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377話 類とも?

 背中でもぞもぞと動く気配がする。どうやら、マサヤの麻痺が解けたらしい。僕はマサヤを背中から降ろした。

 場所は既に体育館内で、そこにはたくさんの女子生徒が震えていた。ざっと見て百人近くいそうだ。

「なるほど。あそこが最終防衛ラインで、だからあんなに暴れまくってたというわけか」

 スレイさんが納得している。

「デッカちゃんは、みんなを守ろうとしてくれただけなんです。ここにいる子は、戦うことができずに、助けを待っていたんですけど・・・トイレとかは行けるにしても、ご飯とかなくって。みんな助けが来なかったらどうしようってなってたんです」

 ちなみにデッカちゃんがあの二メートル半の暴れまくってた女子生徒(笑)の名前だそうだ。説明してくれてる子はちっちゃいからミニマムちゃんだった。ここでも運営の名前の付け方のひどさが露呈してるけど、イベントのことなので誰も気にしないようだ。

「しかし、この人数となると、大変そうだね。確か、一度にパーティーを組めるのは六人までだし。隊長、どうする?」

 そうしてる間にも、優秀なカカシさんが困ったように何往復もする羽目になりそうだと、嘆息してるのだが。

「そうだな・・・」

「はーい! 僕にいい考えがあるよ!」

 勢いよく挙手して、意見を言おうとした僕は、危機察知のスキルで、入口から魔物が入ってくるのを感知した。さらに、入口を守っていたデッカちゃんがいなくなったからか、プレイヤーの姿も見受けられる。どうやら、追い付かれてしまったらしい。

「じゃあ、とりあえず、僕がこの子らを安全な場所まで連れてくから、みんなは魔物の方お願いするよ。あ、大丈夫。行く前にブースト掛けとくから」

 さっさと全員分の全ステを向上させると、僕は少女たちに十人組ぐらいで手を繋ぐように指示する。デカちゃんとチビちゃんが声掛けしてくれるのでスムーズだ。戦うことはできなくても、たまたまなのか結界を張れる先生がいて、その先生が魔物から生徒たちを守ってくれてるため、僕も安心して動ける。魔物の数を減らすのが先と断じたか、プレイヤーたちも今は僕の動きを注視してる人はいない。

「じゃあ、移動、っと」

 僕は、手を繋がせたその上に自分の手を置いて、最近覚えた魔法を発動する。あっという間に、学校外の安全地帯にまで出て、一緒に移動した女子生徒たちはぽかーんとしたが、すぐに泣いて喜び始めた。

「ありがとうございます!あと、体育館にいるのは、九十人です! みんなを助けてあげてください!」

 助けなきゃいけない人数がはっきりしてるのは目標があっていいなぁ。

 じゃあ、あと、九回移動してくればいいわけか。

「じゃあ、行ってくるね〜」

 僕は同じ作業を六回ほど繰り返した。僕が助けたのは、計七二人。後の十八人は、他のパーティーと一緒に安全地帯に戻ったようだ。

「む、無茶苦茶だよ、こんなの!」

「なんや、あれは!? ぱっと消えて、またぱっと戻ってきとったやろ!?」

「あの魔法、なんっすか!? 自分も教えて欲しいんっすけど!」

「へ? あぁ、あの魔法、一応資格がいるみたいで、そう簡単に覚えられないらしいよ。僕も教えてもらわなきゃ覚えられなかったと思うし。こっちとしては、死にもの狂いで覚えたからね。脱出のために」

 思い出したくもない、過酷な特訓の日々が頭の中をもたげて思わず遠い目をする。

 だって、覚えなきゃ、じいちゃんの城から出られないんだもん。つまりは、脱出できずに冒険もできない。そんな状況で、必死にならない人間はあんまりいないだろう。

「詳しく聞いたところで、真似なんてできないと思うぜ。テルアは、とにかく引きがいいから」

「マサヤは、どうして友人をやってられるんだ? 正直、規格外過ぎて、一緒にいたくないと思ったりしないのか?」

 スレイさんの問いに、

「「それはないし、あり得ない」」

 僕とマサヤの声がくしくもハモった。

「そもそも、マサヤと僕の関係は腐れ縁といえば腐れ縁だけど、マサヤだってまったく自分にメリットがなかったら僕とは組まないよ。一応、現実(リアル)の方なら、僕、マサヤのこと多少手助けしてるし」

「こいつ、頭がいいんで、テスト前とかによく勉強みてもらったり、部活のマネージャーみたいなことやってもらったり。持ちつ持たれつ、って感じでやってるんで。完全に嫌々付き合ってるわけじゃないから、大丈夫なんだよ」

 ある意味、互いのことを知りすぎるほどに知りすぎてるから、変な信頼関係が成り立っちゃってるのだ、既に。

 僕が頼りにされる場面があれば、マサヤが頼りになる場面もある。だからこそ、友人としてやっているし、これからもよほどのことがない限り、関係性が変わるとは思えない。

「腐れ縁とか言いながらも互いに信頼しあってるんだな。悪友とはよくいったものだ」

「本当に。自然に一緒にいるんだね」

「羨ましいなぁ。そないに、信頼できる友人って、かなり貴重やで? 友達はいても、親友にはなかなかなれん」

「自分もいいなって思うっす。一方的に振り回されてるわけじゃないんすね」

 一方的な関係は結局いつかは破綻する気がする。互いに互いを知り合って、それでいいところも悪いところも引っくるめて、付き合ってくのがいい。

「そうだね。僕は、幸せ者だと思ってるよ!」

 僕は満面の笑みで、誇らしげに胸を張った。

「あ、そろそろ移動しないと、時間なくなるんじゃないっすか?」

 確かに、ここまで来るのに一時間程かかってる。夕飯の時間を考えると、あと一時間程だろう。

「次はどこに行く?」

「助けてっ! 助けてくださいっ」

 ざざっと入ったノイズ混じりの悲鳴に、一斉に緊張が走った。

「誰でもいいから、音楽室に行ってっ。魔物が・・・! ブツッ」

 どうやら、学校内にある放送室から、校舎全体に一斉配信されたらしい。危機迫った声だった。

「次の目的地は、音楽室にするか?」

「いや、先に放送室に向かった方が早そうだよ、隊長」

「じゃあ、放送室に向かった方がいいんと違う? ただ事やあらへんかったで、今の声」

「俺はどこでも行くっすよ」

「僕も放送室に一票」

「俺は、こいつの面倒みるだけなんで。目的地に拘りはないです」

 数秒考え、スレイさんは放送室に向かうことを決定した。そこで、僕らはこのイベントの落とし穴に気づかされることになったのだった。



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