421話 何しに来た(※)
「もうっ。相変わらずつれないっ! でも、そんなところもなんだかんだで好きっ!」
体をくねくねとよじらせながら、見た目可愛い中身四十過ぎの親父がのたまう。
テルアがログアウトしたくなる理由がいやと言うほどわかった紅蓮の騎士団メンバーの視線は、マサヤに注がれることになった。暴走するフラットを自分たちがどうにかできるとも考えられず、知り合いのマサヤに頼むと口にせずとも全員の意思が一致していた。マサヤとて、かなり相手にしたくない手合いなのだが、自分以外に相手をする人間がいないので仕方ないと、相手をすることにした。したが。
「マサヤは、相変わらずだねっ! あ、あたし、今後テルアちゃんの追っかけするつもりだから、よろしく!」
「よろしくしたくねぇ・・・」
心の底からの呟きに、けらけらとフラットは笑い、次いで、表情を引き締めた。急に表情を変えたフラットに、マサヤ以外が意外げに目を見開いた。
「あ、マサヤ! ちょーっと二人きりで話したいことがあるの、いい?」
「・・・・・・なんだよ?」
「こっちこっち。内緒話だからね♪ と、いうわけで、ちょっとマサヤ借りてくね〜。ごめんなさーい」
マサヤの腕に自分の体を巻き付けて、ぐいぐいっと引っ張るフラットにマサヤが仕方なくついていく。すると、一定以上パーティーメンバーから離れて話し声が届かない位置に着いてから、フラットが口を開いた。
「ここで会ったのは偶然だったけど、ちょうど良かった。マサヤに話したいことがあったの。ゼルサガの件で」
「なんだと?」
マサヤの纏う雰囲気が一変する。冷気が漂ってきそうなほどに静かに激昂するマサヤを横目に、フラットが淡々と語る。
「終わりになった」
「は?」
「だから、ゲーム配信自体停止することになったの。ゼルサガ」
「へぇ。いい気味だな」
マサヤの笑みは極寒零度の、温もりなど欠片もないものだった。それに、無表情でフラットも同意する。
「本当にね。あたしもいい気味だって思う。まぁ、ゼルサガの掲示板にあることあること書きまくって、プレイヤーに不信感植え付けたのあたしだけどね」
ゼルサガで、本人の言通り、テルアの追っかけをやっていたフラットはテルアのアカ停止にいの一番に懐疑的な抗議をした一人だった。
テルアは知らなかったが、マサヤとフラットはあの件以来、協力体制を築き上げて、運営に抗議と調査をせっついた、いわば仲間だ。だからマサヤも素直にフラットの言うことを信じられた。
「だから、しばらく気をつけて欲しいの。また同じことが起こらないとも限らないから。逆恨みした誰かがテルアちゃんの悪評を流したりするかもしれないし」
「本当に嫌な話だな、それ」
テルアはことさら恨みをかいやすいのかもしれない。本人にとっては不本意だろうが、それが現実だ。ならば、周囲にいる自分が気をつけようと、マサヤは気を引き締める。
「掲示板の方は、あたしがチェックしとく。何かあればすぐに知らせるから」
「わかった」
「じゃあ、暗い話は終わりね♪ あたしはまたチョコ探しに行ってくるね! うふふふ。テルアちゃんにおいしいチョコを貢いで貢いで貢ぎまくるわっ!」
「それやめろって! またテルアにドン引きされるぞ!?」
普段の調子を取り戻したフラットの言動に、テルアの近くにいることの多いマサヤはまた今回も振り回されるのかと、今から頭を抱えるのだった。




