83話 冒険者ギルドの探索 5
「はぁ〜。焦ったぁ。まさかこんなところでプレイヤーに襲いかかられそうになるとは思わなかったよ」
僕は階段を上りながら、なんとか戦闘を回避できたことに安堵していた。正直、プレイヤーたちとはこれ以上もめたくない。面倒すぎる。
「けど、テルア。紅蓮騎士団に名乗っちまって良かったのか? 絶対また接触されるぞ?」
「仕方ないよ。あきらめてくれそうになかったし。まぁ、お誘いが来ても断っとけばいいだけだし。むしろ、マサヤを取り込んでから、僕を誘いに来たりするんじゃない?」
「うっ。反論できねぇ。紅蓮騎士団、結構入りたいってやつも多いしな。俺が誘われたら一も二もなく頷いちまいそうだ」
「まぁ、そこはマサヤの自由だね。僕に縛られてプレイする必要なんて全然ないんだし。僕の方はあんまり気にしなくていいよ。それに・・・周囲はともかく、あのスレイってプレイヤーには僕も好感持てたしね」
実際に会って、話をしてみて思った。あのスレイって人は、実直で真面目な性質っぽい。だからといって、人の意見を聞き入れないほど頭でっかちでもなく。
端的に言えば、武人に相応しい人格をしている、だろうか。
強さをひけらかすわけではない。
だが、自らの強さをどこで使うか、冷静に判断している。
ここで使うべきではないと判断した場合、躊躇いなく剣を収める。
年齢は知らないけど、多分、あの人は本当に現実世界で武術を習っていそうな気がする。
「俺としちゃあ、あの剣抜いてたバカにも一撃お見舞いしたかったんだが」
ナーガはまだ怒りが収まらないみたいだ。いや、どっちかっていうと、僕に注意されて不貞腐れてる?
「ナーガ。心配しなくても、ここからは魔物部屋なんでしょ? 思う存分暴れられるって。ナーガの弓の腕前、僕、すっごく期待してるから!」
僕が笑顔でナーガを持ち上げると、ナーガはそ、そうか? と若干照れながら、機嫌を直してくれる。さらに、頑張るぞー! と気合いも入れてくれたみたいだ。ありがたいね。
「テルア、何かあるみたいだぞ」
階段を全て上りきり、僕らは階段のある小さな部屋に立った。
部屋の中央には赤い水晶が浮いている。
そして階段の向かい側の壁には扉が一つだけあり、さらに張り紙までしてある。
ーーーーーーこの先に進みたいと思う者は死を覚悟せよ。力なき者、己が力に自信なき者はここで引き返すべし。さもなくば、後悔する羽目になるだろう。
真の強者のみ、上へと行く資格を得られる。
引き返すものは、赤い水晶に触れて念じるべし。
だそうだ。つまりは警告文だね。
こんな警告文があるってことは、この先は相当ヤバイのだろう。
僕は少し考えて、マサヤに告げた。
「マサヤ、マサヤ。悪いけど、マサヤはここで引き返してくれない? 正直、こんな警告文がある以上、マサヤを庇いながら戦える自信、あんまりないんだ」
「はっきり物言うな、お前は」
「いや、死に戻りしてもいいんなら別に構わないんだけどね。僕がマサヤが死に戻りするところを見たくないかなぁ」
それは本音だった。僕の友人なのだ。たとえゲームの中でも死に戻るなんてことになってほしくない。
「へいへい。足手まといなのは、ここに来るまでにも思いきりわからされてるんでな。さすがに、お前が本気で来るなっていってんのに、無理矢理ついてくような真似はしねぇよ。死に戻りのペナルティも痛いし」
僕は、ありがたいと思った。マサヤとは、残念だけどここでお別れだ。
「ただし、一つ約束しろ。お前も死に戻らずにここをクリアーするってな」
「もちろん、そのつもり」
僕が頷くと、マサヤも少しだけ笑う。
「ナーガ。こいつ、たまにすっげぇ無茶苦茶なことしでかす時があるから、俺の代わりに、しっかり見張ってやってくれ」
「言われなくたって、わかってる。俺だって、テルアの無茶苦茶ぶりは知ってっから。ま、心配すんな。危なくなったらテルアは俺が守っから」
よろしく頼む、とマサヤは言いながら、その場を動かない。
「水晶に触れないの、マサヤ?」
「あぁ、まだダメだ。お前らを見送ってから、俺も行かせてもらう」
僕とナーガは顔を見合わせて、扉に向かった。
僕は振り返らずに、ナーガは少しだけ振り返ったようだけど、すぐに前を向いて。
僕らは、扉を開けて中に入ったのだった。
そこは、まるでジャングルのようだった。生い茂る草木はまるで熱帯雨林のような植生をしている。
僕はつい、辺りを見渡してみたけど、残念ながら、階段らしきものはない。
進むしかないか。そう思ったとき。
僕の危機察知が飛来する何かに反応した。
さっとかわすと、それは後ろの方にあった木へと突き刺さる。だが、攻撃はまだ終わっていなかった。
後ろの木にくくりつけられていたかごが傾き、大量の石つぶてが上から降ってきた。
「ウィンド!」
魔法を使って、それを防ぐ。しかし、、それは相手も予期していたのか。
一瞬動きが止まった隙を突いて、大量の糸の束が、僕目掛けてやって来る。
ファイヤーボールでそれらの糸を燃やし尽くしたが、それらを目眩ましに、ナイフが次々と飛んでくる。
大技になってしまうが、仕方ない。
そう考えた時、ナーガが体勢を立て直し、弓矢を放った。
「そこだ!」
今まさに超音波を放とうとしていたブラッドは、冷静に回避行動をとった。
「まいったな。魔物部屋だって聞いてはいたけど。まさかみんながいるなんてね」
僕は、姿を現したハイド、チャップ、ブラッドに対して苦笑した。
シヴァの姿は見えないけど、気配察知でハイドの上にいることはわかっている。姿を見せないのは作戦だろうか?
そりゃ階段の間に警告文を置くわけだ。今のみんなの実力はおそらく高レベルプレイヤーにも匹敵する。
さらには、こちらの隙を突いてくる、見事な連携攻撃や罠の使い方。
並のプレイヤーでは一分と持ちはすまい。
「強くなったなぁ、みんな。それなら、僕も本気で相手しないわけにはいかないよね」
僕は、短剣を抜き放った。
「おいでよ。僕もこの一週間、遊んでたわけじゃないってこと、みんなに証明してみせるよ!」
僕とナーガVS魔物軍団の戦闘の幕が上がった。
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