380話 何者?
「師匠!」
「は? えっ!?」
唐突に響いた師匠という言葉に僕が反応する間も与えず、僕は背中から抱きつかれた。その衝撃に耐えながら、今はそれどころではなかったことを思い出す。
「って、今はそれどころじゃない! エリア・ハイヒール!」
魔法は、問題なく発動し、一桁台まで落ちていたパーティーメンバーのHPを一気に全快させる。
「・・・私と師匠の時間を邪魔するとは、許しがたいですね、あなたたち。消えてください」
チャップが手を掲げると、そこから闇が生まれる。あ、これ威力高い魔法だ、と僕が気づくのは遅すぎたらしく。
闇が、魔物に襲いかかっていた。
僕たちが相手にしていた魔物の体がまるで穴食いのように消滅していく。
いきなりの大ダメージに激怒した魔物がターゲットを僕に移してくるが。
「隙だらけだ」
「さすがに、僕ら全員を無視して後衛に襲いかからせるわけないよ。まぁ、僕たちより強い後衛だけど」
「よっと! HPがほとんど削れてるから、俺でも簡単に倒せるっす!」
「ところで、テルア。背後霊よろしくチャップがひっついてるのは構わねぇのか?」
「構うに決まってるじゃん。と、いうか、なんでここに?」
僕はようやく背後を振り向いた。どこか苦しげに表情を歪めたチャップにさらに、疑問が募る。だが、チャップはお構いなしに、僕に抱きついてきた。身長差があるため、他のメンバーが微妙な表情になる。
「とりあえず、チャップはこのままでいいよ、もう」
はがす気にはなれないし、なんだか不安定な感じなので、僕は好きなようにさせておくことにした。このままでも戦闘始まったら戦力になるだろうし。
「「「「「いいのか、それで!?」」」」」
全員のつっこみが入ったけど、僕はチャップが話す気になるまでは無視することに決めたのだった。
「キキッ?」
「あぁ、ブラッドもいたっけ。今の状況? 一から説明して欲しい?」
「キッ!」
頷くブラッドに、僕は今までのことを話し始めた。
* * * * *
僕らが放送室に向かう最中、重大な問題が発生した。
「なんだ、これ。全然マップ通りじゃないぞ!?」
「まいったっすね。マップを飛びまくってるみたいっす。このままだと、直進で放送室にはたどり着けないっすよ」
「厄介やなぁ。なんとかならんの?」
「まさか、こんな仕掛けまであるとはな。突破する方法や、何かヒントはないか?」
「それについては、我から説明しようぞ!!」
あまり聞き覚えはない声だが、声の主を見てなぜか皆が固まった。
「あ、デカさん。戻ってきたの? いくらなんでも、こんな場所に一人じゃ危ないよ?」
「我はこれでも他の生徒よりも鍛えている! 心配は無用だ!」
むきっと、力こぶを見せてくれるデカさんに、すすすすっと、パーティーメンバーが後退した。必然的にデカさんと話すのは僕の役目になる。
「まぁ、帰りは安全地帯まで一応送ってくから。それで、この変な飛び飛びになってる場所について、デカさん何か知ってるの?」
「うむ! この場所は空間が捻れて変な風に繋がってるが・・・・・・はぁぁあああ!! 奥義・覇闘!! 連続奥義・烈豪破技!!」
デカさんが、すさまじい速さで掌底を歪みに叩き込む。グギュルグギュルと、異音が鳴り、暴風が吹き荒れた。
「これで、通れるようになったはずだ! 放送室まではまだ同じような歪みがあるはず!我が全て吹き飛ばしてやる故、安心するがいい!!」
思わず僕は拍手を贈っていた。デカさん、男前! 男前だよ、本当!
「お助けキャラにしても強すぎるだろ! ゲームバランス無茶苦茶だ!」
叫ぶマサヤに、僕は内心呟いた。
だって、デカさんの正体は・・・。
「すまないが、我の正体は内密にしてもらえるか?」
ありゃ。本人から口止めされちゃったよ。仕方ないか。
僕は口をつぐんだ。




