46話 クエスト07―1
少し早めにログインした僕は、ある程度準備を整えて、由美ちゃん、じゃなかった、ユミアちゃんをアールサンの広場で待っていた。
「すいません! お待たせしました、先輩!」
僕の待ち人の声が聞こえたのでそちらに顔を向けたんだけども。
「ねぇ、ねぇ、君、プレイヤー? 俺たちと一緒にクエスト受けない?」
「魔法使いやってるやつが、急に都合悪くなってさー。ね、どう? お試しで」
早速ナンパされてるよ、ユミアちゃん。今、お待たせしましたって言ってたの、聞いてたのかなこの人たち。
「あ、あの。すいません。あたし、連れがいますから」
うつむきながら、断るユミアちゃんだったけど、あ、本気にしてなさそう。
どうせだし、ちょっと驚かせてみよっか。
「えー? どこにそんなやついんのー? いないじゃーん」
「君のすぐ後ろにいるよ、ナンパ男のプレイヤー君。その子、本当に僕の連れだから、離してくれない?」
「赤石先輩!」
僕の声に、パアッとユミアちゃんの表情が明るくなる。
「な、なんだっ・・・て、なんだ子どもじゃん。ビビらせんなよ!」
ナンパしてたプレイヤーは、僕の姿にほっと息を吐くが、次の瞬間、僕を見下ろし、睨み付けてくる。
ガンをつければびびって逃げるとでも思ってるのかな? はっきり言って、クレストのおじさんの方が百倍怖いよ。
その程度じゃ、僕をビビらせるのは、無理だね。修行して、出直してきた方がいいよ。
「ほんとだ、子どもだ・・・って、お、お前!? 黒づくめのハゲ爺の連れ!?」
「あれ? 僕のこと知ってるの?」
「し、知ってるも何も! お前だろ、冒険者ギルドのやつらを半殺しにしたのは!」
「してないよ、人聞きの悪い。やったのはじいちゃん。僕はただの治療係」
ある男プレイヤーが、及び腰になる。
残念だけど、今さら逃がしてあげられないんだよね。何故なら。
「お主ら。よりにもよって、儂の前でテルアに何してくれてるんじゃ? ん?」
「じいちゃん。早かったね、来るの」
僕、早く来て買い物済ませたり、じいちゃんのことを呼び出したりしてたんだよね。
じいちゃんの前で僕に絡んだ時点で、プレイヤーたちの運命は決まっていたようなものだ。
南無。
・・・・・・・・・その後、昼下がりのアールサンの広場で、大きな悲鳴が上がったのだった。
「ねぇ、ユミアちゃん。そういえば聞くの忘れてたんだけど、今日は何のクエスト受けるつもりなの?」
笑顔でプレイヤーたちの相手を引き受けてくれたじいちゃんは広場に残して、僕たちは冒険者ギルドに向かっていた。
その道中、何のクエストを受けたいのか訊ねると、ユミアちゃんはちょっと後ろを気にしつつ、答えた。
「えっと、あたしが受けたいのはシナリオクエストなんです!」
「シナリオクエスト?」
「はい! クエスト07のシナリオをクリアーすると、守護神ククの加護が付くって、昨日サイトの掲示板に書いてあったんです! あたし、それを受けたくて。でも、あたしがとってるジョブ、後衛職だし。前衛職の誰かと組まないと、さすがにクエストクリアーはできないかなって思って・・・あの、先輩? どうしました?」
僕は話を聞いていてどんどん顔をしかめていたらしい。謝りながら、普通の顔をするように努力する。
「ねぇ、ユミアちゃん。他に掲示板に何か書いてなかった? クエストの情報みたいなの」
「え、いえ。でも、ちょっと危険だけど、挑戦する価値があるって書いてありましたね」
ちょっとね。昨日のクエスト06を思い出すと、僕はとても楽観的に考えられない。
書き込んだプレイヤーがどんな思いで書き込んだのかは知らないけど、鵜呑みにしない方がいいと、僕は思った。
そうこうしてる内に、冒険者ギルドに着いた。僕が、冒険者ギルド内に入ると。冒険者ギルドは異様な静けさに包まれていた。
「あれ? ずいぶん静かですね。全然人がいない・・・」
「うわぁあああああ! 助けてくれぇええええ!」
テーブルで酒を飲んで寝込んでいた冒険者が、急に悲鳴を上げ始めた。
そういえば、昨日冒険者ギルドのでしなに、幻惑魔法掛けたっけ。冒険者のキャラ限定で。
うーん、うーんとうなされながら、最後にはごめんなさい、ごめんなさいと謝りたおす始末。
少しやり過ぎたかも。
「あ、あの人。悪夢でもみてるんですかね」
ユミアちゃんは、顔をひきつらせながら、僕の手を無意識に握ってくる。
「さぁ? 自業自得なのかもね。夢って、自分の潜在意識が表面化する場所らしいから」
適当なことを言って僕は誤魔化した。
こりゃ、じいちゃんが冒険者ギルドに顔出すだけで、全員蜘蛛の子を散らすように逃げ出しそうだね。もしくは阿鼻叫喚の地獄絵図が目の前で繰り広げられるか。
まぁ、実際にそうなっても、僕は反省も後悔もしないけどね!
カウンターに行くといつもの受付のお姉さんが憔悴しながら、暗い表情で、いらっしゃいませ、と蚊の鳴くような声で僕らを出迎えた。
「あの、今日は冒険者ギルド内、すごい静かなんですね」
「そうなんです。昨日から、ここにいた冒険者の皆さんが悪夢をみ始めまして。全員が全員ですよ? 黒い悪魔の呪いだ、とか言って昨夜は一睡もできずに、寝てもすぐに悲鳴を上げて飛び起きるというのを繰り返されまして。それで、皆さん、今は守護神クク様を奉っている神殿に行かれて、解呪の儀式を受けられてます」
「呪いですか」
「えぇ。おかげでこの通り、閑古鳥が鳴いてます。ところで、今日はどんなご用件でしょうか?」
「クエスト07を受けたいんだけど」
僕が用件を切り出すと、受付のお姉さんの顔が歪んだ。
「そ、それは。つまり、今から神殿に行かれるということですか? そちらのお嬢さんはともかく、あなたは・・・」
「お願いします」
全てを言わせず、僕は受付のお姉さんの言葉に被せるように言った。
受付のお姉さんは、ため息をつき、僕にクエストの紙を渡してくる。
そこにはこう書かれていた。
○クエスト07 守護神ククへの祝い
○依頼者 東神殿神官 ベス
○依頼内容 守護神クク様は大の魔法好きでいらっしゃいます。毎年、クク様には様々な魔法を見せて参りました。
ですが去年、クク様はわたくしどもの魔法をおもしろくないと仰り、不興を買ってしまいました。今年はなんとしてでも、クク様に喜んでもらわねばなりません!
そこで、冒険者の方にお願いします。クク様が喜ぶ魔法をわたくしどもに教えて頂けないでしょうか。教えずとも、クク様の前で披露してもらえば問題はありません。もちろん、報酬は支払います。詳細を知りたい方は、神殿のわたくしのところまで来てください。
さて、神殿に行きますか。
僕は依頼の紙を、腰のアイテム袋に入れた。
次→ 5月1日 19時
なんとか10万文字越え達成。寝ます。




