420話 逃げよう(;¬_¬)
「で、廃ゲーマーかつ重課金組のフラットさんが一体僕に何の用?」
大体予想はつくが、とりあえず訊ねると。答えの代わりにいきなりプレゼントが贈られてきた。
「うっふふふ。あたしがやることなんて一つしかないでしょ? テルアちゃんに貢ぐためよ!」
滅茶苦茶いい笑顔で断言されてマサヤ以外の他のパーティーメンバーがドン引きする。言っとくけど、違うからね!?
本人が勝手にやってることだからね!? 強制してないからね!?
「相変わらずだな、フラットさん。そのテルアに貢ぐ癖直ってなかったのか」
「一生直す気ないからね!」
「いや、直せよ!」
マサヤとフラットさんのやり取りに、ようやく他のパーティーメンバーも、気を取り直した。すでに僕は精神的疲労がすさまじく、今すぐ脱力したいぐらいだけどね。
「だって、だって! テルアちゃんの伝説を間近で拝めるなんて素敵な権利、誰かに譲るわけにはいかないじゃない! あたしだけの権利よ!」
「やめて欲しいんだけど、それ」
「やめるのは無理! あたしはテルアちゃんにはまってるから! 足のつま先から頭の先までどっぷりとね!」
あ、再びドン引きが再開した。うん、僕ももう、放置したくて溜まんないよ、この人。
「えっと、とりあえず、結局誰なんっすか?」
「あ、ごめんなさい。あたしったらつい興奮しちゃって。自己紹介するわね。錬金術師と鍛冶師を極めようとする、フラットよ。気楽に名前で呼んでね♪ ちなみに、現実世界では、四十過ぎのおじさんだけど、偏見に満ちた眼差しで見てくれて構わないわよ!」
「こんなところでまで我が道をいこうとするな! この変人錬金術師!!」
マサヤがつっこみながら、とっとと追い出そうとする。
うん、この人前ゲームでも、重度の課金ゲーマーで、廃プレイヤーの一人だった。とある筋で知り合ったんだけど、その時えらく気に入られて、僕はつきまとわれて大変だったのだ。いや、本当に。色んなものを押し付けてくるわ、完徹も朝飯前でイベントでは、上位キープをしつつ、最後に僕に全部ポイントやら必要アイテムやら課金アイテムやら渡してくるわ。はっきり言おう。僕的にはこの人怖いの域だった。一月に一体どれだけ課金したのかなんて恐ろしくて聞きたくないぐらいだ。そのフラットさんに、見つかった。あぁ、僕はもう目の前が真っ暗だ。というか。
「ごめん、逃げる」
一言言い残して、僕はとんずらすることにした。三十六計逃げるに如かずとはよくいったものだ。まぁ、待ち伏せされるんだろうけど。
それでも、逃げるしかない。
僕は、別れも告げずにゲームからログアウトしたのだった。




