92話 フェイマの街 1
さて、テスト勉強で忙しくなるとはいえ、まだ少しの猶予は残っている。
なので、いつも通り出された課題をこなして、ゲームにログインすると。
冒険者ギルドが一新されていたことに、プレイヤーたちは驚きを隠せないようだった。
まぁ、いきなり建物が十五階建てになれば誰でも驚くよね。僕は知ってるから驚かないけど。
僕がログインして広場に立つと、すぐに僕に冒険者ギルドをなんとかしてくれと依頼してきたおじさんが駆けつけてきた。
「みーつーけーたーぞー」
「うん? おじさん、マラソンの趣味でもあるの?」
ちょっぴり息切れし始めてるおじさん。
「あるわけないだ・・・ふべ!?」
今、すごい勢いで矢が飛んできて、おじさんの肩に刺さったんだけど。
おじさんが痛みに呻いてちょっと声がうるさい。僕はおじさんにヒールを掛けた。それから、のんびりとした歩調で現れるナーガ。
「お! テルア、昨日ぶりだな!」
「ナーガ。今、どこから矢を放ったの?」
「ん? あそこの建物の屋根の上。狙いがつきやすいんだ」
何でもないことのように言うが、その建物、かなり大きいんだけども。そして、結構広場から離れてるんだけど。さすがはナーガ。弓術の腕前は伊達じゃないね。
「復活! とにかく、冒険者ギルドの件はなんとかなった。ついては、君たちを、別の街に送らせてもらう!」
いえ、いりませんよ、と伝えるんだけど、おじさん
は引かなかった。
「気にするな。厄介払いだしな。ついてくのは、そこのダークエルフだけでいいのか?」
「はぁ、本気だったんですね、その話。できれば、みんなも一緒に送ってもらえると、ありがたいんですけど。呼び出しかけますから、ちょっと待ってください」
僕がじいちゃん宛にメールして数分。みんなを連れてきてくれた。
「テルア。全員連れてきたが、何の用じゃ?」
「ごめん、じいちゃん。手間かけて。えっとね、なんかここから近くの街に送ってくれるんだって。このおじさんが」
僕がおじさんを示すと、じいちゃんはふっとおじさんのことを鼻で笑った。
「どうやら相当テルアたちに色々やられたようじゃの。そういうわけなら、儂は黙って見送ろうかの。それで、どうやってみなを送ってくれるんじゃ?」
「馬です」
おじさんは即答した。今さら、隠すことでもないと思ったらしい。
「天馬の馬車を用意してます。あれならば、迷わず目的地に着けます。一時間ほどかかりますが」
「天馬の馬車?」
そんなものあったんだ。感心する僕らとは別に、じいちゃんがニヤリと笑う。
あ、この笑顔は多分。
「天馬の馬車か。良いのぅ。まぁ、当然馬車対策で色々おまけしてくれるんじゃろ?」
「酔い止めと回復薬はこちらに」
僕に酔い止めと、回復薬を渡してくるおじさん。もらっていいのかなぁ?
「万一落ちた場合でも、速やかに回収するんじゃよな?」
「その時は、転移石でこちらに戻ってきてもらうつもりです。さっき渡した中には転移石も入ってますから」
転移石? 僕が疑問に思って質問すると、じいちゃんが教えてくれた。
一度行った場所なら、どこにでも行ける道具だそうで、一回きりの使いきり。
そんなものあったんだね。どうも1個でとてもいいお値段になるそうだが、僕らの知ったことではないので、ありがたくもらっておく。
「ふむ、ここからなら馬車で一時間ほどじゃな。その間に、テルアに勉強でも教えるとするかの」
お手柔らかに頼むね、じいちゃん。
こうして、僕らはおじさんのおかげで天馬が引く馬車で、次の街へと向かったのだった。
馬車は結構揺れたんだけど、そんなことで酔うことはなく。
無事にフェイマという街に僕らは辿り着けたのだった。
「うわぁ。すごいなぁ」
フェイマの街は、アールサンと比べても見劣りしない、とても華やかな街だった。
あちらこちらで花が飾られており、さらに特産物は花の蜜や、花を使ったお菓子で、試食させてもらうと甘い香りが口のなかいっぱいに広がった。意外とくせになる味だ。
「フェイマの街は、アールサンと比べるとやや見劣りはするんじゃが、この街でしか見られない光景というものがあるんじゃ。見に行ってみるかの?」
僕は二つ返事で頷き、じいちゃんの案内のもと、僕らはフェイマの街を探索したんだけど。色々と見ているうちに、何故か僕一人だけ、みんなとはぐれてしまった。
変なところに迷い混んでしまい、困ってしまう。
この年で迷子とか。洒落にならないね。どうにか表通りに出ようとするんだけど、何故かそれができない。
途方に暮れている僕に、声を掛けるものがいた。
「ここは、よそ者がうろつく場所じゃないよ」
僕が声のした方へと反射的に頭を向けると、そこには黒い頭巾を被った、見た目十四、五の少女が立っていた。
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