49話 クエスト07を終えて(※クク視点)
ククはとても浮かれていた。大好きな魔法について思う存分、人に語れたために心地よい疲労感と爽快感がある。
そんなククは、喉が渇いてしまったために天空城の中庭にある泉までやって来ていた。
中庭はあまり人が来ることもなく、静かであり、泉は生命の泉と呼ばれる特別な泉で水もおいしい。
中庭で、ゆっくりと先程起きた嬉しい出来事を思い返しながら、一人感動に浸るつもりであった。
だが。
「あら? こんなところで出会うなんて、奇遇ね、クク」
中庭には先客がいた。ククは少し驚く。
「これはこれはアルルン様。ここで、お会いするとは思いませんでした」
栗色の長い髪を束ねずに流した、穏やかで優しげな風貌の豊穣神アルルンが中庭の木の下に座っていた。
彼女の側で、金の牡鹿と銀の牝鹿が休んでいる。
ククに二対の黒の瞳が向けられていた。
「相変わらず、アルルン様の護衛は優秀のようですね。私に対しても、ちゃんと警戒する。なかなかできないことです」
「もう、この子たちったら。警戒心が強いんだから。気を悪くしないでね、クク。この子たちの癖のようなものだから。本気であなたを警戒してるわけではないのよ」
「わかっています。それに、私も今は機嫌がいいので。この程度のことで怒ったりしません」
困ったように微笑むアルルンに、ククも仮面の下で微笑みを返す。
少しアルルンが小首を傾げた。
「本当に機嫌が良さそうね、クク。何か嬉しいことでもあったのかしら?」
「ええ! 実は、ついさっきまで魔法講義をしてきまして! とても優秀で熱心な生徒で、こちらもつい教えるのに熱が入りました!」
上機嫌で、先程あった出来事をアルルンに語るクク。対して、アルルンは戸惑いを帯びた表情になった。
「・・・・・・あなたの魔法講義を受けた人がいたの? それは・・・」
お気の毒な人がいたものね。
アルルンは続きを心の中で言った。
ククはアルルンから見れば付き合いにくいという性格ではない。
誰に対しても基本丁寧な物腰を崩さず、適度な距離感を保つ。また、魔法具を造る腕前は、鍛治神のカチを上回る。
だが、そんな彼にも欠点は存在する。
それが魔法だ。
魔法の話題を迂闊にククに振れば、途端にククは自分の独壇場とばかりに、語りだす。・・・・・・何時間も。
時間も長いが、ククの魔法に対する知識は本物だ。故に、ククの話は専門的なものへと発展していき、よほど魔法に明るくなければ、ついていけなくなる。
最後は何を言ってるのか、わからなくなるほどだ。
ククに魔法の話題を振ってはいけない。それは、天界では暗黙の了解となっていた。
「今度は彼に、魔法具の作り方を教えようと思ってるんですよ。ここで少し休憩をしたら、資料などを揃えてこようと思っています。私の方も、準備不足で、説明が不十分になってしまったところがありましたし」
「そ、そう。頑張ってね。私はそろそろ自分の居城に戻るから」
若干ひきながら、急いで逃げを選択するアルルンを誰も責められはしないだろう。
その日、時折仮面の下から、ふふふ、と小さな笑い声をこぼすククの姿が不気味で、アルルン以降、誰も近寄れなかったそうな。
次→3日 8時
 




