76話 やったね!
クレストのおじさんにボコられた後、僕はホネッコに会いに、じいちゃんにヴィアイン山まで送ってもらった。
ティティベル様との勝負について、僕はナガバの森入口にいたクレストのおじさんを見て、唐突にホネッコを思い出したからだ。
なんで、ホネッコ??と最初は疑問に思った。ホネッコの空中散歩があまりにひどい思い出だからだろうか、なーんて思った瞬間、閃いた。
ティティベル様をホネッコの背中に乗せて、空中散歩に付き合わせてみたらどうかな、と。
で、絶対に声を出したらダメとかの条件を付けるんだ。
前に、そんな風に笑うと、ハリセンで叩かれたりする番組をちらっと見たことがある。
それに似てるね。
と、なると必要なのはホネッコの許可と、どうやったらティティベル様が怖がるかの実験だ。
実験台は・・・ナーガにやってもらおう! そうしよう!
と、僕の頭の中では組み上がり、無事にホネッコをヴィアイン山で見つけて許可を得て、アールサンの草原に連れてきた。
それでナーガを実験台に、じいちゃんの知識と絶叫マシーンの資料に助けられて、ホネッコ空中飛行は、満足いく出来になった。
これに乗ったら、誰でも絶叫マシーンの恐怖を知ることができます! をコンセプトにやってみたので、最後の方はナーガが耐えきれずに気絶しちゃったんだけどね。
ちなみに、ナーガが気絶した後はクレストのおじさんが乗りたがったのでバトンタッチ。クレストのおじさんはいたくホネッコ空中飛行がお気に召したらしく、何回も乗りたがった。
乗って、一回転半捻りに大笑いだよ。さすが武神。こういう不安定な乗り物には慣れてるみたいだった。
そうして、迎えた当日。ティティベル様を乗せて、ホネッコ空中飛行を開始したんだけど。
やっぱり三十分は長かったみたいで、色々工夫を取り込んでみたんだけど、半分の15分を経過すると、ティティベル様は気絶しちゃった。
キャーキャー叫んでたから、勝負は完全に僕らの勝ちだ。やったね!
ただ、三十分が経過して、僕たちがホネッコから降りてくると、ナーガが何も言わずにティティベル様の介抱を始めた。
甲斐甲斐しく、酔い醒ましと、気付け薬をティティベル様に飲ませてる。
薬のおかげで気がついたティティベル様は、まだ空中飛行が続いてると勘違いして、大きな悲鳴を上げたんだけど。
「ティティベル様。安心してください。もう、終わりましたから」
「きゃぁぁああ・・・あ? おわ、た? 終わった・・・の?」
「えぇ、終わりました。お疲れさまでした」
途端、ティティベル様の瞳にじわっと涙の膜ができて。ティティベル様は、間近にいたナーガに抱きついた。
「こ、こわ、かった。振り落とされるって、思って。前、見えないし。後ろ向きにも動くし・・・! 一回転どころか、二回転とか、三回転とか! 足なんてブラブラするし!」
「本当に、あれは怖いですよね。俺なんて、あれに何回も乗せられたんです」
「何回も乗ったの!?」
「えぇ、まぁ。嫌だって言っても、乗せられて・・・最後は倒れましたけど」
ナーガのげっそりとしたやつれ具合は、実は実験台になったせいだった。
でも安全は確保しないと、乗せられないし。何回か実験途中にナーガ、イスから落ちかけたしね。それに、乗るときは僕も不安定なホネッコの上だったよ。
そう二人に告げると。
「お前と(あなたと)一緒にするな(しないで)!」
二人に怒られた。僕もなかなか大変だったのに。不安定な足場の上で、イスの角度の調整とか、後ろ向きにしたりとか。それに、ティティベル様は視界が塞がれていて気づかなかったけど、かなり高くホネッコは飛んでいたのだ。一歩間違えば僕も大怪我してた可能性高かったんだけどねぇ。
まぁ、絶叫マシンに乗ったことのない二人には、かなり怖い体験だったみたいだ。
「勝負はティティベルの負けじゃのぅ。あれだけ叫んでたんじゃ、文句はあるまいて」
「ずいぶんと大きい悲鳴だったな。ここまで届くとか、ある意味すげぇ。俺は、乗ってて楽しかったが」
外野の二人は色々言ってるけど、ともあれ。勝負は完全に僕らの勝ちだ。
「それじゃあ、ティティベル様。もう大分回復しましたよね? ナーガの徴を消して、ナーガのこと、不問にしてくださいね」
ティティベル様は、ようやく自分がナーガに抱きついていることに気づき、ばばっと離れた。
「ち、違う! 贄にすがりついたりとか、こ、怖かったなんて、思ってない! それに、声だって! あれはそう、気持ち良くて、声が出ただけ!」
ティティベル様が、震える声で強がりを言う。僕は、それを真に受けた振りをして、提案してみる。
「あれ? そうですか。それなら、もう一回行ってみます? 実は、後半もっとすごいことやる予定だったのに、できなくて、ちょっと不満が残る結果だったんで・・・」
「もういい! 一回でいい! 十分!」
ティティベル様は慌てて、乗ることを拒んだ。
うん、まぁそうだよね。ちょっと残念だなぁ。頑張って、イスに回転がかかる魔法の練習もしたんだけど。
「なら次は俺が乗ってきていいか?」
「ホネッコが疲れてないなら、別にいいと思うよ、クレストのおじさん」
そわそわしながら、僕に言ってくるクレストのおじさん。
おじさんはよっしゃ!と、早速ホネッコのところまで行って、ホネッコに空中飛行を頼んでる。
ホネッコは二つ返事で頷き、一人と一体がまた空へと舞い戻ってる。
「行ってらっしゃーい」
二人に小さく手を振りながら、僕は地上で見送った。
「テルア!」
名前を呼ばれ振り返ると、ナーガが晴れ晴れした表情で嬉しそうにティティベル様の徴が消えたことと、今後ティティベル様に狙われなくなったことを報告してきた。
ティティベル様は既に元の自分の居場所に帰ったようだ。
良かったね、僕も頑張った甲斐があったよ!
これで僕のお役はごめんだね!
僕がそんな風に考えてると、ログが流れた。
シークレットクエストNo108をクリアーしました!
称号・堕ちた月神を制した者を獲得した!
シークレットクエストNo109、No110、No111、No112が開放された!
ナーガが仲間に加わった!
最後に出たログを僕は二度見する。ナーガが仲間になったって、まさか。
「あの、ナーガ。いつのまに僕の仲間になったの?」
「うん? 仲間っていうか。最後にティティベル様に、お前のことをしっかり見張れって頼まれたんだよ。報酬ももらえてな。だから、俺はお前から離れる気ねぇんだ」
ナーガが上機嫌で話してくるんだけど、なんでだろ。ここから逃げたした方がいい気がしてくるのは。
じりじりと僕は後退するんだけど、気づいてるのか、ナーガはさりげなく距離を詰めてくる。
「ねぇ、ナーガ。なんで、僕の方に近づいてくるの?」
「ん? それはだな、ティティベル様が消える前に一つ助言をくれたんだよ。・・・お前と仲良くなるためには、一緒に踊るのが一番だってな! ってわけで、命狙われる心配もなくなったし、思う存分踊ろうぜ、テルア! 色んなステップ教えてやるし! あー、長かった! やっと踊れる!」
ティティベル様、余計なことを! ダメだ、完全にナーガの踊りスイッチが入っちゃってる! 逃げないとこれはヤバイ!
僕は逃亡しようとしたんだけども。踊りが絡むと人が変わるナーガにすぐに捕獲されてしまい(弓矢で人の服縫い止めるのは反則だと思う!)。ナーガの気が済むまで、踊りに付き合わされたのだった(泣)。
テルアの舞踏のレベルが上がった!
次→19時
 




