44話 クエスト06を終えて2 (※クレスト視点)
「メーサデガー! おい、いるか!」
ドスンドスンと足音を響かせながら、壮麗と比喩される天空城の中を、武骨に歩き回るのは、身長2メートルを越す、大柄で引き締まった屈強な体躯を持つ、武神クレストだった。
黒髪を乱しながら、彼は今、探し人をしている。
「大きな足音がすると思って来てみたら。あなたでしたか、クレスト。どうしたんです? そんなに慌てて」
「ククじゃねぇか。お前もいたのか。クク、メーサデガーを知らねぇか?確かあいつに貸していたと思うんだがな、遠見の鏡を」
「遠見の鏡ですか? 珍しいですね、あなたが武器以外の物を探すなんて。良ければ、私の物を貸しましょうか? メーサデガーはしばらく帰ってきませんから」
「帰ってこない? まさか、またあいつの悪い癖が出たのか?」
クレストが声を潜めながら、ククに問いかける。ククは白い仮面の上から口元を上品に押さえた。
「さて? 私が知ってるのはメーサデガーがとある国にルテナには内緒で行っていることと、いない間の城の留守を預かることですから。まぁ、おそらくあなたの予想通りだと私も思いますよ」
「あいつのあれは、もはや病気だな。またルテナが怒り狂うだろうに」
ルテナは、主神の妻でもある。メーサデガーがどこに行っていたかを知ったら、柳眉をつり上げて怒り狂うに違いない。
「まったくその通りですね。こちらはいい迷惑です。それで、話を戻しますが、遠見の鏡でしたね。はい、どうぞ」
渡された鏡は、一見何の変鉄もない鏡に見える。だが、魔力を流して、クレストはそれがとんでもない一級品だとすぐに気づいた。
「いいのか、こんな大層な代物を俺に渡しちまって。自慢じゃないが、魔力の制御には自信がないぞ?」
「あなたに今さら魔力の制御技術は求めませんよ。それは、ルテナから返ってきた物ですから、別に壊れてもすぐに直せますし」
簡単に言ってるが、クク以外では誰もこの鏡を簡単には直せないだろう。直せるとしたら、鍛冶神であるカチぐらいなものだ。そのカチにしてみたって、簡単には直せないだろうことは容易く想像できる。
そして、聞き捨てならなかったのがルテナから鏡が返ってきたという事実だ。
ブルッとクレストは体を小さく震わせた。勇猛果敢で知られるクレストだが、女のヒステリーは正直遠慮したかった。
まず、かしましい。そして次に出てくるのはメーサデガーの悪口ばかりで、おとなしく聞かないと、後でメーサデガーに告げ口される。そして、ルテナの機嫌をとりたいメーサデガーに、嫌がらせとしか思えないことを命じられるのだ。
あれは三度も経験すれば十分だ。
まぁ、今はルテナに会う心配はないだろう。おそらくメーサデガーを〆に行ったはずだ。簡単には帰って来はすまい。
メーサデガーとの追いかけっこにせいぜい夢中になっていてくれと思わず願ってしまうクレスト。
「あぁ、そういえば。聞きましたよ、クレスト。なんでもあなたが自分の名前を貸すことを許したプレイヤーがいるとか。話を聞いた際は、あり得ないと思ったんですが。遠見の鏡を欲しがる辺り、本当でしたか?」
舌打ちしそうになるクレストだったが、やがて短く、本当だと告げるとそれきり口を閉じて踵を返した。
ククに余計な詮索はされたくない。
あの子どもに目をつけたのは自分が先なのだ。
せっかくできたお楽しみを、奪われたりされてはたまらない。
踵を返して足早に立ち去る男の背を見送ったククは、肩を竦めながらも仮面の下でほくそ笑んでいたのだった。




