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73話 勝負

 ひとまず、詳しく話を聞きたいと僕がせがむと、ナーガは半分自暴自棄になりながら、僕に事情説明してくれた。


 一月前、ダークエルフの村に住んでいたが、奉っていた神様への生け贄にされそうになったこと、それが嫌で儀式の途中、儀式を邪魔して逃亡したこと、だけど、逃亡してすぐにあの追っ手に捕まりそうになり、記憶が曖昧になったこと、それから、地下牢で目を覚まして、後は僕が知っての通り、と。

 なかなかナーガもスリリングな人生歩んでるんだね。だから、スキルとかが高いのかな?


 なんて思ってると、早速僕らは次の追っ手に遭遇した。

 神の眷属であり、神の目であり、神への反逆者を裁くための魔物。

 ちょうど良いね。


 ナーガの追っ手としてやって来たのは、今度は大きな蜂だった。僕は蜂を取っ捕まえて、ナーガを狙う神への伝言係にした。伝言の内容はこうだ。


 ーーーーーーこの蜂の主である神様。僕らと、ひとつ、賭けをしませんか?

 神様が勝てば、ナーガに加えて僕の命を差し上げます。ただし、神様が負けた時、ナーガを許して、ナーガのことを助けてもらいます。

 賭けにのるかどうか、神様からの返事をお待ちしてますね。

 


「なぁ、テルア」

「ん? どうかした、ナーガ」

 僕らは今、ナガバの森の出口へと向かっていた。


「いやな、あんな伝言で良かったのかと思ってな。あれで向こうが乗ってこなかった場合、どうするんだ?」


「その時は、ナーガを狙う神様を挑発するんだよ。追っ手にこう言えば良い。神様は臆病風に吹かれて、僕らの賭けを断るんですね。そんな神様、僕らは怖くありません。追っ手が来ようが、全員返り討ちにしてみせますよ、ってね。ついでに臆病風に吹かれた神様として、アールサンの街で吹聴させてもらいますとも言えば、さすがに乗ってくるかな、と。・・・・・・ん?」


 唐突に、周囲の空気が変わった。ピリピリと肌を差す空気には、濃厚な怒気が含まれている。

 それらの発信源はというと。

 一人の少女だった。

 黒の猫耳帽を被っているが、よく見るとそれはフード付きの上着のようだった。フードから覗く顔は、左目を黒い眼帯で覆い隠してる。肩の辺りで切り揃えられた銀糸の髪がさらりと揺れた。

 片方だけ出されている右目の色は月の色。淡い黄金色だった。

 年齢は、十五、六歳くらいだろうか。

 なかなかの美少女だ。

 上着の下には、胸元に白い花を模した、丈が短めの紺色のワンピースを着ている。

 スカートから出た足は、ブーツを履いており、実はシークレットブーツなんじゃ、と僕は邪推してしまう。


 身長が僕らとあんまり変わらないからね。すごい小柄な少女だった。


 ただし、少女が放つ威圧はじいちゃんに迫るものがある。なるほど、これが。


「よくも、好き勝手にあたしのことをほざいてくれたわね」

 少女が僕のことを睨んでくる。

 

 ??????からの威圧! テルアは抵抗した。力が少し下がった!

 ナーガは抵抗に失敗した。ナーガのステータス全てが大幅にダウンした!


「へぇ。やはり、あなたが、ナーガを狙っている神様なんですか。こんな可愛らしいとは思ってなかったです。直接お会いするのは初めてですね。僕は、テルア・カイシ・クレストです。神様は、なんとお呼びすれば?」

「ティティベル。あたしのことはティティベル様と呼びなさい」

「はい、それではティティベル様とお呼びします。さて、ティティベル様が直接僕らに会いに来てくださったということは、僕らの賭けを、受けてもらえるのでしょうか?」

 僕がにっこりと笑みを浮かべながら問いかけると、ティティベル様はうっすらと微笑んだ。ただし、右目にはしっかりと怒りを宿したままで。


「いいわ、受けてあげる。ここまで虚仮にされて受けないなんて、神の名折れだから」

「勝負方法は、僕らに決めさせてもらっていいですか? でないと、神様にとって有利すぎますし。ハンデをもらわないと、僕らが負けるのは目に見えてますしね。神様と僕らとじゃ、色々能力に差がありすぎますから。結果がわかりきった勝負なんて、賭けが成立しないですし」

「いいわ。そちらの条件を全て飲んであげる。その上で、あたしが勝利して、」


「お前をあたしの奴隷にしてあげる。その時になって泣いて謝っても絶対に許さない」


 隣にいたナーガは、ティティベル様の凄みとほの暗い愉悦を宿した笑顔を直視してしまい、ガタガタと震え出す。

 うわぁ、正直僕もあの笑顔に恐怖覚えちゃうよ。負けたら地獄も生易しいって目に遭わされそうだ。

 だとすると、このティティベル様という神様は。


 ・・・言っちゃ悪いだろうけども、どこか壊れているんだろう。


 人を傷つけることに喜びを見出だす神様、か。怖いね、本当。


「ええ。では、その条件で。勝負は明日でも、よろしいですか? おそらく時間は日没前ぐらいになります。場所は・・・アールサンの街の広場に集合というのでどうでしょう?」

「そちらの条件を全て飲むって言った。時間も場所も気にしない」

「ありがとうございます。では明日、僕がログインし、勝負の準備が整いましたら連絡を入れます。連絡方法はどうしましょう?」

「簡単。そのダークエルフに話しかければわかる。そしたら転移で来る」

 僕は、わかりました、と頷いた。第一関門はこれでクリアーだ。


「それでは明日、アールサンの広場で」

「楽しみ。どんな条件でも、あたしが勝つ」

 それはどうだろうね? と僕は心の中だけで反論した。

 ティティベル様は来たときと同様、転移で元の場所へと帰っていった。


 こうして、ティティベル様と僕らの賭けは成立した。

 勝負の行方は明日決まる。

 その間に、色々と準備が必要だ。


「ちょっと急ごうか、ナーガ。森の出口まで」


 スピードアップを掛け、森の出口へと行くと。そこには死屍累々といった有り様のプレイヤーたちが倒れていた。そしてその中心には、二人(・・)の人物。

 その二人を見た瞬間、ナーガは彫像と化した。


「・・・じいちゃん。クレストのおじさん。何やってんの」

「ん?おお、テルア! 無事じゃったか。実はこの暴れ牛のような武神が唐突にやって来てのぅ。ここにいた者をみんな伸してしまったんじゃ」


 じいちゃんは困ったと言わんばかりに頭を振った。


「おい、爺。さりげなく嘘つくんじゃねぇよ。半分はテメェの仕業だろうが」

「ん? 儂の方はちゃんと手加減してやっとるぞ。お前さんはみーんな死に戻りにしてしもうたが」

 なんだって!? ちょ、聞き捨てならないんだけど! 確かに倒れてるプレイヤーは最初見たときより数減ってるけどさ! 


「テメェが多人数との戦いなんておもしろそうなことやってたからだろ。血が騒いだんだよ。元々俺は手加減しない主義だからな」


 そこは手加減してあげてよ、クレストのおじさん! ここにいた紅蓮の騎士団のギルドのプレイヤーさんたち、気の毒すぎる。完全に負けイベント確定だよ、こんなの。


「ん? ちょっと待って。クレストのおじさん、じいちゃんが戦ってるってことどうやって知ったの?」

「そりゃこいつのお陰だな。ククに貰ったんだ」 


 クレストのおじさんが僕に渡したのは、鏡だった。きれいな鏡だ。ただ、鏡面にちょっとヒビ入ってるけど。


「そいつぁ、遠見の鏡だ。魔力を流し込めば、遠くの見たい風景を映してくれる、なかなか便利なもんでな」

「へぇ、だからじいちゃんが戦ってるのがわかったんだね。納得」


 僕は鏡を眺めながら、ふと気づく。


「ねぇ、クレストのおじさん。これ、遠くの物を見られるんだよね。ティティベル様のことも見られる?」

 ティティベル様がどこにいて何をしてるか少し気になった僕は、鏡で見られないかと思った。

「見たいんなら、貸してやるぞ。使ってみろ」


 遠見の鏡を使いますか?


 ログが出たのではいと返事をすると。


「テルア!」

 パリィィイイイイイン。

 唐突に鏡が割れた。え? なんで? どうしてこんな・・・。


「どうやら、向こうもこっちの動きを道具か何かで見ていたようじゃの。遠見の鏡が、その魔力を跳ね返した反動に耐えきれずに、割れてしまったんじゃ」


 つまり、僕ら、ティティベル様に監視されてたってこと?

 うわ! やばかった。あのまま鏡を使わずにティティベル様への対策やろうとしてたら、こっちの動き筒抜けだったってことじゃん!


「まぁ、そいつは最高級品だって話だから、あっちの遠見の道具は全滅だろうな」


 偶然だったとはいえ、クレストのおじさんがここにいてくれて助かったよ。

 でも、遠見の鏡割れちゃったんだけど、どうしよう?

 その後壊れた鏡はクク神に渡せばすぐに直してくれるから心配しなくていいと言われて、僕はクレストのおじさんに感謝した。

 その後、少しだけ戦いに付き合わされたんだけどね。もちろん、一人じゃ歯が立たないから、じいちゃんの援護ありで。

 適当なところで、なんとか謝り倒して勘弁してもらった。


 明日の準備がようやくできるよ。

 がくっ。


次→ 5/20 8時

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