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75話 それでは、しゅっぱーつ♪(※多数視点)

 朝からえらく機嫌のいい(良すぎる)友人の輝に、正也はなぜか嫌な予感がしていた。

 「ファンタジーライフ」のゲーム配信から、後一週間でちょうど一月経過する。だが、それはそこまで長いとも言える期間ではない。その間に、この友人がやったことを思い返してみると、本当にお前は何をやった、何を! と、突っ込みどころが満載過ぎる。


 最近おとなしかったために、すっかり忘れていたが、そういえばこういう奴だった、とゲーム内での無茶苦茶ぶりを見て正也は思い出した。


 「テルア・カイシ」はゲーム内で大体やることが一貫している。もふもふの魔物や動物を仲間にしたいがため職業は常に魔物使いを選択する。そこまではいい。

 そこまではいいのに、なぜか毎回ゲームプレイがおかしなことになるのは何故なのか。大蜘蛛とお助けキャラというには強すぎるじいさんを仲間にし、レベル1であり得ないステを叩き出し、ナガバの森の異変に何故か深く関わり、と。


 ゲーム内での友人はまさしく台風の目だ。

 本人は中心にいるからまるきり無事で、周囲だけが暴風で被害を受けまくるという。

 はた迷惑極まりないプレイヤーである。

 そして、正也は確信してる。

 絶対にゲーム内で「テルア・カイシ」を敵に回してはならない、と。


 敵に回したが最後、敵認識された誰もが心を折られると思う。と、いうかよく自分、あれとゲームができたなと、過去の自分を振り返って感傷に浸る。

 規格外過ぎ、予想外すぎる。

 だから、周囲にいると心配させられたり、はらはらさせられたりすることの方が多い。

 ちなみに、朝から悩んでいた問題は、輝の「あんまり悩みすぎると白髪になったりハゲるよ? ただでさえ、むれやすい防具つけてるんだし」の一言で棚上げすることにした。よく考えてみると、正也が悩む必要など全くない問題だった。


 昼休み、正也は輝と一緒に昼食を摂りながら、輝の機嫌の良いわけを聞いてみた。ここまで機嫌がいい輝は、はっきりいって不気味だ。何か企んでるに違いない。


「なぁ、なんかすっげぇ機嫌いいのな、輝。なんで今日はそんなに楽しそうなんだ?」


「うん! 実はね、今日はドッキリ大作戦決行日なんだ!」


 輝は嬉しそうに正也に話した。

「昨日、頑張って準備したんだよ? みんなにも手伝ってもらってさ。相手、ゲームキャラなんだけど、恐怖で泣き叫ぶくらい、驚いてくれること間違いなし! 僕の作戦に不備はない! ・・・・・・なんたってそのためにナーガには昨日、散々実験台になってもらったし」

 後半は聞き取れないくらいの小声で輝は呟いた。

 とにかく、ゲームキャラに対して何か仕掛けるらしい。


「まぁ、相手がゲームキャラなら、そんなおかしなことにはならない、か?」

 プレイヤー相手では色々おかしなことになるし問題にもなってしまいかねないが、ゲームキャラ相手なら大丈夫だろう。

 そう正也は暢気に考えてしまった。


「うん! じいちゃんやクレストのおじさんからもお墨付きもらえたんだ〜。久々に物理の勉強してて良かったって思ったよ!」

 まぁ、なんにせよ。そこまで変なことにならないだろうと予想していた正也だったが、翌朝予想は見事に裏切られ。


「輝ーーーーーーーっ! お前ってやつは、またしでかしやがったな!? なんだよ、昨日のあれは!」

 と、朝練後に友人を捕まえて叫ぶことになるという未来が待っているのだった。



 

 己の居城の自室のソファーでくつろいでいた少女は、ピクリと反応した。

 昨日、生意気な人間から賭けを持ちかけられ、彼女はそれを受けた。

 そして、ようやく彼女に連絡が入ったのだ。

「待ちくたびれた」

 彼女はソファーから身を起こした。少し伸びをする。彼女の名前はティティベル。神の末席に連なる者だ。


「でも、様子が伺えなかったのは予想外。遠見の道具、壊れるし。妙な結界も張ってあって、全然何してるかわからなかった」


 彼女の左目を用いても、覗けない高度な結界など張れるものは限られている。

 おそらく、誰かしら神の位にいるものが、協力しているのだろう。

 それが少し、懸念材料と言えば懸念材料だが、その程度で臆するティティベル神ではない。


「だけど、最後に勝つのは、あたし。神に挑む愚か者。思う存分にいたぶって、可愛がってあげる」

 ふふふ、と、小さく笑みを漏らすティティベル神は、この後自分を待ち受けるテルア曰く「ドッキリ大作戦」がどんなものかまったく知らないまま、約束の場所に向かったのだった。それが、不幸の始まりとも知らずに。


「あ、こっちです。ティティベル様!」

 ティティベルが転移魔法でアールサンの広場に着くと、大きく手を振りアピールするテルアと、どこかやつれ果てたダークエルフのナーガが待っていた。


「・・・・・・・・・・・・来たんですか、ティティベル様」


 ナーガは、暗い顔のまま、ティティベルに話しかけた。その顔色を見るに、どうやらやはり一日ではティティベルに勝てる算段などつけられなかったと思われる。ひそかにティティベル神はほくそ笑んだ。

 やはり、不可能なのだ。自分と勝負して勝つなど。

 自信を持った彼女だったが。それにしては、テルアと名乗った子どものあの満面の笑みはなんだろう。

 もっとこのダークエルフみたく暗い顔をしていなければおかしいのではないか。

 そう疑問に感じたが、ティティベル神は周囲に他の神の気配がないことを確認し、自分の勝利を確信する。

 それが、ただの過信であったことに後々気づかされるのだが。


「じゃあ、少し移動しましょうか! 近くの草原に準備がしてありますから!」

 ハイテンションのまま、テルアは先頭に立って、アールサンの大通りを歩く。

 その後ろに、ティティベル神、ナーガの順に続いた。

 

 草原に着くと、ティティベル神は、舌打ちしたくなった。草原に、二人見知った顔があったからだ。


「武神と魔神。なんでここに?」


 ティティベル神が訊ねると、黒髪の偉丈夫であるクレストと、老人姿の魔神ジャスティスは振り返った。

 ティティベル神が二人の気配に気づかなかったのは、どうやら草原一帯に気配殺しの結界が張られていたからだ。張ったのはおそらく魔神だろう。


「いや、なに。おもしれぇことやるなと思ってな。ちょっと見学させてもらおうと思ってな」

「同じく、儂も見学じゃ。お主らの勝負に手出しはせんから、安心せい」

 魔神と武神はそう言うが、警戒を解かないティティベル神に、二人は誓いを口にした。


「信用できねぇなら、仕方ねぇ。武神クレストの名に於いて、ティティベル神と、我が眷属テルア・カイシ・クレストとの勝負を邪魔しないことを誓う」


「同じく、魔神ジャスティスの名に於いて、ティティベル神と、テルア・カイシ・クレストとの勝負を邪魔せんことを誓う。これでいいじゃろ? 儂らは横槍も何も入れんわい。思う存分勝負せい」


「そういうことなら。わかった」


 神の名での誓いは破れない。二人が公平にどちらにも手を出さないなら、安心してティティベル神も勝負に臨める。


「それじゃあ、ティティベル様も納得されたところで、勝負の方法を説明します。そこに、イスが用意してあります。ティティベル様にはそこに目隠しをして座ってもらい、三十分声を出さずにいればティティベル様の勝ち。三十分以内に一言でも声を出したらティティベル様の負けです。この勝負を受けてもらうのに、ティティベル様には神の名前での誓いを立ててもらいます。いいですか?」


 ティティベル神は、そのテルアの説明に不満を抱いた。


「あたしだけリスクを負うのはおかしい。そちらも、あたしと同じリスクを負わなければ、勝負は成立しない」

「ええ。なんで、じいちゃんとクレストのおじさんに来てもらったんです」

 テルアが目配せすると、武神と魔神は再び誓った。


「武神クレストの名に於いて、もしもこの勝負にテルア・カイシ・クレストが負けた場合、その所有権をティティベル神に委ねることを誓う」

「魔神ジャスティスの名に於いて、この勝負の審判を公平に務めることを誓う」


 ここまでされては、さすがのティティベル神も文句は言えない。


「・・・堕ちた月神ティティベルの名に於いて、もしも勝負に負けた場合、そこのダークエルフに付けた徴を消し、彼の者の罪を不問とすることを誓う」

 これで、ようやく舞台が整った。

 笑顔のまま、テルアはティティベル神にイスに座るよう言う。

 ティティベル神は、おとなしくイスに座ろうとした。

 そこにナーガは暗い顔のまま、近寄り、ティティベル神に問う。

「・・・・・・本当にやるんですか、ティティベル様。やめた方がいいです、絶対。これ、自分が助かりたくて言ってるわけじゃなく、善意からの忠告なんですが」

「神が一度受けると決めた勝負から、逃げ出すわけがない」

 左目で睨みながら、ティティベル神が力強く断言すると。

 ナーガはそれ以上何も言わずに、テルアの横へと戻った。

 

 さすがのティティベル神も気づいている。

 こんなところにあるイスだ。絶対に何か仕掛けがしてある。

 警戒しながらも、ティティベル神が今度こそイスに座る。


「あ、それと目隠しです。どうぞ」


 ティティベル神が目隠しをはめると、何も見えない暗闇に視界が閉ざされた。


「それでは、よーいスタートと言ったら、始めますね。よーい、スタート!」

 ティティベル神は黙っているだけだ、簡単だとたかをくくっていたのだが。

 突如地面が動いた。それに合わせて、イスもぐらぐらと揺れる。

 何事かと問いかけそうになったティティベル神は、慌てて口を閉じた。

 


「それでは、一時、快適ではない空の旅へしゅっぱーつ♪」

 イスの下に、隠れていた骨竜のホネッコが地面から、姿を現す。そして、そのまま空へと舞い上がった。

 口元には、テルアが鋼糸でぶら下がっている。

 そして、ホネッコの背中にはティティベル神が座ったイスがくくりつけられていたが実はこれにも仕掛けがあり。

 ガタンとホネッコの骨からイスがずれ落ちて、浮遊感がティティベル神を襲う。

 続いて、イスがぶらん、とミノムシよろしく足が空に浮いたままで固定される。それをテルアはさらに不安定な姿勢になるように鋼糸で固定し直した。

 鬼である。

 そのまま、ホネッコが上機嫌で宙返りや、一回転半捻りを始める。さらには昨日実験台としてナーガが一番悲鳴を上げた後ろ向きまで加えての空中飛行。

 さて、目隠しのまま、そんな状態に置かれたティティベル神はと言うと。


「・・・・・・・・・!!? っ、きゃぁああああああ! やめ、止めてぇぇええええ!」


 当然、開始一分で早々に泣き出したのだった。

 さんざん昨日実験台にされたナーガが、ティティベル神の泣き叫ぶ様を見て、「だから止めたのに」と、地上で呟いていた。


次→ 5/21 8時

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