59話 クエスト08―2
「うわぁ。なに、これ。僕、見たことないよー、こんなのー」
馬車に揺られること、およそ一時間。その間、僕は魔法の練習でスキル上げしてた。おかげでちょっとだけ唄魔法と神聖魔法のスキルが上がった。
それで、ようやく目的地に着いたんだけども。
その第一声がさっきのムアさんの言葉だ。うん、すごく気持ちわかる。
僕もまったく同じ気持ちだから。
ナガバの森の入口に、黒い集団がモゾモゾゾワゾワと蠢いている。ただの集団じゃない。
一体が大人よりも大きなアリの集団だ。
魔物名は、確か黒鋼蟻。このアリは、外骨格が非常に硬く、ダメージを与えるなら、頭と胸の節の合い間を狙うのが常道だ。
だけど、数が尋常じゃない。
そのアリの集団は、まるで僕らの行く手を阻むように、森の入口にたむろしている。
「ムアさん。ナガバの森の入口って、いつも黒鋼蟻がいるものなんですか?」
「そんなわけないよー。僕が知る限り、この黒鋼蟻は森の奥の少し手前にでも入り込まない限り、出てこないしー。なんでこんなにいるんだろうねー。僕も不思議だけどー、困るー。このままじゃ森に入れないしー」
「うーん。本当に困りましたね。このままじゃ、森に入る以前の問題ですし。あれ?」
キラッと僕の目になにか光って見えた。あれがもしも見間違いじゃなかったら、アリたちがこんな場所にいるのも頷ける。
「レベル1で、あの中に飛び込むのはかなり勇気がいるなぁ。まぁ、やってやれないことはないかな」
僕が準備を整えてると、ムアさんが僕の方を振り返った。
「何する気ー? まさか、あのアリたちの中に入り込む気ー? さすがに死んじゃうよー?」
「やってみないとわかりませんよ。まぁ、それなりに修羅場は経験してるんで、今さら怖じ気づくとかもないですしね。もしも僕があのアリたちをなんとかできなかったら、クエストは失敗扱いで、神殿に戻ってくださいね。冒険者ギルドに報告しなきゃならないかもしれませんし」
さすがにあれだけのアリたちを一人でどうこうするのは不可能だろう。
ひとまず、気になったものを確認してこないと。
指先から鋼糸を出して、僕はアリたちのいる方向へ、全速力で駆けた。
アリたちがこちらに気づき、攻撃行動をとるが、小さな体は、アリたちの大きな体でぎゅうぎゅうの隙間をなんとか掻い潜ることができる。
「ちょっとごめんね! 通らせてもらうよ!」
僕は、跳躍した。スピードアップとパワーアップはすでに掛けた後だ。
僕の体は舞い上がり、上空からちらりと見えたのは、白いアリの幼虫だった。
十や、二十じゃきかない。成虫のアリたちは、この幼虫たちを守るために、こんなところに集まってしまったのだ!
「なんで、こんなことに・・・!?」
しまったと思った時にはもう、遅かった。僕目掛けて、矢が飛んでくる。
「ちっ」
鋼糸を縒り合わせて、束にして、矢の軌道に合わせた。それでも、勢いを完全に削ぐことはできず、僕の肩に矢が突き刺さる。
テルアは216のダメージを受けた!
僕は、操作を誤って、地上へと落下する。
黒アリたちの集団の中へと。
テルアは地面に叩きつけられた!
589のダメージを受けた!
地上に叩きつけられたダメージは深刻だった。僕ぐらいHPがなかったら、普通に死に戻りしてたぞ、これは!
なんて、毒づく暇もないよ!
完全にアリたちに囲まれた!
ヤバイ。どうしよう、これ。
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