心の精霊を見つけて、誓約し仲間になってもらわなければ、召喚できない。魔物使いと同じ不遇の職業として不人気だ。
でも、精霊って。僕、精霊使いの職業じゃないのに、なんでまた?
「そんなの、俺に勝ってスキルを覚えたからだろ。ひょっとして、符術を覚えたんじゃないか?」
「あ、うん。そう」
「符術は、精霊使いが覚えるスキルだ。符術を覚えていれば、精霊と契約できる。召喚符が使えるようになるからな」
へえー、そうなんだ。でも、なんで符術を覚えたんだろ?
僕の疑問に対して口を開きかけたマスターだったけれど。
「いたぞ! あそこだ!」
その答えを聞く前に僕らは追っ手に見つかってしまった。
「あいつらを捕らえろ!抵抗すれば殺しても構わん!」
殺しても構わんって、物騒だね。
僕は、レーラを降ろして、戦闘体勢に移行しようとしたんだけれども。
僕の前にふわりとカードが浮き上がった。
驚いていると、カードはピカピカと光り、そこからあの仮面お化け・・・ではなく、ミルカスレーグイが現れた。
ミルカスレーグイが勝手に召喚された!
勝手にってログについた! 勝手に召喚されると普通困ると思うんだけど。
召喚と同時に減る僕のSP。でも、魔力が高いから、消費よりも回復の方が高く、実質召喚しててもSP回復の一分を過ぎるとSPは全快するけどね。
「!? まさか、これはミルカスレーグイ!?」
「ほ、本物!? 本物のミルカスレーグイ!?」
「す、すげぇ。初めて見たぜ」
動揺してる追っ手のところまで行くと、ミルカスレーグイが歯をカチカチと鳴らした。
ミルカスレーグイの超越者の幸運が発動! 追っ手に不幸が襲いかかるようになった。
「不幸? 不幸ってどういう・・・」
がががががががががっ。
「ぎゃぁああああ!? なんで空から石が降ってくんだぁああ!?」
その石の雨を皮切りに、様々なことが追っ手の身に降りかかった。近くの民家が突如瓦解したり、それから逃げ回れば、暴れ馬の暴走馬車にひかれそうになったり、石像が倒れてきたり、さらには石畳に足をとられて滑って転ぶと、転んだ先が屋台で熱した鉄板に手をついてしまったり、それに慌てて鉄板から手を離せば、並んでいた人間に手が当たって、自分の方に倒れてきたあげく、下敷きになって気絶してしまったりと。
まるで偶然とは思えない不幸の連鎖っぷりだった。
「さすが、幸運の精霊ミルカスレーグイ。たいした運だ」
「すごい! ミルカスレーグイの幸運をこの目で見られる日が来るなんて!」
レーラとマスターはえらく興奮してるけど、僕としてはミルカスレーグイの扱いに困りかねない。
どうしたものかと思案し始めた僕は、その看板を目にした瞬間、何もかもが一瞬で吹き飛んだ。
勢いよく看板が出てる店に飛び込む。
その看板には、「魔物の卵販売所」と書かれていたのだった。
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