53話 休みが休みにならないのは何故(泣)
「よし、そんなもんじゃろう」
「や、やった。やっとじいちゃんの許可が出た」
僕は、感動に打ち震えていた。僕の考えたパフォーマンスの練習を眺めていたマサヤと、念のために親子のために残った警備隊の隊長さんはドン引きしている。
「なんて、ダメ出しの数だ。聞いてるこっちが気の毒になったぞ」
「言葉の間一つとっても、何回もやり直しさせられるって・・・」
じいちゃんは、特訓の時は容赦ないんだよ。
僕は息を吐いた。シヴァが、のっそりと僕に近づき、えすぴーぽーちょんを渡してくる。僕は、それを一気に喉に流し込んだ。
「それにしても、儂が見てない間にずいぶんと魔法の理解が進んでおるのぅ。ひょっとして、魔法大図鑑をもう読破したのか、テルア?」
「あ、そういえば読破してたかも・・・って、じいちゃん!? 笑顔が怖いんだけど!?」
じいちゃんが満面の笑みを浮かべているときは僕にとってはろくなことにならない(経験談)。
案の定。
「なーに、あとで魔法大図鑑のテストをやろうと思っとるだけじゃよ。問題用紙はもうできとるし」
「やっぱりー!」
じいちゃんから離れて、テストはお休みだったのに、不意打ちで入ったよ!
「そちらの様子はどうじゃ?」
じいちゃんが、親子へ声を掛ける。
「頂いた薬が効いたのか、今はぐっすりと寝ています」
母親が少し安堵したように、子どもの手を握ってる。
まだ安堵するのは早いけど、少し安心した。本当にきつそうだったもんね。せめて夢の中では楽しい夢をみてほしいよ。
「・・・・・・・・・あとで、あやつらに文句を言いにいかんといかんのぅ」
じいちゃんの呟きはとても小さく、僕くらいしか聞こえていなかったと思う。
でも、どうやらじいちゃんは呪具の制作者に心当たりがありそうだ。
けど、今集中すべきは別のこと。
パフォーマンスで、とにかくじいちゃんの言う、珍しいもの・おもしろいもの好きな人を、誘き出さないと。
じいちゃんから合格をもらい、僕らは、ひとまずじいちゃんの知り合いの店の近くに行くことにした。
子どもは、隊長さんが背負ってくれた。まぁ、ハイドに元のサイズに戻ってもらって運んでも良かったような気はしたんだけども。全員から反対にあったし、ハイドも小さい姿で僕の肩に留まるのが気に入ったらしく、さっきからおとなしい。
ちなみにブラッドは、チャップの肩に留まって、僕にどうすればかっこよく見せられるか、じいちゃんと一緒にダメ出ししてたよ。
シヴァとチャップは上手くできたらすごい、すごいとほめて、僕のモチベーションを上げる役。
気にする点が多すぎて、改良っていうよりも、習うより慣れろ!を実践させられたって言った方が正しい気がするけどね。とにかく、形にはなった。
あとは、実演あるのみ! さぁ、やるよ! 気合いを入れ直し、いざ出陣!
大通りは、ちょっと早めの店じまいをした露店商の場所がちらほら空いていた。周囲が安全に観られるよう、パフォーマンスの場所を仕切る。わかりやすいよう、地魔法アース・ランスで、大人の膝丈くらいの柱をつくり、ここより先には行かないようにとじいちゃんらに注意喚起してもらう。
深呼吸を一度、二度、三度。
自分の中にある羞恥心は全て心の奥底にしまい込む。
目を開き、周囲を見渡す。
さあ、始めよう。
僕は息を吸い込んだ。
「みなさーん! 今から、マジック・ショーを始めまーす! ご用とお急ぎでない方はどうかご覧になってくださーい! このアールサンでのショーは初めて! これを見逃すと、次回はいつショーをするか、僕自身もわかりません! 今日、この良き日に観られるみなさんは、とても幸運です! おっと、前置きが長くなってしまいました。自己紹介もまだでしたね。僕の名前はテルア・カイシ。以後、お見知りおきを」
胸の前に手を当て、ペコリとお辞儀をを行う。
まだ、観客は集まっていないが大通りを歩いていた人たちが何事かと振り返る。子どもが僕の方を指差しながら、親に観たいとねだっているようだ。
マサヤと隊長さんは唖然としてる。
ポカンとしたその顔に、演技ではない笑みがこぼれる。
言っとくけど、いきなり始めても誰も観てくれないからね。こういう告知っていうか、宣伝も必要なんだよ、ショーには。
「では、早速まいりましょう! ミュージック、スタート!」
ぱちんと指を鳴らすと、音楽が流れ始める。ノリのいい音楽は、軽快さ溢れるもの。それに合わせて、水魔法のウォーター・ボールのアレンジを始める。出てきたのは、水のヘビだ。僕が指揮棒を取り出すと、水のヘビが音楽に合わせてクネクネと動き出す。
指揮棒の動きに合わせて、水のヘビがダンスを踊る。タイミングを見計らって、もう一匹ヘビをつくる。
二匹のヘビは、絡み、離れ、楽しげにに踊る。やがて、音楽が途切れる最後の瞬間、僕が指揮棒を高く振り上げると、ヘビたちは観客に向かって、大口を開けて、襲いかかる真似をした。
きゃーっと言いながら、前の方にいた子どもが慌てて後ろに下がる。
「失礼しました。まったく、このヘビたちの悪戯好きにも困ったものです。君たちはしばらく反省してなさい!」
ヘビに項垂れる仕草をさせて、指揮棒をさっと横に振り、魔法を解除。即座に発動。ヘビたちはいなくなったが、今度は上から赤いものが、ヒラヒラと降りてくる。
「おや? ヘビたちがいなくなったのに気づいて、次は自分の出番だとやってきた子がいるようです」
音楽が丁度次のものへと変わる。この次へと移り変わる間もうまくタイミングが合わずに大変だった。
「ご紹介しましょう! 火のワシです!」
ファイヤーボールの応用で出した火のワシを、ぐるりとパフォーマンスエリアで周回させる。
その間に地魔法を使って、ワシが留まれる場所をつくり、そこに留めさせる。
それと同時に音楽を停止させる。
「いやー、バッチリのタイミングで現れましたねぇ。実は出番を今か今かと待ってました?」
僕は留まり木にいるワシに問いかける。すると、ぷいっとワシが横を向く。まぁ、僕が操ってるんだけど。
「これからみなさんの前でパフォーマンスをしてもらいますが、意気込みは?」
バサバサバサバサ!
炎の羽をばたつかせる。火の粉もついでにちょっと飛ばす。もちろん、僕は近すぎない位置をキープ。
「意気込みは十分、と。それでは、まいりましょう! 観客の方は、危険ですので、絶対にパフォーマンスエリアの方へと身を乗り出さないでくださいね!!」
そして、火のワシの演技が始まる。火のワシの演技は当然、火属性魔法を駆使したものになる。
火のワシがつくりだした(ように見せかけた)火の玉(ファイヤーボールの応用)が幾つもパフォーマンスエリア内を飛び交い、そこに火のワシが加わる。
時に火のワシは玉乗りや火の輪潜りに挑戦し、そこに僕がコミカルな掛け合いをつけることで、観客の笑いを誘う。
そろそろ疲れたと言い出す火のワシを消して、次のパフォーマンスに移る準備をしつつ、一言。
「さて、ここまでご覧頂いた観客の皆さま、本当にありがとうございます。実は、次の演技が最後のものとなります」
気づけばかなりの人数が集まっていたので、残念そうな声が上がる。
ごめんね、僕のSPの消費が激しいんだよ、一人で演じてるから。回復もそれなりにするんだけど、常時風魔法でミュージックを流してると、当然、SP回復<SP消費になっちゃうんだ。
演技中に、えすぴーぽーちょんを飲むのもどうかと思うしね。
「ですが、最後の演技もきっと皆さまに楽しんでいただけると考えております。ラストの演技は、空中飛行! これは、観客の誰かお一人に空を飛んでもらうというもの! さぁ、どなたか挑戦してみたいという方はいませんか?」
途端に、はい!や僕、僕!と、元気な声が子どもから上がる。僕は笑顔を苦笑に変えて、希望者に手を挙げてもらった。
観客席近くにいた女の子を選んで、魔法の呪文(雰囲気づくり)を掛ける。
ちなみに魔法の呪文を唱えてる間に僕は女の子の体にスピードアップを掛けてさらに鋼糸をくっつけておいた。
風魔法のウインドの強化版で女の子の体を包み込むように展開する。
ふわり、女の子の体が浮き上がった。
周囲からも、女の子からも歓声が上がる。そのまま、女の子にパフォーマンスエリアの周囲をぐるぐると三周回ってもらった。
「すごい、すごい!」
そして、ゆっくりと地上に降りてきてもらう。
「すごかった! 空とんだ!」
「そうだね。とんだね」
そのまま女の子の手を繋いだまま、客席へと一礼する。
「皆さま、僕を手伝い、空を飛んだこの子にもう一度大きな拍手を!」
拍手が女の子に贈られる。僕は女の子を観客席に戻した。
「以上で、マジックショーを終了します。長々のお付き合い、ありがとうございました!」
一礼して、終了。終了と同時に、幻惑魔法と光魔法の応用で姿を消す。
最後の僕の姿消しにも、観客は興奮覚めやらないようで、大きな歓声が上がった。
ショーは、大成功だった。
「どうだった、じいちゃん?」
大通りから一本外れた路地へと僕は入った。幻惑魔法と光魔法はもう解除している。
「つれたぞ。ほれ」
じいちゃんが後ろを示すとそこに、ねぎぼうずがあった。
いや、違う。ねぎぼうずによく似てるけど、それは人の頭だった。
白い髪が上の方だけとんがってるのはどうみてもねぎぼうずっぽいけど。その下の顔は真ん丸としており、眼鏡を掛けた奥の目はすごく小さい。いや、体も僕よりも小さいんだけどね。茶色のベストと黒の長ズボン(袖を折り返したもの)を着ている。
全体の印象としては、ちんちくりんな奇妙な人といった感じだ。
「いやぁ、おもしろかったんだな! 魔法のレパートリーが驚く程あったんだな! あんなの初めて観たんだな! いい魔法使いなんだな、君!」
手を出されたので、握手する。
「ジャスティスがおもしろいもの観られる、しつこく言ってきたんだな。外に出るの嫌いなんだな。でも、今日は出てよかったんだな! 確かにおもしろかったんだな!」
握手したままの手をブンブンと振り回される。
「それで、僕に頼みがある、聞いたんだな。僕にできることがあればやったげるんだな」
「あの、呪具のせいで命を落としそうになってる子どもがいるんです。呪具を外してあげてもらえませんか?」
僕が頼むと、相手はうん、と首を傾げた。
「・・・・・・・・・。ジャスティスがいるのに、外せなかった呪具? おかしいんだな、変なのだな! おもしろいんだな、やったげるんだな。店に子どもを運ぶんだな!」
どうやら、呪具を外すことはしてくれるようだ。僕はちょっとほっとした。
マサヤたちにあらかじめ決めておいた合図を送ると、すぐに三人は合流してくれた。そのまま、ちんちくりんで奇妙な人の後についていく。
魔物組は後片付けしてくれているはずだ。
「小さな人の店」と書かれた、古ぼけた看板がある。
その看板が掲げられた家に、ちんちくりんな人は入っていく。
「ねぇ、じいちゃん。聞き忘れたんだけど、あの人の名前って・・・」
「あやつか? ネギボウじゃ」
「ある意味覚えやすい名前だね、それは」
うん、一発で覚えたよ。
「本名はネクラギなんじゃが、あだ名のネギボウの方が呼びやすくてのぅ」
「何してるんだな? 早く入るんだな」
ちんちくりんな人改め、ネギボウさんが僕らを店内に促したのだった。
ネギボウさんの店内はすごかった。まず、色んなものがあちこちに積み上がってる。
本やら、何かの干物やら、剥製やら。
金銀細工っぽい装飾品なんかも無造作に置いてある。小鬼の置物が僕が前通った時に笑い出したのって、偶然だよね? そうだよね?
本に関しても、何故か呪いに纏わる話や伝記が多いみたいだ。
「座るんだな」
店内唯一の長テーブルに、椅子を出されたのでみんなそこに座った。
子どもは、近くのソファーを空けて、寝かせている。
「まず、なんで子どもが呪具をはめてしまったか聞くんだな。話はそれからなんだな」
「私の、私のせいなんです! 私があの子から目を離した隙に、こんなことに・・・!」
「感情の話は今はいらないんだな。事情をさっさと話すんだな。ジャスティスが今も呪いの進行を食い止めてるけど、あんまり時間はなさそうなんだな」
ネギボウさんの厳しい言葉に、母親は、ポツリポツリ事情を話し始めた。
次→5月5日 8時




