414 話 ジーンの正体(※)
誰もが、ごくりと息をのんでいた。それほど、眼前の光景は戦慄するに値するものだったのだ。
「さて、私がなぜあなたたちを呼んだのかは、当然、おわかりですね?」
赤いじゅうたんが敷かれた、黒い魔石でできた玉座。その玉座のすぐ下に立つ彼女の名を知らぬものなどこの場にいるはずもない。
ジーン・アイスベル。
水魔法の最高峰の使い手であり、つけられた二つ名は『氷の女王』。怜悧な美貌と、容赦のない戦闘方法から、この国ではけして敵に回してはいけない三大筆頭に挙げられる、国の重鎮だった。
「あなた方には、しばらくの間、私の仕事をすべて代わっていただきます」
その一言に、呼ばれた全員が冷や汗を流し始める。
当たり前だ。ジーンのこなす仕事量は、ジーンだからこそこなせる量であり、それをすべてとなると、とてもではないが一日で処理しきれない。手分けしてそれである。普段の彼女の仕事量はもはや人外魔境じみた速さで処理しなければならないのだ。
それがこなせるからこその、『氷の女王』であり、この魔界唯一の魔国の宰相でもあった。
「まったく、魔神様にも困ったものです。まさか、こんな風にうちの戦力を使うなんて」
「ですが、ジーン様もさぼってましたよね、仕事?」
ぼそりと呟いた誰かの声に、ジーンは氷の笑みを浮かべた。ごくり、と喉が鳴り、ジーンからの威圧までも放たれて、一気に場は氷点下の世界に突入する。
「ふふふ。私としては、せいぜい二日ほどの仕事で勘弁してあげようかとおもっていたのだけれど。気が変わったわ。1週間分、よろしくね?」
内心で悲鳴を上げつつ、彼らにとっての上司であり、実力も桁違いであるジーンに逆らえるはずもなく。こうして、ジーンは仕事を適当に押し付け。
「ようやく、チャップのところに戻れるわ。うふふ」
先程とは違う蕩けた笑みで、愛しい存在のことを想うのだった。




