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57話 交渉(※ジャスティス視点)

 魔物組の特訓を終えたジャスティスは、とある湖に来ていた。

 指輪を見たときは、まさかと思っていたが、指輪に苛まれたクリスの話を聞いて確信した。


「お母さんに約束破られて、さみしくて、悲しくて、気がついたらよくわかんない、湖の近くにいたんだ。そしたら、そこで銀髪で蒼い目の、すごく美人のお姉さんがいて。俺が話しかけると、お姉さんがビックリしてた。なんでこんなところにいるの? って。それでお姉さんが俺の話を聞いてくれて。元気を出すようにって最後にあの指輪をくれたんだ。その後は、気づいたら西神殿の前にいて・・・指輪は本当はつけちゃダメって言われたんだけど、あんまりにも綺麗だったから・・・」


 指輪をつけてしまい、意識を失って、そのあとのことはよく覚えていない、と話は締め括られた。


 補足すると、たまたま通りかかったシヴァとチャップが、倒れたクリスを発見。

 ビックリしながらもジャスティスのところに連れていけばなんとかしてくれるだろう、と安易な思い込みから、シヴァが舌にクリスを巻きつけ、急いでシヴァに診せにきた。


 その途中、シヴァとクリスの姿を目撃したクレアさんが半狂乱になりながらシヴァたちを追いかけ、その騒ぎを聞きつけて警備兵らもやって来た。こんな流れだったらしい。


 つまりは、あの指輪は西神殿の近くでもらったものだということだ。

 西神殿に奉られてる神ならば、無自覚に子どもを一人、己の領域に誘い込んでしまっても不思議ではない。


「やはり、ここにおったみたいですのぅ、月の女神ルテナ様」


 月明かりがキラキラと湖面を彩る中、ぼんやりとその湖面を膝を抱えて見ていたルテナがすぐに立ち上がり、ジャスティスを振り返る。


「成り上がりの魔神が私に何の用だ?」

 月と月明かりで輝く湖面さえも自らの装飾として扱える、絶世の美女。

 うっとうしげに長い銀髪を手でかきあげながらも、ジャスティスを見据える視線は厳しい。

 時に極上の青玉に例えられる瞳には強い拒絶と嫌悪を示していた。


 メーサデガーの妻たるこの女神だが、普段は気高く、己にも他人にも厳しい、孤高の女神なのだが、時にメーサデガーの心ない仕打ち、言ってみれば浮気に心を乱し、嫉妬し、メーサデガーの浮気相手を殺そうとする、苛烈な一面も持っている。


 今はその苛烈な一面が前面に押し出されており、この場にいるのはジャスティスでも少々きついものがある。

 元々、ジャスティスよりも高位の神であり、今は機嫌も最高潮に悪い。ジャスティスは使い慣れない敬語を使いながら、女神と対峙する。


「実は少々あなた様にお話がありましてな。あなた様の領域に迷いこんできた子どもに、あなた様の指輪を渡してやりませんでしたかな?」


 ピクリ。

 女神が反応した。強大な力を持っていると言っても、ルテナ神は案外わかりやすい性格をしている。これがクク神や主神メーサデガーであればこうはいかない。

 あの二神はとにかく心を隠すのが上手いからだ。話がそれた。今は、ルテナ神の方に集中だ。


「その指輪ですが、子どもが誤って身につけてしまい、危うく廃人になるところでしたぞ。今後、このような戯れは、是非ともお止めいただきたい」


 ルテナ神が、うっすらと寒気がするほど麗しく微笑んだ。

「どうしてだ? どうせ、人の子などすぐに生まれてきては死ぬ。一人減ったところで誰も気にしない」

「いいえ」

 ジャスティスは否定する。次の言葉を言うのに、なけなしの勇気を振り絞らなければならなかった。

「その子どもの母親は嘆き悲しみます」


 ごう、と叩きつけられる神気。気後れすまいと、ジャスティスは歯を食いしばって耐えた。ジャスティスの全身を、荒ぶった神気の刃がかすめ、切り刻んでいく。


「魔神・・・。私の怒りを煽るとは。覚悟はできているか?」


 平淡な声音の中に込められた、猛り狂う、熱量さえ伴うほどの、赫怒。

 子どもの話は、本来ルテナ神には禁忌(タブー)の話題だ。

 それを振られたルテナ神は、感情が振りきれてしまった。

 この魔神を、どうやって痛めつけてやろうかと、残酷に考えた。

 だが。


「くっ。ふっ。ははははははははは!」

「私の怒りを感じて、気でも触れたか?」

「気でも触れたか、ですか。それはあなた様の方ですのぅ。儂があなた様に直接お目にかかったのは、直接この目であなた様の指を確かめるため。よりにもよって、あの指輪を渡されてしまうとは! あの指輪は、確かにあなた様のもの。放っておいても勝手にあなた様の元へと戻ります、本来ならば(・・・・・)


 ルテナ神のあの指輪は、特別製だ。持ち主が変わっても、ひとりでにルテナ神の元へと戻ってくるように魔法が込められている。

「・・・・・・何が言いたい?」

「指輪は戻りませぬぞ、ルテナ様」

「!? なんだと!? バカなことを! あれが戻ってこなかったことなど、一度もない!」

 怒りが薄れて、ルテナ神は動揺する。


「事実は事実です。もしもこの事がメーサデガー様に知られたら、あなた様も無事ではすまされますまい。なにせ、あの指輪はわざわざメーサデガー様ご自身が他ならぬ、あなた様のためにと造った指輪ですしのぅ」

「私を、この主神の妻たる私を魔神(お前)が脅すなど!」

 ルテナ神は再び激昂し、ジャスティスへ向けて、手を突きだした。


「やめておかれた方が、ご自身のためですぞ? 儂は別にあなた様と争う気はないのでのぅ。騒ぎにすればするほど、メーサデガー様は何があったのかと好奇心を出される。そうなれば指輪をなくしたことがばれるのも時間の問題でしょうな」

「くっ」

 自分の不利を悟り、ルテナ神は手を降ろす。だが、苛立ちと不安のあまり、指の爪が皮膚を破りそうなほどに握りしめることは止められなかった。


「儂の望みは二つ。これにこりて、戯れに人へと物を与えることをやめてほしいこと、今の指輪の持ち主にけして手を出さんこと、これだけですじゃ」

「なっ!? 私の指輪を人が使っているだと!? そんなこと、許すわけが・・・」

「では、この話はなかったということで。儂は今からメーサデガー様に会って来るとしましょう。今回の一件を報告せねばなりませんので」

 ジャスティスが踵を返そうとすると、ルテナ神は慌てて引き留めた。


「ま、待て! ・・・・・・わかった。お前の言う通りにする。だから、この一件を主神に報告するのはやめてもらいたい」

 屈辱にその美しい相貌を歪ませながらも、ルテナ神はジャスティスの提案を受け入れた。

「では、今ここであなた様の名で誓っていただけますかな。私も常にあなた様を警戒するのは疲れますので」

「・・・・・・いいだろう。月の女神ルテナの名において、戯れに人に物を与えないこと、今の月明かりの指輪の持ち主をけして害さないことを誓う」


 神の名で誓った誓いは特別だ。破ることは許されない。

 言質を引き出すことに成功したジャスティスもほっと息を吐く。もしここで言質をひきだせなかったら、テルアがどんな目にあったか。それを心配し、わざわざジャスティスは動いたのだった。

 ジャスティスはルテナ神に、懐から取り出したものを投げる。

 ルテナ神がそれを受け取る。

 それは、紙だった。


「これは?」

「儂の知人が経営する「小さな人の店」という店に、指輪を浄化のために一時預けたというと証明書です。実際にあの指輪は消耗しきっていたので、誰も疑わないでしょう。メーサデガー様には、絶対にあなたに浄化してもらいたくなかったと言えばいいし、日付はバザールの日付にしときましたので。ついでに、バザールの土産も欲しいというのであれば、渡しますが?」

「手際がいいな。だが、助かる。土産はいらない」

「わかりました。では、用事が済んだので、儂はこれで失礼させてもらいます」


 ジャスティスが瞬間移動で一瞬にして姿を消す。

 ここは一応ルテナ神の領域であり、ルテナ神の許可なく魔法を発動させようとすると、とんでもない腕が必要となるのだが、こともなげにやってのけた。

 こんなことができるのは、他にはクク神ぐらいしか、ルテナ神は知らない。


「みな、成り上がりの魔神と蔑み、嘲笑しているが。どれだけ、本来の能力を隠しているんだか」

 魔神ジャスティスは、けして油断などできない相手だと、今回の件でルテナ神は思い知るのだった。


次→5/7 19時

 すみませんが、諸事情により、しばらく更新頻度を1日1話に落としていきます。

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