47話 クエスト07―2
うーん。困った。まさか、こんなことになっちゃうとは。
「あの、先輩。言ってること、わかりますか? もう、あたしは何が何やらさっぱり・・・」
半泣き状態で、僕に言ってくるユミアちゃんだけど、僕としてもこんなの予想外だよ。つまり、助けてほしいのは僕も同じなんだよねぇ。
僕は、ちらりと眼前の存在を盗み見る。
「つまり、この属性の魔法はですね、アレンジしても本来威力が出ない組合せ同士であり、具体例としては・・・」
仮面を付けた守護神ククが、僕らの前で何故か専門の魔法講義をしていた。
・・・・・・なぜにこうなった。
このクエスト07を受けたときから、こうなることは決定していたのだろうか。
僕は、こうなる一連の流れを思い返してみた。
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ひとまず、クエスト07を受けた僕らは、依頼人がいる、南神殿にまで行ってみた。
南神殿では、人がたくさん集まり、ひどい騒ぎが起きていた。
「どうしたんでしょう?」
「何か起きたのかな?」
僕らは騒ぎの外側にいた神官の服を着てた人に何があったのかを訊ねた。
すると。
「なんでも、神官のベス様が解呪の儀式をされたらしいのだが・・・うまくいかないばかりか、急に儀式を受けていた人たちが半狂乱で暴れだしてしまったんだ。あのベス様が、解呪の儀式を失敗するなど、本来あり得ないんだが・・・」
「えーっと。その儀式を受けた人たちって、ひょっとして冒険者ギルドの人? 悪夢をみて寝つけないって訴えたりしてた?」
「知ってるのか? 俺もあまり詳しくは聞いてなかったが、黒い悪魔が夢に出てくる、なんとかしてくれと、譫言のように呟いてたな」
うん、確実に僕が幻惑魔法掛けた冒険者だね。で、幻惑魔法をなんとか解呪しようとして、悪化させちゃったと。
あ、なんか大体神殿内で何が起きたかわかったよ。
早く、魔法を解かないとまずいね、怪我人出ちゃいそうだし。
「ユミアちゃん。僕、ちょっと中の様子見てくるから、ユミアちゃんは外で待っててくれる?」
「そんな! 危険です、先輩!」
「いや、僕が行かないと話にならないと思うから。大丈夫、大丈夫。ステータスは高い方だし」
「それなら、あたしも先輩と一緒に行きます! 先輩一人で行かせられません!」
うーん。気持ちは嬉しいけど、本当に中は危険だと思うんだよね。正直ユミアちゃんを連れて行きたくないなぁ。
とか、言ってる時間もないみたい。
抜き身の剣を振り回して、半狂乱で暴れる冒険者の男たちが、神殿の出入り口から出てきた。目は虚ろで、視点は合ってないし、開いた口からはだらしなく唾液が垂れている。抜き身の剣やら槍の武器を手にしている姿は魔物よりもよっぽど恐怖を煽る。
麻薬中毒者ってあんな感じなのかな。実物見たことないけどね。
「はぁ。なんで幻惑魔法掛かってる相手に、神聖魔法じゃなく、光魔法使っちゃうかなぁ」
あまり知られてないらしいが、光魔法と幻惑魔法は、とても相性がいい。
うまく使えば、幻惑魔法は光魔法の威力を高められるし、光魔法は幻惑魔法の威力を高められる。
相乗効果というやつだ。
多分、よく調べずに呪いの類だろうから光魔法で解けると考えたんだろうけど。
幻惑魔法の威力が高まって、逆にじいちゃんの幻覚があちこちにいるように見えちゃってるはずだ。
そう考えると、あの暴走ぶりも納得がいく。
じいちゃん大量発生&地獄の特訓コースを無理矢理受けさせられてる状態じゃ、暴走しない方がおかしい。
「自分で蒔いた種だし、自分で刈り取るか。ユミアちゃんはここにいてね。大丈夫だから」
僕は、スピードアップとパワーアップを自分に掛けた。
ひとまず、この冒険者を倒さないと先には進めない。
短剣を構えると、僕は一息で相手との距離を詰めた。ユミアちゃんが、「はやっ!?」とか叫んでる。
「悪いけど、おとなしくしててもらうよ。花烈大破!」
僕はスキルを駆使して、冒険者たちを戦闘不能にした。
満身創痍で気絶した冒険者たち一人一人に、闇魔法、ダークネスを掛けていく。ダークネスは本来ステータスを下げる魔法なので、これで光魔法の影響もかなり抜けたはずだ。目が覚めたらじいちゃんの幻覚があちこちに見えて暴れだすってことはないだろう。
あ、ちなみに本来掛けていた幻惑魔法はそのままだ。
え、それが原因なのに解かなくていいのか?
解いたら僕が犯人ってわかっちゃうから、解かないよ。全部じいちゃんがすごいんだってことで押し通したいし。
「それじゃあ、中に入るかな」
僕が神殿内に入り掛けたその時。神殿内で闇が広がった。
これは・・・。
広がった闇は、神殿内から溢れだして、前庭までも闇色に染め上げる。
「な、なんだこれは!?」
「先輩!」
僕のことを心配したユミアちゃんが慌ててこちらに来るけど、大丈夫だよ。
一見、何か起きそうな感じに見えるけどこれは僕が使用した闇魔法ダークネスの上位版、ダークミストを広範囲に広げて使用しただけだ。
誰が使ったかは知らないけど、すごいSPだね。神殿全てにダークミストを行き渡らせちゃうんだから。
だけど、これで中の安全も確保された。今なら、神殿内はかなり安全になってる。多分、神殿内にいる冒険者もダークミストのおかげでおとなしくなってるだろうし。
「行くよ、ユミアちゃん」
僕はユミアちゃんに声を掛けて、神殿内へと歩を進めた。
気配察知で一番反応がある場所へと、僕は迷いなく進む。
「せ、先輩! 早いです! ちょっと待ってください!」
「あ、ごめん、ユミアちゃん。どうも気になる気配があって。つい急いじゃった」
ユミアちゃんが追いつくのを待ちながら、僕は考えた。この気配、じいちゃんやクレストのおじさんに似てる気がする。
「先輩。こっちでいいんですか? 途中の部屋とか素通りしてますけど」
「スキルのおかげで、この先に誰かいるのがわかるから。こっちで間違いないよ」
僕が断言すると、ユミアちゃんは目を丸くして、魅力的な笑顔になった。
「さすが先輩です! やっぱり、先輩ってすごいんですね!」
直裁なユミアちゃんの言葉に僕は照れてしまった。
本当は僕じゃなくて、スキルがすごいんだけどね。
でも、嬉しそうにしてるユミアちゃんに水を差すのも嫌だったから、曖昧に微笑んで誤魔化した。
「ここだね」
僕らは、一つの扉の前に来ていた。
この扉の向こうに、じいちゃんたちに似た気配がある。
おそらく、ここは祈りの間だろう。
祈りの間にいるということは、神官か、あるいは。
「ユミアちゃん。今から扉を開けるけど、けして油断はしないでね」
「は、はい!」
ユミアちゃんに警告を発してから、僕はゆっくりと扉を押し開いた。
ぎぎぎぎぎぃっ。
「おや。まさか、こんなところにまでやって来る酔狂な人間がいるとは。びっくりです」
模様の描かれた白い仮面を被ったその姿に僕は会ったことこそないが、見覚えがあった。
やっぱりか。あんな広範囲のダークミストを使える存在なんて、限られてるよね、そりゃ。
「こんにちは。守護神クク様」
魔法使いたちを守護すると言われる守護神ククが、祈りの間で佇んでいたのだった。
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