40話 クエスト06−3
「着きましたね。ここがヴィアイン山なんでしょうか?」
まだ神殿から出てないから、周囲がどうなっているかはわからない。わからないが、確実にさっきとは違う場所にいることは自覚できた。
乾いた風と共に、玉子の腐ったような臭いが運ばれてくる。おそらく、これは、硫黄臭なのだろう。
「俺も来たことはないからわからん。ただ、さっきから気配察知に幾つか大型の気配が引っ掛かってきてる。油断はけしてするな、テルア」
「わかりました」
「それと、テルア。俺に対して敬語を使うのはやめろ。俺たちは、今は同じクエストを受けている、仲間だろう? お前は仲間に対していつも敬語を使うのか?」
指摘されて、僕は少し小さくなってしまった。気まずい思いのまま、サイガさんに答える。
「それは違います、ううん、違う、けど」
「なら、やめとけ。気を遣われると、こっちが逆に疲れる」
「わかった。ありがとう、サイガさん」
僕がサイガさんに笑みを向けると、サイガさんはうっと小さく呻いてから、咳払いをして誤魔化した。
「俺が先頭を歩く。お前は俺の後ろからついてこい、テルア」
「了解、サイガさん!」
僕たちは水晶の置いてある小さな神殿から、外へと出たのだった。
「うわぁ」
感嘆の声が思わず漏れる。それくらい、すごい光景だった。
視界いっぱいに広がるのは、赤茶けた茶色の岩肌や岩石。
よーく見てみると、岩石の中に小さな宝石の原石や鉱物が隠されているようだ。
風が吹く度に、舞い上がる土煙と砂ぼこり。こんな場所にすんでいる魔物は、どうやって土煙対策をしているんだろうと、埒もないことを考えてしまう。
「テルア。風が吹くと、一時的に視界が利かなくなる。くれぐれも俺の側から離れないようにしてくれ」
「うん、早く骨竜を見つけないとね。僕もここにあんまり長居したくないや」
ヴィアイン山は確かランクで言うと、C〜Aの魔物が住まう土地だったはずだ。僕のレベル1という低レベルで生き残れるとは、正直思えない。
早く、骨竜を見つけて、骨をもらってアールサンに帰りたい。
「確か、骨竜は大体ヴィアイン山の頂上付近でよく見かけられるって図鑑に書いてあったよ」
「なら、上がってみるか」
サイガさんの意見に賛成し、僕らは赤茶色の岩山を頂上目指して登り始めた。
歩き始めてからおよそ半時間。僕らは骨竜にも他の魔物にも出会わずに、山頂を目指せていた。
大体は気配察知で敵と思われる気配を避けて通ってるサイガさんがすごいんだけどね!
でも、僕の息は切れ切れだ。こんな簡単に息が切れるなんておかしいなと思ったけど、よく考えてみると山頂付近って空気が薄いんだよね。おまけに、結構寒い。
「大丈夫か、テルア。しんどいなら俺が負ぶろうか?」
「だ、大丈夫! まだ歩け・・・サイガ!ここにいるのはまずい!」
僕の危機察知がいきなりすごい反応をした。ここにいるのはまずい。
僕らは、急斜面にいたので、慌てて斜面を駆け降り、横道の岩壁にへばりつく。僕は鋼糸を使って、自分の体を岩壁に張り付けた。
「捕まって、サイガ!」
サイガが僕に捕まると同時に、地響きが鳴り響き、上空から固くてごつごつした丸い岩が僕たちのいた場所をすさまじい勢いで通り抜け、僕らの横を通り過ぎ、下まで転がっていったのだった。
僕はゾッとした。
あのまま、進んでいたら、確実にあの岩の転落に巻き込まれていた。
「助かったぜ、テルア。あのまま進んでいたら危なかった」
サイガも心なしか、少し声が震えている。僕らはほっと安堵の息を吐き出していたが、まだまだ危険が去っていないことに僕は気づいた。
巨大な影がどんどん僕らの方へとやって来ていたのだ。
上を見上げる。そいつと僕は目が合った。つられて上を見上げたサイガも、僕に遅れて気づく。
「なっ」
「骨竜・・・」
僕たちの目的であり、倒すべき魔物が上空から僕らを見下ろしていたのだった。
大きい。まず、そう思った。
本では4〜6メートルなんて書かれていたが、実物は7メートルはあるんじゃないだろうか。
骨竜の巨大な顎が大きく開かれた。
「逃げろ、テルア!」
僕を背に庇い、サイガが切羽詰まった声で叫んだ。
「サイガ!」
自分を囮にして、僕を逃がすつもりだと、すぐに気づいた。
嫌だと首を横に振る僕に、苛立たしげな声が掛かる。
「いいから行け! こんな奴まともに相手にできるわけが・・・」
サイガの声を遮ったのは、まるで暴風のような圧倒的な「声」だった。
「ようこそ、ヴィアイン山へ! 人間と獣人に初めて会ったのでござる! 拙者、会えてとても嬉しいのでござる。是非ともゆっくりしていってくだされ!」
「「は?」」
僕らは、あんぐり口を開いた。眼前の骨竜は、心なしかとても嬉しそうだ。
と、いうか、なんか、ウェルカム!という空気が、骨竜の全身からにじみ出てる。あまりに友好的な態度に、面食らったのは僕だけではない。
だが、僕らのことにはお構いなしに、骨竜は大音量でしゃべり続ける。
「あぁ、自己紹介が遅れてしまったでござるな。拙者はこのヴィアイン山に住まう骨竜、その名もホネッコでござる!」
毎度のことだと、僕も承知してる。承知してるよ? でもね、
「「誰だ、名前つけたヤツ!!」」
僕とサイガの声が見事にハモったのだった。




