89話 冒険者ギルドのギルド長+α(※多数視点)
アールサンの街の冒険者ギルドのギルド長、リマウスは目眩と頭痛と吐き気がしていた。あのテルアとか言う冒険者に頼み事をした時、いや、嘘はよそう。
冒険者ギルドが何者かに乗っ取られ、たった一日で魔改造されてしまったあの時、悪い予想も展開もほぼ確定事項として、己の中で存在していた。
ちなみに、テルアのことをナーガにちくったあのおっさんがリマウスだ。
「で、どうするのかのう? 買い取ってもらえると、こちらもありがたいんじゃが」
黒づくめのじいさんが笑う。あまり、タチの良くない笑みだ。リマウスが最終的には飲まざるを得ない要求を突きつけてきている。
「こちらとしても、急な話ですから。お金も、出せるとは限りませんし」
「出せるじゃろ? ギリギリ足りるはずじゃ。なんなら、分割にしても儂はよいがの」
「それだと、連絡取るのが大変そうだね。あ、僕はガンダムッポイノ。もしも、希望があればそちらの冒険者ギルドの管理をするよ」
「さっさと、決めてしもうた方が楽じゃぞ? たったニ千万ギルで、ジョブ水晶だけでなく、冒険者ギルドの建物を取り戻せるしの。さらには広さも増えて、初心者にも優しい迷宮仕様。お得じゃぞ〜? 管理者までついてくるし、面倒なら管理者に希望を出しておくだけでよいしの」
リマウスを追い詰めるように、じいさんは建物の良い面を押して押して押しまくる。
それに追随する、ガンダムッポイノの商品説明。
「さらに、今なら各階全てに緊急脱出用の水晶を設置し、好きな階に転移できる水晶の設置も無料でやっちゃうよ! これは、断然便利! 水晶の実物も用意できてるしね。言われればすぐに設置できるよ。それだけじゃない。迷宮の練習として、経験まで積めちゃうし、死者は出さないよう、難易度調節も可能! 初心者は、ここで経験を積んで、より高度な内容に進める。冒険者の死亡率は確実に低下し、冒険者の質の向上にも一役買える。こんな建物の売り出し自体、ほとんどないよ! もしも、即金で買うなら、なんと! 提示金額から一割引いちゃうよ! ここまで言われても買わないなら・・・・・・」
「うむ、この話をどっかのお金持ちにでも、持っていくしかないのぅ。冒険者ギルドが奪われて、さらに円満な解決方法を提示されているのに、それに飛びつかないのであれば、ギルド長の資格さえなかろうて。ついでに言えば、ジョブ水晶をなくしてしもうた責任も追求されるじゃろなぁ。弁償しろと言われることは確実じゃ」
「だね。冒険者ギルドはしばらく開店休業状態。住民も冒険者も、困り果てるだろうね」
「「そんな状態になっても、構わんのか(構わないの)?」」
最後の二人の問いかけに、リマウスは。
「ぐっ。くぅぅううううう。そ、即金で買ってやらぁ!」
それこそ、修練の塔から飛び降りる気持ちで、決定的な一言を放った。
「「毎度あり」」
言い放った後、がっくりとその場に四つん這いになるリマウス。
あまりにも手痛い出費だ。きっと上役から、調査が入るに違いない。
その際、自分のギルド長の職を解任されても文句は言えない。
だが、リマウスが今はこのアールサンの街の冒険者ギルドのギルド長なのだ。
冒険者ギルドの機能が麻痺し続けるという不名誉且つ、迷惑な事態を長引かせるわけにはいかない。その判断は、けして間違いではないはずだ。幸い、ギルド長に就任する前に、蓄えたお金がある。
それを全て放出すれば、明日から極貧生活になるが、なんとかなる。
「さて、即金で払ってくれるってことだけど、準備には時間、多少要るでしょ?じゃあ、誰かに準備させてる間、建物の希望を先に聞いていくよ。遠慮なく、何でも言ってみて」
「本当に何でもか?」
「できないときは、できないって言うけどね。できることならやれるってきちんと言うよ。ただ、あんまり無茶な注文だと、払うSP量がバカにならないから。そこら辺の兼ね合いも必要だね」
その後、遅くまで話し合いは続けられ、建物の売買契約は成立し、冒険者ギルドは一新されたのだった。
ティティベル神は、己の居城で入浴中だった。今日のお風呂は、精神を落ち着かせてくれるイランイランと、柑橘系の香りの入浴剤を入れた。
その香りを楽しみながら、泡で包まれた浴槽にゆっくりと足先から入れる。温度も調度良いようだ。今は、眼帯も外している。ただし、左目は閉じたままだ。
「ふぅ。こんなものまで買っちゃった」
嫌な目に遭ったティティベル神は、散財しまくって、ストレス発散をしていた。その中には、どうして自分でも買ってしまったのかわからない、水に浮かぶ魔物のオモチャもあった。デフォルメされた龍が意外と可愛い。
ぱしゃんと跳ねる水の音。一人では広すぎる浴槽に浸かりながら、気分も上がっていたティティベル神だったが。
「ティティベル神様! 大変です!! テルアが最凶の鈍器を三冊も手に入れてしまいました! 破壊不可、汚染不可、さらに売却、廃棄もできません!」
「そんな!? あれにそんな凶器を持たせちゃダメ! 被害者が出る!」
ナーガの一言で、ティティベル神の安息はぶち壊されたが、そんなことに構う余裕などティティベル神にはなかった。
「すぐに、知り合いに連絡して、封印具を作ってもらって、そっちに送る! それまで、きちんと見張ってて!」
「了解です!」
ティティベル神は、封印具を作ってもらうために、知り合いの鍛冶の得意な神に連絡を取り、最速で封印具を仕上げてもらって、ナーガに送った。ただし、あまりにも分厚い本を前に、封印具がうまくはまらず。
テルアのアイテム袋の肥やしになってしまうことを、ティティベル神は、知らなかった。
次→5/28 8時




