5話 転職
僕は冒険に出る前に冒険者ギルドに立ち寄った。
「すみません。あの、ジョブの変更をしたいんですけど。確か、冒険者ギルドでやってるんですよね?」
受付のお姉さんに頼むと、お姉さんはにっこりと微笑んだ。
「ジョブの変更には、一万ギル必要ですがよろしいですか?」
「たかっ!?」
ジョブの変更ってそんなにするの!?
お金は出せるけど、あまりの高さにちょっと呆然とした。
でも、今の僕は出すしかないのだ。
せっかく道化師に就くための条件を揃えたのに、ならないなんてばかな話はない。
泣く泣く一万ギルを払って、頼むと、お姉さんに案内されたのは受付奥の部屋だった。そこには、石で出来た台座に、透明な水晶が置かれている。
「あの水晶に触れると、今のあなたが就けるジョブを教えてくれます。なりたいジョブを、水晶に手を置きながら念じれば、ジョブの変更がなされます。メインかサブかも念じてくださいね。念じないと、自動的にメインジョブが変更されますから。ちなみに、あれはジョブ水晶といってとても高価なものですから、くれぐれも壊さないでくださいね。壊すと自動的に百万ギルが所持金から引かれます。さらに持ち合わせがない場合、借金となりますのでご注意ください」
「はーい、わかりました」
受付のお姉さんの言葉を聞き流しながら、僕は水晶の台座に近づいた。
僕が水晶に手を置くと、水晶の中に文字が現れる。剣士、魔法使い、僧侶、その他etc. 僕がなりたい道化師のジョブも出たので、僕はサブジョブに道化師に就きたいと念じる。
テルアのサブジョブが道化師になりました!
ステータスプレートを確認すると、確かに変化があった。
メインジョブ:魔物使い(基本職Lv 1)
サブジョブ:道化師(レア職Lv1)
やった!と思わず拳を握りしめる。
これで、ようやく冒険に行ける。
部屋から出ると、早速僕は何かクエストの依頼がないかを提示版で探す。
提示版には様々な依頼が張り出されている。その中で、僕は薬草採取の依頼を選んで、受けた。
薬草の種類はわからないけど、平原には採取ポイントというのがあるらしいので、そこで採取すればいいらしい。ただ、依頼書に書かれた期限内に持ってこないと、減額されてしまうので注意が必要だ。
さて、これで冒険者ギルドにいる必要はもうない。僕は、冒険者ギルドを後にして、次に武器屋に向かった。
ちなみに、ここでの通貨はギル。価値は日本円の十分の一程度だ。色々使ったので、僕の所持金は最初100,000ギルあったところから、82,400ギルになっている。内訳としては、7,000ギルが宿屋代、600ギルが文房具代、10,000ギルが転職代だ。一応、忘れないようにノートに小さく書き込んどく。意外と、こういうお金の使い道って忘れるものだからね。使うなら、納得しながら使いたいよ、僕は。
そうこうしてる内に、僕は武器屋に辿り着いたのだった。
「・・・・・・いらっしゃい」
武器屋は、頑固おやじというイメージぴったりの、不愛想な男がカウンターに座っていた。
「こんにちは。僕でも使えそうな武器が欲しいんだけど」
僕が男に話しかけると、男はじろじろと僕を観察した。
「・・・予算は?」
「千五百ギル」
僕は即答する。
けち臭い、もっといい物買えるだろ!と思った人もいるかもしれないが、言っておく。僕の装備なんて最低限でいいのだ。だって、僕は自分よりも、自分で仲間にした魔物の装備を整えたいから。仲間にした魔物が今はいないのだから、そんなに散財することもない。
だって、いつお金がいるかわからないし。
「力はいくらだ?」
「14」
「何か、武器の要望は?」
「大きいのだと振り回せなさそうだし、普通の剣か、それとも小さいめのもので」
暗殺者さん対策に、ついつい大きな剣ではなく、それなりに小回りのきく物をと思ってしまう。
もはや、恐怖の対象となりつつあるかもしれない、あの人。
お助けキャラだと思うんだけど、できれば二度と出てきてほしくない。
男にストーカーされて気づかないとか、やだしね、僕。
僕の要望に、親父さんは少し奥へと引っ込んだ。そして、カウンターに置かれる剣の数々。と、言っても、そこまでステータスは高くないものばかりだ。
「それぞれ手に取って、振り回してみろ」
僕は最初に鉄の剣を取ってみた。重いし、バランスが悪い。持てないことはないが、慣れるまでにかなり時間がかかりそうだ。やめておく。
次は、ミスリルでできた細剣。突きに重点を置いたものだがこれも、なんだか馴染まない。
却下。
次から次へと試して、最後に刀身が白い短剣を握ってみた。
今までで一番手に馴染んだ。材質を訊ねてみると、とある魔物の牙から出来ているという。
素振りしてみる。
射程はすさまじく短いが、理想的な重さとバランスだった。これなら振り回しやすい。
「これにします!」
即決だった。それと、防具として、黒いマントと、黒の皮手袋、黒の冒険服(丈夫)を買った。これが一番、しっくりきたんだ。
全部合わせて、7500ギル。僕は黒づくめになったが、いよいよ冒険者らしくなって、ちょっと嬉しい。
「おじさん、ありがと!」
僕は上機嫌で武器屋を出た。
これで、準備は完了だ。
僕は早速、鼻歌まじりに街の南門を出た。
さあ! もふもふの魔物を頑張って仲間にするぞー!
「・・・・・・・なんで?」
僕は茫然としていた。今は街の外の平原だけど、全然魔物とエンカウントしない。
あの、おかしくない? 僕、ここで一時間は魔物を探し続けてるんだけど、一体も現れないって。いじめ? それとも、僕の運が悪いだけ? 全然魔物が出ないので、やけくそで薬草の採取ポイントで、取れるだけ薬草採取しちゃったよ。結果、今の僕のアイテム袋はこんな感じになってる。
所持アイテム ぽーちょん×9、はい・ぽーちょん×10、えすぴーぽーちょん×15、はい・えすぴーぽーちょん×10、どくけし(にがい)×5、?????? 薬草(良)×99、毒消し草(良)×99 銀のかけら×36 山珊瑚×
15 山珊瑚のかけら×37 マタタビ×51
スキルも、採取を覚えた。採取のおかげかわかんないけど、途中から取れる品の種類が増えた。採取にはSPを消費するんだけど、僕はSPが少ない分、少し経てば全回復する。
やけくそ気味だったのもあって、採取しまくったんだけど、やりすぎた感がひしひしとする。まあ、数があって困るもんじゃないけど。
マタタビはそれなりに役に立ちそうだなあ。もふもふを堪能するために。猫系の魔物ってこの辺りいないのかな?
ひとまず、薬草採取は(やりすぎなほど)達成したし、洞窟へ向かってみるか。
僕は、適当に歩き出した。
その頃、草原の別の地点では。
「違う! 音と気配が完全に消せていない!」
「はい!」
「忍者になるためには、厳しい修行に耐えねばならん! それができぬ内は、けして忍者になれぬと知れ!」
「はい、師匠!」
テルアと同じく武器講習を受けていたプレイヤーが、ゼルガから修行をつけてもらっている真っ最中であり、そのために平原の魔物を狩りまくっていたのだった。