9話 魔神と再会
「ちょっと待っててくださいね」
虎のお姉ちゃんはそう言って奥に引っ込むと、またすぐに戻ってきた。その腕にぶらんと引っ付いてるのはどこからどう見ても、蝙蝠と言うしかなかった。
ぱっちりと開いた目は深紅だった。
へぇ、綺麗な目だなぁ。
蝙蝠ってあんまり間近で見る機会なんて普通ないはずなんだけど、僕の家のパイプから小さい蝙蝠が家の中に入ってきて、夜中に大捕物になったことを思い出すなぁ。
あ、ちなみに捕らえたのは母さんだった。父さんはビビってたなぁ。ちなみに、野生の蝙蝠は狂犬病を持ってる可能性があるので、無闇に触れようとしてはいけない。これ大事。
閑話休題。
蝙蝠は僕をじいっと見上げて、やがて僕の肩に留まった。かと思うと、ぶらんと肩から垂れ下がった。
少しは僕のことを認めてくれたか、それとも、そうお姉ちゃんに言い含められていたのか。
ま、本当はどうなのか知らないけど。
今は関係ないと割りきっておこう。
ひとまず問題はこっちだ。
「それじゃあ、今から魔神様を呼び出しますね。準備に少しお時間がかかりまして、今日のところだと一時間といったところでしょうか。捕まらない場合は、再度こちらに来てもらいますが」
「わかりました。ひとまずそちらの召喚が成功するよう祈っておきます」
僕は素直にお姉ちゃんに従った。変な駄々ををこねてもこじらせるだろうと思ったからだ。
ぶらんと肩からぶら下がる蝙蝠をちょっと撫でながら、やがて僕の心配は杞憂ですぐに騒がしい声と共に、魔神のじいちゃんが現れた。
「儂の名は、魔神ジャスティス! 召喚によって我を呼び出したものよ。用件を言うがいい」
かっこうつけながら現れたじいちゃんに、僕は一言だけ放った。
「じいちゃん。真面目に改名した方がいいよ」
「なっ!? か、かっこいいじゃろ、儂の名前! 改名などせんからな!」
わめきながら、振り向いたじいちゃんは僕を見て、固まる。あ、あれ?と数度瞬きすると。
「またお主か。今日はよく会う日じゃのう」
じいちゃんの声には、紛れもなく困惑が含まれていた。
「ふーむ。つまり、あの後洞窟を探険していたら、シヴァの先導でここに着き、さらには福引きで特賞を当てた、と。話はわかったが、なんちゅう偶然じゃ」
じいちゃんはあきれながら、僕とシヴァを眺めやる。そんな風に言われても、僕だって特賞当てちゃうなんて思わなかったんだから、仕方ない。
「ミラクルラッキーだったってことで。それで、じいちゃん。この吸血蝙蝠って特別なの?」
「特別も特別! そやつは吸血蝙蝠の王筋じゃな。レベルを上げて成長させれば、とんでもなく強くなるぞ。儂の加護も付けるし」
「じいちゃんの加護って、かなりスキルレベル上がるよね。ステの伸び率は聞いたけど。他にもなんか効果あるの?」
「ん? そうじゃな。儂の加護は、魔物に関して言えば、能力を一部強化して、レベルアップの度に、ステータスの伸びを助けるのはもちろん、スキルには出ておらんが、全属性の魔法に対しての耐性も上がっとるぞ。それは、お主もおんなじじゃがの。序盤で儂の加護付きって、結構特別なんじゃぞ。今の時点では自覚できないじゃろうが、レベルが上がってくると、実感できるようになるはずじゃ」
僕の質問に、じいちゃんは怒ることなくいちいち答えてくれる。
馴染み過ぎだ、僕も、じいちゃんも。
なーんか知らないけど、じいちゃんって話しやすいんだよね。別に僕、そこまで愛想いいわけじゃないんだけどな。
「ねぇ、じいちゃん。あのさ、僕もふもふの魔物を仲間にしたいんだけど。獣系っていうか」
「ん? うーむ、それはちょっと難しいかもしれんぞ」
「え、なんで!?」
「今、見ている限り、どうもお主、獣系とは相性悪そうじゃから。どっちかというと、悪魔族と相性が良いじゃろうな」
「悪魔族?」
また、知らない単語だ。じいちゃんを僕は質問攻めにする。
「一言で言ってしまえば、相手を騙すことに長けた種族じゃ。魔法を使いこなすことに長けた一族での。もしも出会ったら、戦わずに交渉で相手を騙し返して仲間にすることをお勧めするのぅ」
「でも、僕はもふもふの魔物を仲間にしたいんだけど・・・」
「それなら、後で儂がお主にぴったりのダンジョンに送ってやろう。転移魔法など儂にかかればちょちょいのちょい、じゃ」
じいちゃんはどうだとばかりに胸を張る。こうしてみると、本当に気のいい近所のおじいちゃんといった感じだ。
「じゃあ、後でお願いするよ、じいちゃん」
「うむ、任せておけ。あ、そうじゃ、ついでに儂が書いた本も渡しといてやろう」
そして、じいちゃんから僕は二冊の本をもらった。
テルアは『魔物大辞典(魔神のサイン入り)』を手に入れた!
テルアは『魔法大図鑑(魔神のサイン入り)』を手に入れた!
なんか、タダでもらうにはかなりいいもののような気がするんだけど。
僕が本当にもらっていいのかなぁと首を傾げていると、虎のお姉ちゃんが口出ししてきた。
「あの、そろそろ吸血蝙蝠に名づけと加護の方を・・・」
・・・魔神のじいちゃんが来た大前提を忘れてた。虎のお姉ちゃん、ごめんなさい。
すみません! 途中で電源切れました。
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