50話 今日こそお休み!・・・のはずが。
「はぁ〜」
ゲームをログアウトした僕は、自室に戻っていた。被っていたVRギアを外し、すぐにベッドに横になる。
心なしか、肩が凝ってる気がする。
肩を回して筋肉をほぐしながら、僕は深い疲労感に、脱力した。
「疲れた〜。あぁ、二度と受けたくないよ、クク神の魔法講義。クエストは達成できたけどさぁ。それでもあれはひどい。なんで、五時間もぶっ続けで魔法についてひたすら語れるんだろ。普通、途中でしゃべることなんてなくなると思うのに、終わらないし。あぁ、終わりが見えないって本当に精神的に堪える」
一人寂しくぼやきながら、僕は明日は絶対にゲームをしない日にしようと決めた。
そうだ! 明日は久々にペットショップに行ってみようかな。
もふもふを堪能したいし。
予定を立てた僕は明日が来るのを待ち焦がれながら、いつも通りの日常を過ごすのだった。
日曜日の朝、8時。僕は携帯電話のマナーのブザー音に叩き起こされた。
携帯電話は鳴り続ける。
誰だよ、こんな朝から。
まだ起きたばかりで半分寝ぼけていた僕は、相手が誰かも確認せずに、電話に出た。途端に、電話に出たことを後悔する。
「輝ーーーっ。起きてるか!?」
耳がキィーンとするぐらいの正也の大声に、僕は携帯電話をすぐさま耳から離す。
「正也。こんな朝っぱらから何の用? 僕、眠いんだけど」
欠伸をかみ殺しながら、僕が訊ねると。
「朗報!朗報だって、輝! すげぇんだぜ! 「ファンタジーライフ」で今、一日限りのすげぇイベントやってんだよ!」
「すごいイベントぉ? 「ファンタジーライフ」でイベントやってるの?」
イベントって、そんな簡単にやれたっけ? 告知とか準備とか、大変だと思うんだけど。景品も考えないといけなかったし。
「あーもうとにかく! 口で説明するより見た方が早い! 今日しかやらないイベントだから、お前も今すぐこっちに来い!」
「僕、寝起きなのに・・・」
ぼやきながらも、正也の勢いに押されて、僕は10時にログインする約束を取りつけられてしまった。
恐るべし、ハイテンション正也。
9時55分。着替えや朝食を済ませて約束通り「ファンタジーライフ」の世界にログインした僕だったけども。
「なんだ、これ」
アールサンの街は、街全体が活気に満ちていた。っていうか。
「出店がなんか、あっちこっちにある」
街の通りには、ありとあらゆる種類の店が揃っていた。街はお祭り騒ぎで浮かれきってる。
僕がこの光景にビックリしていると、背後からやって来た誰かに肩を叩かれた。
「よっ、テルア。約束通りに来たな」
「まあ、マサヤの強引なお誘いに負けて仕方なく、ね。でも、この光景はすごいなぁ」
「そうだろ、そうだろ! 今日一日、アールサンの街ではバザールが開かれてんだ! 交渉次第で、消耗品やら、装備を安く買えるかもしれないだろ? 良いものは早い者勝ちらしいぞ!」
「へぇ」
感心しながら、僕はあちこちの店をざっと見渡す。軽食屋、飲み物屋、薬屋、日常雑貨等々。確かに品揃えは十分のようだ。多種多様な商品が目に楽しい。
僕は、色々と見て回りたい衝動に駆られた。このバザールなら、もしかして。
もふもふの魔物を売ってくれる店もあるかもしれない!
そんな希望が湧いてきたのだ。
「おもしろそうだね。どこから見る?」
「最初は、この通りからでいいんじゃないか? 昼から、広場でオークションもやるんだと」
チラシみたいなのを見ているマサヤの手元を僕も覗きこんだ。そこには、こう書かれていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
プレイヤーの皆様へ
「ファンタジーライフ」をいつもご利用くださり、ありがとうございます。1月○日(日)に、アールサンの街でバザールを開催します。このバザールは、この日限定のイベントであり、普段は手に入れられない品を入手できるチャンスです。普段見かけない品や掘り出し物を探すもよし。自分で出店を開くもよし。皆様が良い一日を過ごされることを、運営一同、お祈りします。
・オークション開催のお知らせ
場所 アールサンの街 大広場 開催時間 1月○日 12:00よりスタート!
この日しか出会えない、レアな品物が目白押し! これを見逃しては大損するかも!? たくさんのご参加をお待ちしています!
イベント主催 株式会社ねここ 「ファンタジーライフ」運営一同
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
こうして僕たちはバザールを楽しみながら、あちこちの店を冷やかして回っていた。
だから、僕が、それを見つけたのはまったくの偶然だった。壊れた懐中時計。時計の針は丁度12時で止まってる。
白銀色のそれは僕の目を惹いてやまなかった。
壊れてるけど、綺麗だな、と思った。
「そんな時計、どうするんだ?」
「なんか、気になっちゃって」
気づけば僕は二束三文で壊れた時計を購入したんだけど。
まさかこの壊れた懐中時計に秘密があって、あんな事態を引き起こすなんて、僕も思ってもみなかったんだ。
次→19時




