80話 冒険者ギルドの探索 2
五階まで上がってきた僕らは、あ、と声を上げてしまった。何故なら、五階は冒険者ギルド1階だった受付のあるフロアだったのだ。
だけど入った瞬間僕らは空気が重いことにすぐさま気づいた。
だって、誰もがテーブルに突っ伏して、乾いた笑いを浮かべるか、あきらめきった表情なのだ。
「なぁ、俺たちさ、こんなところで何してんだろうな」
「言うなよ」
「だってさ、外、出られないんだぜ? 食料とか、一応アイテム袋に入ってるけどさ、それが全部なくなったら・・・」
「言うな!今、紅蓮騎士団と魔法使いギルド「レッツ」の連中が、調査に行ってくれてる! そしたら、きっと俺らもここから出られるはずだ! 希望を捨てんな!」
激励を飛ばしていた冒険者の一人は、顔を上げた拍子に僕と目が合った。
瞬間。
「うぎゃぁああああ! 黒い悪魔の連れが出たぁあああ!」
途端、あちこちから阿鼻叫喚の悲鳴が上がり、一時騒然となる。
「テルア。ほんっとお前、やらかしまくってんだな」
「いや、僕じゃなくてこれはじいちゃんの影響だと思うんだけど。僕、ここの人伸したのなんて一回だけだし」
失礼だなぁ、マサヤは。僕は別にここの人全員ボコ殴りとかはしてないよ? 幻惑魔法で悪夢見せたりとかはあっても、ね。
「伸してんのか!?」
「そいつが僕目掛けてナイフ投げてきたからね。あれは正当防衛に入るよ。さて、話は変わるけど。ちょっとさっき聞き捨てならないこと言ってたよね、君たち?」
最近、よく耳にするようになった紅蓮騎士団と、魔法使いギルドの「レッツ」。僕としては、できれば避けて通りたいギルド名だ。
だけど。
冒険者たちは、許してくださいとか、何でもしますから、とか、黒い悪魔が、とか意味不明なことを言い続けてる。
これじゃあ話にならない。
「て、ことで、マサヤ。事情聴取はよろしく」
「また俺に丸投げかよ!?」
「僕じゃ話し相手にならないしね。みんなに話を聞く間、僕は下に降りてるから」
で、僕が下に降りてしばらくすると、マサヤが僕を呼びに来た。無事に話を聞き出せたらしい。それによると。
「どうも、紅蓮騎士団と魔法使いギルド「レッツ」のメンバーが冒険者ギルドの異変調査に来てるらしい。毎度、毎度、お前が行くところに出てくるな、この二つは。いや、この二つがいるところにお前がしゃしゃり出てくる感じか?」
「どっちでもいいよ。どっちにしろ、厄介なだけだから」
冒険者ギルドのおじさんも言ってたけど、今回の異変にはナーガが関わってるらしく、異変調査をしてるうちに、容疑者候補として僕までピックアップされかねない。それは困る。
今回の異変は、僕にも知らされていないうちに、ナーガが動いた。
そりゃ、多少監督責任あるとは思うよ? 思うけど四六時中ナーガを見張れなんて、無理な話だし。
第一、命が助かって、明けて翌日にこんなことをしでかすなんて、普通に予測不可能だと思う。
きちんとナーガに言い含めておけば良かったんだろうけどさ。
ナーガの踊りに付き合わされて、疲れてログアウトした僕がうっかり言い忘れてたとしても当たり前だと思うんだよね。
ま、見つけたらお説教するつもりだけど。
とにかく、今はナーガを見つけるのが先決だ。この冒険者ギルド内にいるとは思ってるんだけどね。
「あと、テルア。悪い、ちょっと付き合ってくんね?」
「え? 何に?」
「冒険者ギルドからの脱出への手助け。中にいる冒険者の大半が、ここから出たいって言っててよ」
・・・・・・それってまさか。
「話聞く交換条件で、引き受けちまったんだよ、下まで降りること。ってわけで、協力よろしく!」
はぁ。だと思ったよ。罠部屋なんかもあるのに、どうして気軽に引き受けちゃうかな。
そうして、僕らは冒険者ギルドでくすぶっていた冒険者と一緒に一階を目指した。
途中の罠部屋と、一階の魔物部屋が厄介だった。1階はどうやら来る度に、違う魔物が出るよう設定されてるみたいだ。なかなかおもしろい仕組みだね。迷宮と変わんないよ。
気づけば僕らは、外に出ていたんだけども、他の人間はやったぁー!と叫びながら外に出られることに対して、僕だけは。
バチッ、バチバチ。
「テルア?」
「結界だね。特定の人間を外に出さないためのものだよ。なるほど。閉じこめられたのは、僕ってことか」
マサヤの表情が険しくなる。
「じいさんの仕業か?」
「さあ? その可能性もあるけど、そうじゃない可能性もある。これは、是が非でも最上階に到達しなきゃだね」
この結界がある限り、僕は外に出られない。
僕は、冒険者ギルドの最上階到達をどうしても果たさなきゃならないらしい。 最上階でおかしなことになってなきゃいいけど、と思った。
次→19時




