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82話 冒険者ギルドの探索 4

 さて、小鬼の像が生きてるのはものすっごくよくわかってるんで、その点は別にいいんだけども。

 この小鬼の像があるということは、つまり。所有者も近くにいるということで。


「おー。来たの、テルア君だったんだな。通りでその像がひとりでに階段前に行くんだな。納得なんだな」

「ネギボウさん!」


 特徴的な髪型に、小さな目と反して顔はまん丸。うん、やっぱりこの人の名前に関しては僕は納得してしまう。


 どうやら、八、九階のじいちゃんの知り合いは、ネギボウさんだったらしい。

 そして、その階は、引き出しや本棚、何やら怪しい剥製とか素材がこれでもかと置いてあった。

 うわぁ、すごい。

 僕が呆然となって、景色に圧倒されてると、マサヤやナーガも感心した様子で、ポカンとしながら周囲を見渡していた。

 だけど、すぐに複数人の声で我に返る。


「くそっ! 鍵見つかったか!?」

「全然。そもそもこんなに物が溢れた中で見つかるわけねぇって」

「なんでなくすのよ、大事な鍵を!」

「そういうイベントなんでしょ。こっちにはなさそうよ」

 毒づきながらも、手を動かして何かを必死に探してる、プレイヤーたち。

 何を探してるんだろう?


「実は、ジャスティスから預かっていた、階段の間に続く扉の鍵をなくしてしまったのだ」

「え!? つまり、鍵を見つけないと、階段を登れないってこと!?」

「そういうことなのだ!」


 偉そうに言うことじゃないよね、それは!?

 つまり、今から鍵を探さないといけないみたいだ。

 うーん、見つかるかな?

「ぎきぎぎぎっ!」

 うん、小鬼の像が僕を手招いてる。以前のことがあるから、ちょっと警戒しながら近づくと、小鬼の像は、手に持ってた革ひもを僕の首に掛けた。


 テルアは、階段の間への鍵を手に入れた!


「あ、これ、階段の間への鍵だ」

 僕が革ひもの先についてる金色の鍵をぷらん、とさせると。

 プレイヤーたちの怒気さえこもった視線が飛んでくる。

 っていうか。

「そいつを寄越せぇええええ!」

 襲いかかられそうになった。


「ぎぃぃいいいいっ!」


 小鬼の像が死の呪いを発動した!

 ミアンは死の呪いにかかってしまった!

 ミアンのHPが0になった! ミアンを倒した!


「ミアン! お前ら・・・!」


 さらに、それに憤ったプレイヤーの一人が武器を抜いてしまう。


「待って、ナーガ!」

 僕は制止を掛けたんだけど、遅かった。


 ヒュンヒュンヒュン。


 ナーガの攻撃! ヒルトンの急所にクリティカルヒット! 一撃死の効果が発動した。ヒルトンを倒した!


 あぁ、ヤバイ。ナーガの攻撃でさらに一人倒れたよ。


「俺の前で、一応とはいえ命の恩人を攻撃しようなんざ、いい度胸だな?」

「ぎぎぎぎぎっ! ぎぎっ!」

 ナーガと小鬼がやる気だが。


「ナーガ、小鬼(グレムリン)!」

 僕が二人の名を呼号すると、さすがに二人はビクっとなり、僕の方を振り返る。


「これ以上はダメだ。たとえ君たちでも許さない」

 ナーガはぎりっと唇を噛みながら、渋々僕の方へと戻る。小鬼の像も、かなり不満げな顔をしながらも、同じく僕の方へと戻っていく。


 一触即発。


 そんな緊張感が漂うが。


「やめとくんだなー。それがいいんだな」

 気の抜けるネギボウさんの声で、少しだけ場の空気が緩んだ。


「ひどい言いがかりつけて襲いかけた方が悪いんだな。小鬼の像にも気を付けるよう、最初に言ったんだな。怒らせないようにって。それに、君たちの実力じゃ、テルア君たちには敵わないんだな。これは忠告なんだな」


「俺たちが敵わないだと!?」


「客観的に見て、蹴散らされるのがオチなんだな。テルア君たちをなめすぎなんだな。現にそれで二人やられてるんだな。テルア君に攻撃したらそこの小鬼の像は確実に敵に回るんだな。ダークエルフも強いんだな。ますます勝ち目はなくなるんだな。無駄に死に戻りするよりも、おとなしく通らせた方が、楽なんだな」

 

「・・・・・・そいつらを先に行かせろ」


 全身を緋の鎧で固めた大柄な剣士が、前に出て、指示を飛ばした。

 黒髪黒目。短く刈り込んだ髪は、マサヤに似ている。敵と判別されての鋭い視線。所作にも、強者としての気配が所々で漂っている。


「団長・・・」


「団長の指示だ。従ってもらいたい。武器から手を離してくれ」


 ひょいっと団長と呼ばれた男の隣にやって来た細身の優男が、さらに言い募る。

 こちらは軽剣士といった出で立ちで、赤いバンダナ、赤いチョッキを着ている。団長と呼ばれた男プレイヤーよりも整った顔立ちをしている。

 だが、並び立つと、明らかに団長には迫力負けしていた。


「ちっ」


 舌打ちと共に、武器から手を離す剣士の面々。


「うちのギルドの者がすまない。どうにも血気盛んでな。いつも、むやみにケンカはするべきではないと言っているんだが・・・」

「いえ、気にしてません。それに、こちらこそ失礼しました」

 僕が答えると、団長と呼ばれたプレイヤーは少し目元を和ませた。

 確か、スレイというプレイヤー名だったはずだ。


「君とは、ナガバの森で会ってるな。あの、黒づくめの爺さんに楯突いて、無事でいられるとも思えない。先に行ってくれ」


「わかりました。行くよ、マサヤ、ナーガ」

 僕は二人に声を掛けて、階段に続く扉を開けようとした。

 だけど。


「・・・・・・何?」


 団長が、通り過ぎようとした僕の腕をつかんで引き止めた。


「名前が知りたい。俺は、紅蓮騎士団団長、スレイ。こちらは、副団長のカカシだ」

 ペコリと一礼してくるカカシさん。この人が、例の掲示板の人かと納得した。


「名乗ると多分、面倒なことになるけど?」


「構わない。ずっと、名前が知りたいと思っていた。この機会を逃すと、次はいつ会えるかもわからない。教えてくれ」


 ナーガは馴れ馴れしく僕の腕を掴んでる団長に射殺さんばかりの視線を向けているし、マサヤも少し口をへの字にしてる。このままではまずいと感じた僕は静かに名乗った。


「テルア・カイシ。仲間はテルアって呼ぶ」


 するりと、団長の手が僕の腕から離れた。そのまま、僕はまっすぐに扉を目指す。

「覚えておく、テルア」


 後ろから声が掛かったが、振り向かずに、僕は扉を開けて、マサヤたちと一緒に階段を上がった。しばらくしたら、どうせあの連中も来るんだろうな、と思いながら。

 ようやく、僕らは十階にまで到達したのだった。





「良かったんですか、団長? 敵討ちしなくて」

「本気で言ってるのか?」

 カカシの問いに、スレイはあり得ない、と首を横に振る。

「一見、子どもの姿をしているが、たった一言で、あの小鬼の像も、ダークエルフも従えたんだ。ただ者じゃない」

「やっぱり。敵に回したくないとは思ったんですよ」

「できればギルドに勧誘したいがな。本人の意思次第だろうな」

 まぁ、勧誘したところでおそらくすんなりと入ってはくれないだろう。

 それでも、野放しにしておくには惜しい戦力だ。名前がわかったのなら、メニューから探すこともできる。繋がりを持ちやすくなったのは僥倖だった。


「しばらくしてから、俺たちも十階に上がろう。それと、さっき攻撃を仕掛けた二人をギルドから追放しておいてくれ」

「いいんですか?」

「ナガバの森での一件で、こりていないことが、今さっき証明されたからな。さすがに全員を危険にさらすような真似を二回もされては見逃せない。一回はそれで全滅してるんだ。二度目はない」


 紅蓮騎士団はそこまでガチガチにルールに凝り固まったギルドではない。

 だが、前回の件といい、今回の件といい、トラブルをわざと起こすようなやつらを、仲間にしておくほど甘くもない。

 スレイは、ひとまず他の団員を納得させるために、みなに集まるよう、呼びかけたのだった。


次→19時

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