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39話 クエスト06−2

「では、お二人でクエスト06を受けられるんですね。わかりました。こちらがクエスト06(ナンバーロク)の詳細です」


 受付のお姉さんにもらった紙を、サイガさんと二人で確認する。

 すると、こんなことが書かれていた。



 ○クエスト06 武神クレストへの貢物


 ○依頼者 南神殿神官 マーラフ


 ○依頼内容 武神クレスト様へ捧げる貢物の在庫がなくなってしまいました。

 そのため、冒険者の方に、貢物を持ってきてほしいのです。もちろん、報酬は支払います。詳細を知りたい方は、神殿の私のところまで来てください。


 つまり、僕たちはこれから南神殿まで行って、マーラフという名前の神官に会って、依頼内容の詳細を聞けばいいわけだ。

 なるほど。


「紙をなおしていいか?」

「あ、はい。どうぞ」

 僕が頷くと、サイガさんは、腰の巾着袋に紙を入れる。


「その紙を、依頼人のところまで持っていってください。そこで依頼人が何を持ってくればいいか、話してくれますから」

「うん、わかった。お姉さん、ありがとう!」

 僕が笑顔でお礼を言うと、お姉さんはようやく顔を綻ばせ、行ってらっしゃい、と僕らを見送ってくれた。

 よーし、それじゃあ南神殿に行ってみよう!


 アールサンの街には、広場・・・要するに街の中心から東西南北の方向に四つの神殿がある。

 白い建物がそうで、屋根は黒、青、赤、緑となっている。

 その内の一つ、赤い屋根の南神殿に行くと見習いのシスターが入り口付近で箒を片手に掃除に励んでいた。そのシスターに、マーラフさんがどこにいるかを訊ねると、快く、マーラフさんが神殿の祈りの間で祈ってることを教えてくれた。


 そのまま、前庭を通って、神殿内に入る。


 神殿内に入ると、僕は何かにのし掛かられているような重圧感を感じた。

 何だろう、これ。感じたことあるけど、ひょっとして魔力かな?

 神殿内だからだろうか。

 特に魔力が集まっている。ただ、この重圧感はちょっと普通の人には苦しいかもしれない。

 隣のサイガさんをこっそりと見遣ると、少し顔をしかめているようだった。


「すさまじい魔力だな。さすがは神殿といったところか」

「あ、サイガさんもやっぱり感じますか」

「お前もか、テルア」

 サイガさんがちょっと驚いたように僕を見下ろした。僕は、自分の感じてることをそのまま口にする。

「はい。さっきから体が重いくらいです」

「俺もだ。さっさと依頼人に会った方がいいな、これは」

 僕らは教えてもらった祈りの間に足早に向かった。

 祈りの間はかなりの大きさがあった。

 天井は高く設けられ、壁と天井にある明かり取りの窓から光が差し込んでいる。すると、白い壁が光に反射して、祈りの間全てがキラキラと輝いているようだった。

 その祈りの間の奥には祭壇があり、二体の神像を(まつ)っている。

 どちらも僕には見覚えがあった。


 一体は、武神クレスト。

 もう一体は太陽神ロードだ。


 二つの像は、昨日公式サイトで見た通りの顔立ちと特徴を備えている。だが、色は塗っておらず、灰色一色だった。

 これが石像だからだろう。

 僕は、これが神様の像かぁ、と妙に感心してしまった。

 こんな風に神殿に神様が奉られているなら、どこかにじいちゃんを奉ってる神殿もあるのかな?


 僕が余所事に気を取られている間に、サイガさんは探し人を見つけた。

 見習いシスターの話は本当だった。武神クレストの像の前で熱心に祈る男を発見したのだ。

 男はこの祈りの間に来るまでに見た神官の服を着ている。中年で少し頬がこけた男だった。

 サイガさんが、男に声を掛ける。



「祈りの最中、すまない。あんたが、マーラフか?」

「はい。私の名前は確かにマーラフです。あぁ、冒険者ギルドに出した依頼を受けてくださる方ですね。お待ちしていました」

「早速だが、依頼内容を詳しく聞きたい。これが冒険者ギルドで渡された依頼書だ。確認してくれ」

 サイガさんが腰の巾着袋から取り出した紙を渡した。それを確認して、マーラフさんはどこかほっとした表情になる。


「助かります。正直、このまま貢物がない状態が続くとまずい状況でした」

「武神クレストの像が暴れるから?」

「!! ・・・こちらの子どもは?」

 マーラフさんは一瞬僕を見て、顔を強張らせた。


「名前はテルア・カイシ。一応冒険者。今回の依頼は、サイガさんと一緒に僕も受けるんだ」


 明らかにマーラフさんが困惑する。だけど、僕の次の一言で、疑いが晴れた。


「神殿全体に張り詰めた魔力が漂ってるのって、この像のせいなの? どうも、像からずーっと魔力が出てる気がするんだけど」


 この祈りの間は他よりも数倍、魔力の濃度が濃い。その出先は、先程マーラフさんが祈っていた武神クレストの像だ。マーラフさんは、疲れたように説明してくれた。


「そう、その通り。これは、武神クレスト様から不甲斐ない我らへの怒りが形となって溢れたものなのです。私はクレスト様に仕える神官だからまだ耐えられますが、他の者はそうはいかない。魔力に当てられて、仕事ができない者も大勢出てしまったのです。私がここを離れると、ますます武神クレスト様の怒りが募るでしょう。ですので貢物を取りに行ってくれる誰かを待っていたのです」


「なるほど。話はわかった。それなら、俺たちがその貢物とやらを取ってくればいいわけだな。それで、その貢物は何だ?」


「少し待ってください」


 マーラフさんは、クレストの像まで歩み寄ると、再び祈りを捧げ始めた。

 待つこと数分。

 マーラフさんはすまじく眉間にシワを寄せていた。


「あなた方に取ってきてもらいたいのは、骨竜(ボーンドラゴン)の骨です」


 聞いた瞬間、僕とサイガさんの目が細まったのだった。




 骨竜(ボーンドラゴン)。呼んで字の如く、骨格しかない竜のことである。

 ただし、身がない分、動きは早く、風魔法で、巨体を浮かせて飛ぶこともできる。骨であるがゆえに、ほとんど痛みを感じることもなく、バラバラにされない限り動き続ける。ただし、バラバラにされても、一定時間が経つと、元に戻るという、厄介な魔物だ。

 大きさも、大体4メートルから6メートルほどあり、デカイ。

 ちなみに魔物のランクは確かA。魔法も使いこなすので、討伐は厳しいものになりやすいと、じいちゃんは著書の中で書いていた。


「本当に、骨竜の骨を取ってこないといけないのか? ここから骨竜の住む場所までどれだけあると思っているんだ、あぁ?」


 骨竜が住むのはこの辺りでなく、ヴィアイン山と呼ばれる、岩山だったはずだ。

 ここからだと、徒歩で多分、行って帰ってくるだけでも数ヵ月かかるくらいに離れていた気がする。何か特別な乗り物でもない限り、ヴィアイン山に辿り着くだけで報酬は全て飛んでしまうだろう。

「移動については、心配ありません。武神クレスト様は、あくまで武威を示すことにこだわっています。ですので、移動で無駄な時間を費やさないよう、配慮されてます。ついてきてください」


 マーラフさんは僕とサイガさんを先導した。マーラフさんの後をついていくと、図書室と思われる、本がたくさん置いてある部屋に案内された。

 ここで何をするんだろう?と、僕が思っていると、マーラフさんは本棚を動かした(一人で動かしたんだよ、すごいね!)。 すると、動かした本棚の奥に隠し扉があった。その扉の鍵を開けて、中へと僕とサイガさんは案内された。そこは小部屋になっていた。その小部屋の中心には、赤く光る水晶が設置されていた。マーラフさんは水晶に近づくと、手をかざした。

「よし、起動している。これなら問題ないでしょう」

「あの、ここは一体? それに、その赤い水晶は?」

 

 僕は、その赤い水晶とよく似た物を、修練の塔で見た。色は違うが、ある仮説が自分の中で浮かび上がる。


「これは、転移の水晶です。これを使えば、別の水晶が設置されてる場所まで一瞬で行けます。帰りも、水晶に触れると、こちらに戻ってこられる仕組みになっています」

「すごい技術だな。神殿には、こんな技術が隠されていたのか」


 サイガさんが瞠目しながら、水晶を近くで観察する。


「最初に言っておきますが、これは武神クレスト様が我らに試練をお与え下さった時にしか使えません。さらに、これで移動できる場所はどれも危険地帯ばかりであり、転移したはいいが、危険な魔物に出会って、帰らぬ人となった者もいます。易々とこの事を他人には教えないようご注意ください。死人が出ましても、私たちは責任が取れませんので」

「なるほど。わかった」

 短く首肯し、サイガさんはマーラフさんの忠告を受け入れた。


「それでは、お二方。準備はよろしいですか?」

「俺はいつでもいい」

「僕も」

 レベルの不安があるが、サイガさんは相当に強そうだし、消耗品も大体アイテム袋に入っているのでなんとかなるだろうと、僕はたかをくくっていた。


「では、水晶に触れてください」


 僕とサイガさんは水晶に触れた。

 お馴染みの感覚が走り抜け、次の瞬間には、ぼくらは見知らぬ神殿の中で、水晶に触れていたのだった。


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