87話 冒険者ギルドの探索 9
最上階は暗くなっていたけど、その光景を見て、僕もナーガも思考が停止した。
と、いうか。何やってるの、とつっこむ気力もなくなったというか。
一緒に来たガンダムッポイノなんて、絶対に視界に入れないよう、後ろを向いてる。
うん、あまりにも視覚に対する暴力だからね。気持ちはわかる。
何故なら。
「この世に悪がある限り! 正義の炎は消えないわ!」
かしゃっとスポットライトがわざわざ言ってる人物に当たる。光魔法の使い方が間違ってる気がする。て、いうかそのままずっと暗くしといて、頼むから。
「覚悟しなさい、悪党共! 私たちがあなたたちをこらしめてあげる!」
どすのきいた声で、可愛い台詞言われても、あまりにもミスマッチ過ぎて寒気すらしてくる。
「そう、私たちは正義を守る『魔法少女』!その名も・・・」
あ、最後はちょっとましだね。少し高めのボーイソプラノだから、違和感は前の二人に比べて少ない。
「「「『魔法少女戦隊、ピュアハートソルジャーズ、ここに見参!!』」」」
多分、決めポーズなんだろうね。じいちゃんが中央で、可愛らしいピンク色の先端がハート形になったステッキをビシッと前方に突き出した格好で、その右側にクレストのおじさんがピンクのリボンの巻かれた柄頭がハートになってるレイピアがよく見えるように膝をついた格好だ。左側に二人に比べて小さい人物が、こちらは先端にピンクの玉が付いたバトンを両手に持ち、十字に交差させた格好で膝をついてる。一番左側の人物はまだポーズは似合ってる方と言っていい。
これがね、本当に可愛い少女がやってるなら、良かったんだけどね。
中央には、長い金髪のカツラを被った明らかに年寄りで身長の高いじいちゃん。さらに格好はピンクのフリフリがついた可愛らしいミニスカワンピースで、胸元はちょっと開きぎみでそこにハートをあしらった飾りがついてる。足元はブーツ&白のタイツだ。
そして、左側には黒髪を三つ編みにした厳つい顔立ちのクレストのおじさん。おじさんは体格がいいから、ミニスカワンピースじゃない。お腹が露出したデザインで、胸だけちょっと厚めの布を巻きつけたようになった服。多分、背中も露出してるけど、それは白マントで隠している。
さらに、ムキムキの足をミニ(?)スカ&白のハイソックスで隠してる。靴は、ローファーかな? たくましい上腕二頭筋や割れた腹筋が見えるから、服装が男性用だったらまだ称賛できたかもしれない。
女性用だからマイナス要素しかないけどね。
最後は小柄な少年だ。彼はまだましだね。こちらは白を基調としたミニスカワンピだけど、所々にあるピンクのフリフリとリボンが結構いい感じのアクセントになってる。手にした武器もそれなりに個性的だしね。でも、なんかどっかで見たことある気がする。僕と同じ赤髪に、羽のついた可愛らしいカチューシャをしてる。
ひげもないし、いかつい顔をしてるわけでもない。どっちかというと、綺麗系な顔立ちだから、まだ見られると思う。
うん、つっこみどころしかない。
まず、何故魔法少女にしたんだ、とか。
どうしてそんな可愛らしい格好をチョイスして、さらに女装までしちゃったんだ、とか。
ひとまず、僕は。
つっこみの代わりに待機時間の短い魔法を雨あられと、三人に対して叩き込んだ。ついでにナーガもそれに合わせて弓矢で攻撃してた。
「いきなり、攻撃はひどいと思うんじゃが、テルア」
「ごめん、ごめん。新種の魔物かと思って、つい」
僕はいつもの格好に着替えたじいちゃんに対して、謝っていた。
「なーんか殺気がこもってた気がしたぜ。こっちの急所を的確に狙ってきやがるし。おかげですっかり酔いが醒めた」
こちらもいつもの格好に戻ったクレストのおじさんが愚痴ってた。
「あー、すいません。弓矢が新しくなって、試し射ちしたかったので。俺も、新種の魔物かと思ったんですよ」
ナーガが笑顔でクレストのおじさんに答える。
「だから、やめた方がいいって言ったのに。聞かないから」
ガンダムッポイノが、僕らの会話を聞きながら、やれやれといった感じで息を吐く。
それを見てた見知らぬ少年は、大笑いした。
「あははははは! あー、おもしろかった! まさか、酔ってたとはいえ、クレストの女装が見られるとは思わなかった! 魔神と武神が女装した、とか他の神々に言っても信じないだろなー。それはそれでおもしろいっちゃおもしろい」
「じいちゃん、この人誰? クレストのおじさんを呼び捨てにしてるし」
「ん? あぁ、自己紹介遅れた。初めまして、オイラはロード。太陽神やってんだ! 以後よろしく」
ビシッと親指を立てての挨拶に、僕とナーガは瞠目したのだった。
太陽神ロードは、かなり気さくな神様だった。楽しいことが大好きで、珍しいものやおもしろい物が好き。なので、急にじいちゃんが『魔法少女戦隊ピュアハートソルジャーズ』をやると言い出したときも、突拍子がなかったにも関わらず、女装道具を提供したぐらいだ。
なんで、そんな物もってたの!?
と訊ねると、悪戯で使えるからという返事がきた。
この神様、僕とものすごく気が合いそう。
ちなみにじいちゃんたちが女装した理由は僕が原因らしい。僕が、1階でもっふりを仲間にできなかった場面をじいちゃんたちに見られていて、慰めるために『魔法少女戦隊ピュアハートソルジャーズ』をやることを提案したそうな。
優しさと慰めの方向がすこぶる間違ってるけどね。まぁ、心遣いだけありがたく受け取っておくよ。
さて、大体ここまでの流れの話はした。
次は本題だ。
「じいちゃん。どうして冒険者ギルドをこんな風にしちゃったの?」
冒険者ギルドを勝手に改築した理由を、僕は問うた。
次→ 5/27 8時




