390話 悪意はさらに増す(※)
どうして、何がいけなかったんだろうか。
アピールをしてきたつもりだし、バレンタインのチョコだって、恥ずかしかったがきちんと渡した。それなのに、彼はけして自分を見てくれない。
彼の視線は、いつも同じ人物ばかり追いかける。
今だって、その人物の隣に立って、部活のことやうまくいかない勉強について、相談しているようだ。
どうして。
どうして、その人ばっかり。
どうして振り向いてくれない? こんなに、焦がれているのに。
あいつさえ、いなければ。
考えて、その人物は嫉妬の炎に荒れ狂うその狂気を、たった一人に向ける。
それが、愚かなことだと気づきながらも、自分を抑えることができない。
掲示板と噂の件は、残念ながらあまり効果はなかった。
ならば、次の手を。
悪意は、徐々にその色を増して、牙を剥かんとしていた。
「八敷!」
呼号に、正也は目を開けた。眼前に、一つ上の先輩である、日道が立っていた。
「お前に、見せたいものがある。部室に来てくれ」
昼休みは、短くはないが長くもなく。正也は、比較的練習メニューは軽めにしており、残り時間は瞑想や、シャドウの時間に宛てている。故に、比較的余裕があったので素直に日道のあとについていく。
正也たちが辿り着いたのは部室だが、ざわざわと昼練をしていた他の部活メンバーが騒々しくしていた。
騒ぎの中心は剣道部の部室であり、中に入るとそこには粉々に割れたガラスの破片が散乱していた。
「これが、部室に投げ込まれていてな」
「・・・・・・・・・!! 悪戯にしても、悪意がありますね、これは」
赤い絵文字で書きなぐった手紙。
『赤石輝は、性悪で漁色家。男は食い物にされる。赤石輝を剣道部に関わらせるな』
ぐしゃり、と正也は紙を丸め潰した。憤怒の形相で凄まじい気迫を放つ、正也の迫力に気圧されて、そそくさと野次馬が退散していく。
「ちゃちな悪戯というには、少々実害も出ているからな。あいつの一番近くにいて、仲がいいのはお前だから、知らせておこうと思ってな」
「ありがとうございます。輝は、必ず俺が守ります。犯人の野郎、絶対に許さねぇ」
幼馴染みを侮辱された正也は、必ず犯人を捕まえると心に決めるのだった。




