43話 クエスト06を終えて 1 (※サイガ視点)
クエスト06を終えた獣人であるサイガは、冒険者ギルドに報告後、行きつけの酒場へとやって来ていた。
今日は、とても貴重な体験のできた一日であったと、彼は思う。
こんな不思議な経験をする日など滅多にない。
どうして、ここまでの日になったのか。
疑問の答えは簡単だ。
テルア・カイシという子どもに出会ったから。
それに全てが集約されている。
例えば、だ。
ヴィアイン山の一件。
空から落ちてきた岩を察知し、危険だと警告を発してくれた。あの一言がなければ、自分は今ここにはいないかもしれない。
そして、本来、敵対して勝ち取らなければならなかった骨竜の骨を、死にそうな目に遭いはしたが、なんとか穏便な方法で入手できた。
これもまた、出会った骨竜がたまたま気のいい骨竜だったからこそできたことだ。
話はそれだけに留まらない。
テルア・カイシはなんと武神クレストにその力を認められ、特別な称号と、クレストの御名の使用を許された。
これは、破格の待遇だ。
本来、あり得ないことがテルアの側では次々に起こった。
その不可思議さといい、あの最後に武神クレストに啖呵を切った思いきりの良さといい、テルアは本当に目が離せない。
最初、冒険者ギルドで絡まれていたところを、助けた方がいいだろうと偶然を装い助けに入ったのだが。
その必要も心配も、テルアにはいらなかったようだ。
それどころか、こちらがテルアの魅力に惹きこまれてしまっている。
不思議な子どもだ。
サイガは知ってる。テルアが武神クレストに啖呵を切った時に、声や手足が震えないよう、必死に我慢していたことを。
強気に見えるよう、強引にでも笑みを浮かべていたことを。
本当は、サイガがテルアの前に立ち、テルアを守るべきだった。それが無理ならせめて、テルアの横に並び立ち、支えるべきであった。
それさえ、サイガはできなかったのだ。
そのことがとても悔しく、また情けない。
サイガは考える。今まで自分はソロでやって来たが、そろそろ誰かとパーティーを組むのもいいのではないだろうか、と。
そしてパーティーを組むなら、あのテルアと組みたかった。
あの一見頼りなくて、毒舌で。でも仲間に対しては明るい笑みを浮かべてくれる。
どんな時でも、仲間を庇うことを忘れない。
やはり、テルアと組みたい。
だが、今の自分ではまだまだ弱いということを、武神クレストとの対峙で思い知らされた。
だから、一から鍛え直さないといけない。
幸い、鍛え直すにはうってつけの場所がある。
修練の塔。
あそこに行けば、レベルドレインでレベルを低くし、ジョブやスキルのレベル上げを行える。
サイガは一度99階までクリアーしているために、いつでもあの塔へといける。
しばらく、山籠りならぬ、塔ごもり生活になりそうだが。
それもまた一興だろうと、彼は酒の入ったコップを傾け、中身を飲み干すのだった。
明日から、彼の塔ごもりが始まるが、修練の塔にテルアの仲間たちがいることを知らずにテルアの仲間たちと仲良くなるのは、また別の話だ。




