56話 指輪が外れない(汗)
「すまなかったのだ」
ネギボウさんが僕に頭を下げる。小鬼の像が原因とはいえ、小鬼の像はネギボウさんの持ち物でもある。
「いえ、もう、いいです。起きたことは変えられませんし」
一応、神聖魔法の浄化を試したけど、指輪は外れなかった。僕の指にはしっかりと銀色の輝きがある。
まぁ、話を聞く限り、指輪を付けてると、混乱や魅了、怒りなんかの状態異常にかからなくなるらしいけど。
それよりも、クリス君が取り込まれかけた指輪をしてるってのが、こうね。
ちょっと嫌だなぁ、とか思っちゃったりするんだよね。
今更いっても仕方ないんだけど。
「ネギボウ」
にっこり笑顔で、じいちゃんが指をわきわきしてる。
その隣では、事情を聞いたマサヤがさりげなく剣を抜いてる。二人とも目が笑ってない。
「その小鬼の像、破壊してもいいかの?」
「ダメに決まってるのだ!この像はすごくすっごーく苦労して手に入れたのだ! 破壊なんてもっての他なのだ!」
ネギボウさんが、恐怖しながら、小鬼の像を抱えて、後ずさる。
それを追い詰めるように、じいちゃんとマサヤが距離を詰める。
「いや、破壊した方が絶対にいい。そうでないと、今後も被害者が増える」
「その通りじゃ。大体きちんとそれを管理できてなかったお主の責任じゃろうて」
「や、やめるのだー! この像は生きた像で、破壊したらとんでもない呪いが降りかかるのだ! 絶対、絶対やめた方がいいのだ!」
必死なネギボウさんに、不敵に笑う小鬼の像。あながち、口からデタラメでもなさそうだ。
「マサヤ、じいちゃん。その辺りでやめといたら? きっと小鬼の像も、ただの悪戯でやっただろうし」
「悪戯って・・・それにしても、性質悪いだろう」
「そうじゃぞ。きちんとおしおきしとかないとダメじゃぞ、こういうやつは」
「僕がいいって言ってるんだから。まぁ、それでもどうしてもっていうなら・・・君、クレストのおじさん知ってる?」
僕は小鬼の像に威圧をかけながら話しかける。ぎぎっと小鬼の像は身を竦めながら、僕を見上げた。
「武神だよ。南神殿で奉られてる。あの人、戦いが大好きなんだって。それで、闘志がたぎりすぎてるみたいでね? 何か壊せるものがあればなんでも供えてくれって言ってたんだ」
後半、口から出任せだけどね。まぁ、闘志がたぎり過ぎてるのは間違ってない。
「ぎぎっ!?」
小鬼の像はさすがに声を上げた。
「あんまり悪さばかりしてると、僕が君をお供え物にしちゃうからね。わかった?」
小鬼の像は、ブンブンと大きく頷く。さすがの小鬼の像も、呪いという脅しが通じなさそうな相手だとわかっているらしい。
案外、賢いかも、この小鬼の像。
「わかってくれたみたいだよ」
僕が二人を振り返ると、二人は何とも言えない面持ちだった。
「テルアはたまに極悪に見えるときがあるのぅ」
「まぁ、そういうやつだよな、お前は」
二人とも失礼な。
僕らが店を出ると、シヴァたちが並んでぎゅうぎゅうになりながら待っていた。うん、ハイドのサイズが戻ったらぎゅうぎゅうにもなるよね。ここの路地、狭いし。
チャップはハイドの上で、軽業の練習をしてるみたいだ。
ブラッドはちゃっかりとシヴァを盾にしてるけどシヴァ、大丈夫かな。
かなりつぶれてるみたいなんだけども。
「ずっと、その状態で待っておったのか? よし、シヴァよ、お主は休憩じゃ。次はブラッドの番じゃぞ。チャップもなかなか熱心じゃな」
じいちゃんの特訓の一環だった。
通りで、誰も文句言わなかったわけだ。
「さて、儂らはそろそろ修練の塔に戻るとするかの。・・・テルアよ」
「何、じいちゃん」
「お主もそろそろレベル上げを始めんと、こやつらを相手にできんぞ?」
ドキリとした。だって、実際はじいちゃんのいう通りだと、僕も思ったからだ。ちょっと見ない間にみんなはまた強くなったようだ。このままだと、僕が置いてかれてしまう。
「肝に銘じとくよ、じいちゃん」
本格的に、レベル上げをするべきかもしれない。
そんな会話をしながら、僕らは別れたのだった。
そのあと、僕もマサヤと一緒に広場からログアウトした。
次→19時
 




