391話 犯人探し、しますか
「あれ、正也、昼練の上がり早かったね」
僕は図書館から出てきたところで、丁度こちらに向かってきていた正也と遭遇する。
「ちょっと、問題発生してな。こっちとしては、勘弁してくれって感じなんだが」
「何があったの?」
「部室に石投げ込まれた。ご丁寧に、脅迫文まがいのもんまでついてた。ふざけやがって」
正也の全身から黒い空気が吹きだす。目に見えないが確実に感じ取れるのか、廊下をそそくさと早足でみんなが通りすぎていく。
「正也、殺気でてるから!ちょっと僕も怖いから!」
「あぁ? 悪い。それより、なんでかはわかんねぇが、やっぱり狙われてんのはお前みたいだぞ、輝」
強引な話題転換だが、僕はそれに乗った。ひとまず教室に戻りながら、僕は正也から詳細を聞く。
「うーん。さすがに僕としては狙われる心当たりなんてないんだけどなぁ」
「わかってる。ただの誹謗中傷の類だ。けど、こうも続くと、気分的には良くねぇだろ」
それには同意する。怖いとかそういうのはないが、悪意を向けられているというのは案外ストレスになるものだ。知らないうちに気を張って疲れてしまう。
「心配すんな。絶対に犯人を見つけて嫌がらせをやめさせるから」
うん、と頷きながら、僕らは教室に入った。
放課後。またもや僕は正也に連行されて部室にお邪魔させてもらっていた。
出席確認をしていると、一人足りないことに気づく。
「喜一君は? 来てないの?」
「あれ? そういや、いないな。おーい、誰か喜一が来てない理由聞いてるか?」
確認したが、誰も連絡を受けてなかった。帰ったとも思いにくいし、暇な僕が様子見に行くことにした。正也が心配してついてくる。胴着姿の正也って、すっごい雰囲気があるから、通る度に視線を集める。喜一君のクラスに着いても喜一君はおらず、どこに行ったかと探して。
姿を見つけたのは、僕らのクラスだった。
凍りついた表情の喜一君の視線は、机に固定されている。そこは、僕の席だった。机の上に、乗せられていたのは、魚か何かの内蔵と思われるものだった。生臭い臭いを発するそれに、眉根を寄せている場合ではない。
「喜一。なんでここにいる」
「・・・あ」
「そこで、何をしていた。答えろっ!」
喜一くんは、驚愕のあまりしゃべれなくなっているようで。詰め寄ろうとする正也を僕がなだめすかしているうちに、喜一くんは泣きそうに顔を歪めながら走って逃げてしまった。
「ちっ。犯人はあいつだったのかよ」
「うーん。それは違うと思うよ?」
正也の言を僕は否定した。
「あぁ?」
「だって喜一くん、制服じゃなく胴着だったよ。血が付きそうだし、汚れたらすぐに犯人だってわかっちゃうよ。言い訳とか、偽装工作とかもしなきゃおかしいし。それに・・・なんか甘ったるい匂いがする。香水とかの残り香じゃないかな」
生臭い臭いで、逆に浮かび上がるような、微かな甘ったるい匂い。
もしも、この場に喜一君以外の人物がいて、その人物を喜一君が目撃していたとしたら。
「ここまでされたら、さすがに黙ってられないね」
犯人探しをするのもどうかと考えてたけど、実害出ちゃったらなぁ。
「犯人探し、本気でやろうか」
僕は目を細めて、これからどうするか頭の中で計画を組み立て始めた。




