42話 クエスト06−5
「マーラフさん!」
倒れてピクリとも動かないマーラフさんに、僕は駆け寄りたかったが、獰猛な気配を漂わせる武神クレストが、それを許さなかった。
僕がきっと武神クレストを睨むと、クレストは面白げに唇の端をつり上げる。
「あぁ、いい目だ。そんな目をされちゃあ、たまんねぇな」
ぶん、と振られる大剣。反応できたのは、じいちゃんの特訓のおかげとしかいいようがない。
僕は、棒立ちになっていたサイガに体当たりしてサイガの体勢をわざと崩させ、大剣の剣筋から二人して逃れた。
ドガァァアアアン。
背後から、壁が悲鳴を上げたような轟音が響いた。見ずとも、大体どうなっているか予想がついた。今は、目を離すべきではない。この、武神から目を話した瞬間、やられる。
「退屈、なんだよ。俺にとっちゃ、天界も、この地上も。最初はな、そりゃちゃんと仕事をやってたさ。加護の付与をやって、主神のメーサデガーの言うこともそれなりに聞いて。やってたんだよ。我慢してたんだよ、わかるか?」
僕は首を横に振った。嘘をこの武神は望まない。そう、感じたから。
「正直だな。ま、安っぽい慰めを言われるよりかは、百倍ましだ。言われた瞬間、消したくなっちまうしな」
「それで、武神である貴方は、一体何を望んでるんですか?」
「戦いだ!」
ビリビリと武神の気迫が伝わってくる。自分の言葉に高揚したのだろうか。
武神は笑う。獲物を求めて。
その眼光は鋭く、熱く。
放つ武威は、さすがは武神とほめたたえてもおかしくないものだ。
「血沸き肉踊る、戦いこそ、俺が望むものだ! ギリギリの戦いをこそ、俺は望んでいるのだ! 争いのない平和? そんなもの、まやかしでしかない! どうせあと百年もせんうちに、この世界はまた争いを起こす! なれば、今起こして何が悪い!? 俺が起こして、一体何が悪いと言うのだ!」
「そりゃ、悪いに決まってます」
僕は、お腹に力を込めて、武神に言い放った。
視線はそらさない。
震える手足をなんとか押さえつけて。
笑え。ここで笑わなければ。武神の興味を一手に引き受けられなければ、この勝負は敗けしかない。
僕は、なんとか唇をつり上げた。
「この世界は三つにわかれた。天界、地上、魔界。天界は神々が、地上は人間や獣人を含めた様々な種族が。そして、魔界は魔族が、それぞれ治めることとなった。自分の領分を侵されて、納得する者なんていない。地上は、様々な種族の者で治める! 神の必要以上の介入などいらない! ましてや、争いを引き起こそうとする神を、誰も信じようとしない! 武神、クレスト! お前がしていることは自らの破滅のみだけでなく、神と地上、魔界をも巻き込んだ泥沼の戦いになるぞ! そうなればお前は主神に罰せられる。未来永劫、お前は戦に関われなくなるぞ!」
かっこいいこと言ってるみたいに聞こえるけど、ごめん、これ口からでまかせと憶測語ってるに過ぎないんだ。
あぁ、喉がからからになってくる。
水欲しい。
汗をふきたいけど、そんなことで武神から目をそらすわけにもいかない。
おーねーがーいーだーかーら、ひいてー。
「それは、嫌な未来だな。さすがにメーサデガーが本気で怒れば、俺の武神の位剥奪もあり得るか。むぅ。ん?」
クレストの体が光に包まれる。
「ふむ、時間切れか。こんな幕切れは初めてだな。大抵は、俺に挑んで敗れるか、時間内はひたすら俺の攻撃から逃げまくるかするのだが。俺に説教をして時間切れにさせるとは、おもしろい。お前の名は?」
少しだけ、クレストの武威が和らいだ。機嫌を損ねたくないので、僕は素直に名乗る。
「テルア・カイシ」
「良かろう。テルア・カイシ。お前に俺の名を貸し与えよう。これからは、テルア・カイシ・クレストと名乗れ。大サービスだぞ。あぁ、そうそう。お前らが取ってきた骨竜の骨は、俺の祭壇に供えるのを忘れずにな」
ますますクレストの体から光がこぼれる。そして、一際眩い光を放ったと思ったら、武神クレストはただの石像になっていた。
えーっと、ごめん、意味がわかんないんだけど。
これ、結局どういうこと? 助かったの?
へなへなと僕がその場にへたりこむと、マーラフさんがパチパチと手を叩いた。
「お見事です! まさか、クレスト様直々に御名の使用を許可されるとは! 良かったですね、テルア君!」
「???」
僕が疑問符を浮かべていることに気づいたのだろう。サイガが説明してくれる。
「なんだ、お前、知らなかったのか? これは、武神クレストの加護を得るための言わば試練みたいなものだ」
「試練って、えーと、つまり?」
「武神クレストが現れたのは、自分が加護するのに相応しい勇気を兼ね備えているかどうかをテストするためだったってことだ。俺も昔馴染みから聞いたんで半信半疑だったんだがな」
つまり、このクエストは武神の加護を得るためにこなす必要のあるクエストだったってこと? あぁ、そういえば条件を満たすと武神の加護が得られる、みたいなことが公式サイトに書いてあったか。なるほど。
「さっ、最後の仕上げだ。そこにある武神クレストの像を元の位置に戻して、骨を供えれば、武神の加護を得られるはずだ。やっまちまおうぜ」
僕は、サイガの言われるがままに、石像を元の位置に戻して、ホネッコからもらった骨を供えた。
ピンピコピーン♪
テルアは武神の期待を背負う者の称号を獲得した!
全武器スキルと戦闘補助スキルが上がった! スキル覇王の威圧を覚えた!
名前が、テルア・カイシからテルア・カイシ・クレストになった!
おぉう。本当に名前が長くなってる。
まぁ、普段はテルア・カイシと名乗ろう。
武神の加護じゃなくて武神の期待を背負う者ってなってる時点で、色々と起こりそうだ。嫌だなぁ。
「ステータス」
僕はステータスを確認してみた。
名前 :テルア・カイシ・クレスト
メインジョブ:魔物使い(基本職、Lv8) サブジョブ:道化師(レア職、Lv5)
LV :1
HP :1234
SP :756
力 :203 + 15
敏捷 :178
体力 :136 + 6
知力 :114
魔力 :96
器用 :148
運 :428
かっこよさ: 21
スキル 剣術Lv 23 武器術Lv20 道化術Lv11 火魔法Lv16 水魔法Lv14 風魔法Lv18 地魔法Lv15 闇魔法Lv10 光魔法Lv19 幻惑魔法Lv13 唄魔法Lv1 魔物調教Lv40 気配察知Lv16 危機察知Lv22 急所察知Lv16 威圧Lv8 覇王の威圧Lv1 鋼糸Lv8 超音波Lv4 なめるLv1 タフネスLv10 不屈の闘志Lv15 解析Lv2 採取Lv6
称号 魔神の加護 魔物博士 武神の期待を背負う者
装備品 飛竜の短剣 黒の冒険者の服(丈夫) 黒の手袋 丈夫な革靴
所持アイテム ぽーちょん×54 はい・ぽーちょん×32 えすぴーぽーちょん×26、はい・えすぴーぽーちょん×15、どくけし(にがい)×22 ポーション×11 ハイ・ポーション×6
薬草(良)×99、毒消し草(良)×99 銀のかけら×36 山珊瑚×15 山珊瑚のかけら×37 マタタビ×51 上薬草×99 特薬草×99 上毒消し草×99 マヒロン草×99
闇蛇の鱗×22 闇蛇の牙×34 殺人蜂の針×16 殺人蜂の羽×31 巨大百足の足×99 幻惑蝶の羽×10 麻痺蛾の麟粉×10 天津虫の繭×3 海賊ワニの革×60 鉄甲羅亀の甲羅(完全)×30 風虎の尾×1 ナイフ×20 アイアンソード×16 アイアンナックル×4 銀の腕輪×4 銅の腕輪×8 木の杖×12 木の弓×5 冒険者の服×2 ローブ×5 魔物大辞典(魔神のサイン入り) 魔法大図鑑(魔神のサイン入り)
うん、気づかないうちに、ステとスキルレベルがえらく上がってるよ。




