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64話 報い

 ソファーはかなりふかふかしていた。そこに座ると、疲れ果ててるにも関わらず、僕に水の入ったグラスを持ってきてくれるおじさんたちに感謝だね。

 お礼を言いながら、受け取る。


「さーて、まずは自己紹介からだろうな。俺は、ナーガ。見ての通り、ダークエルフだ」

 ナーガは紫色の瞳に、長い黒髪の少年といった風貌だ。少しつり上がり気味の瞳、尖って長い耳が、髪の間からぴょこんと出ている。褐色の肌には、踊っていた影響か白の衣類が張りついていた。

 対峙して、改めて感じる。ただ者ではないオーラみたいなものがナーガから漂ってく府る。

 ナガバの森で出会った時よりも、強い気がする。

 先程までの、穏やかで優しい陽気なお兄ちゃんといった顔は、もはや微塵もない。

 踊りが大好きなところは疑っていないけど。


「僕は、テルア・カイシ。人間だよ」

「テルアって呼び捨てでいいか? 俺のことも呼び捨てで構わねぇから」

 いいよ、と返事すると、ナーガは目を細めて口角をつり上げた。

 しかし、すぐにそれは無表情にとってかわる。

 真面目な顔もできるんだね。でも、ちょっと残念だと思うのは、彼から人間味が感じられなくなったからだろうか。


「テルア。さっきもちらっと言ったがよ俺は、大体一月前から昨日までの記憶がねぇんだ。だから、お前が俺に襲われたという話も、俺自身では疑いを抱いてる。嘘だとも、本当だとも俺は言えねぇ。記憶がねぇからだ。ここまではいいか?」

「ええ」

「その上で、俺は俺の記憶がない時に何が起きたのかを知りてぇ。テルアさえ良ければ詳しく話してもらえねぇか? 礼くらいはする。だから、頼む」


 ナーガは立ち上がり、僕に頭を下げて頼み込んだ。

 僕は驚いた。こんな風に頼める人間・・・じゃなかった、ダークエルフが何人いるだろう。少なくとも、僕よりもナーガの方が礼儀正しい。

 僕は、ナーガの願う通りに、ナガバの森であった出来事を話した。


 ナガバの森で、黒鋼蟻たちが入口付近に居座っていたこと。そして、黒鋼蟻たちは幼虫たちがいたために、ナガバの森入口に集まってしまったこと、幼虫に僕が近づくと矢を射かけられたこと、矢を射かけてきたのがナーガだったこと、ナーガを倒してアリたちの巣に向かうと黒い(さそり)がいたこと、蠍を金と銀の鹿が倒してくれたことも、僕は包み隠さずにナーガに話した。

 時折質問を加えながらも、基本的に静かに聞き終えたナーガは、無表情を崩した。

 長いため息を吐き、小さな手のひらで、顔を覆う。まるで、僕に顔を見られたくないように。


「悪かったな、テルア。知らない間に迷惑かけちまったみてぇだ。疑ったことと、迷惑かけたこと、両方謝らせてくれ。すまなかった」

 再び、ナーガに頭を下げられた。僕は、気にしていないことを伝え、顔を上げてもらう。


「僕からも聞きたいことがあります。どうして、僕の話を信じたんですか? 僕が嘘をついてる可能性もありますよね?」

「いや、テルアは嘘をついてねぇ。こんな(なり)でも、長く生きてんでな。相手が嘘をついてるかどうかくれぇ、話してる最中でも勘でわかんだ。それに、ここでテルアが俺に嘘をついてどんな得がある? 俺を好き勝手する? 俺に言うことを聞かせるため? 出会って間もねぇ相手を陥れんなら、もっといいやり方だって、それこそ数えきれねぇくらいあるだろうよ。嘘をつくには、リスクと見返りが釣り合ってねぇ」

「僕は、そう思いません。だって、ナーガはただ者じゃないでしょう? そのナーガを好きにできるなら、嘘でもなんでもついて、信用を得ようとしませんか?」

 ナーガはこらえきれないといったように笑った。

 え、どこかおかしなところがあったか?と僕は焦ったんだけども。


「あのよ、テルア。悪者ぶるなら、もっとうまくやりな。その程度じゃ、俺の目は誤魔化せねぇよ。その指に嵌めてる指輪が証拠だ」

 僕がグラスの水を飲んだときに目敏く見つけたのだろうか。ナーガは僕の嵌めてる指輪の話をし始めた。

「指輪? こんなものがどうして信用の証になるんですか?」

 僕が不思議そうに嵌めてる指輪を見下ろすと、ナーガは口角をつり上げた。


「それ、ただの指輪じゃねぇだろ。恐ろしく高度で強い、精神を守る魔法がかかってる。だけど、その指輪は俺が見た限り、持ち主を選ぶ。よほどでなけりゃ、それの持ち主になれねぇ。本当の極悪人だったら、指輪を身に付けた瞬間、指輪に拒まれて、一瞬で廃人にされちまうだろうな」

「いい!?」


 ちょ、ここに来てさらに指輪の怖い事実が発覚!? なんだか色々な意味で、この指輪やばくない!? 呪われてない、それ!?


 僕は必死に指から指輪を外そうとしてみるものの、当然、抜けるはずもなく。

 がくりと項垂れる結果に終わった僕に、ナーガは笑い声を上げた。恨みがましくナーガを睨むと、ナーガは笑いを収める。


「とにかく、俺がテルアを信じるのはその指輪を嵌めても平気でいるからだ。単純明快だろ?」

「僕としては、呪いの指輪の怖い事実を聞かされて、今日から悪夢にうなされそうだけどね」

 あ、敬語抜けた。ま、いいか。ナーガは気にしてないみたいだし。


「とにかく、ナーガが僕も、僕の話も信用したってことはわかったよ。指輪のおかげってのは、ちょっと複雑だけど。僕からも、聞きたいことがあるんだ。さっき、アリの巣に出た(さそり)の話をしたけど、その蠍がなんなのか、どうやって対抗すればいいのか、知ってたら教えてほしい」

「・・・・・・なんで俺に聞く?」

「アルルン様に相談したら、ダークエルフに聞きなさいって言われた。もしも、ナーガがあれの正体と、対抗する術を知ってるなら僕に教えてほしい」

「蠍、か。どうやら、俺が出会ったやつっぽいな。俺の最後の記憶は、黒い蠍に襲いかかられたってところで途切れてんだよ。あれの正体は俺も知らねぇ。けど、対抗する手段は知ってるぜ!」


 その瞬間、ナーガの纏う空気が変わった。僕はナーガと視線が交わった瞬間、背筋に悪寒が走り抜けた。

 ナーガは、喜色満面の、輝く笑みを浮かべてる。

 その笑顔はとてもイキイキとして、楽しそうで。踊ってる最中の彼が浮かべる笑みにそっくりだった。

 この時点で、逃げるべきだったと僕は後悔する羽目になる。


「それは、踊りだ! あいつは、全身全霊の魂を込めた踊りを踊ると、弱体化する!」

「ええっ!?」

「この俺が生き証人だ! ってわけで、早速練習だ、テルア!あぁ、やっと踊れる!」

 逃げようとした僕は、なぜかがっちりと後ろからソファーにぬいとめられた。

「!?」

「さっきはよくも見捨てようとしてくれたな、小僧?」

 げっ。受付のおじさん。

「こいつ、兄貴の踊りに酔いしれて、とても声が掛けられないって言ってたんですよ。きっちり、しっかりしごいてやってください!」

「ちょ、僕、そんなこと一言も言ってないから!」

 慌てて反論するも、手遅れで。

「そうなのか、テルア! よし、一朝一夕じゃ身に付かねぇだろうけど、基礎からきっちり仕込んでやるから、心配すんな!」


 ぎゃぁあああああ! 誰か助けてぇぇえええ!

 その後、僕はノリノリのナーガにきっちりと深夜まで踊りの練習をさせられたのだった。


 テルアは、舞踏を覚えた!


次→ 5/14 19時 

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