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362話 バレンタイン騒動(※) 3

 ナーガが案内したのは、防風林なのだろうか、ぐるりと周囲を同一の樹で囲まれた小さな集落だった。そこには、鼻栓をしたサイガが待っていた。

「サイガー! 帰ったぜ! チャップらが俺らの様子見に来たんだ」

「あぁ、ぞうが。がんげいする、チャッブにマザヤ」

 鼻栓の影響で、濁点つきで聞こえる。だが、マサヤが気になったのはそこではなかった。

「あのー、一体何やってんの? アンタレスは」

 チョキチョキチョキチョキ。

 そう、椅子に座ったサイガの後ろにアンタレスがいて、チョキチョキとハサミを器用に動かしていた。

「ごれが? ただの散髪だ。毛が長いと暑さで参っでしまっで」

「簡単に言えば、冬仕様から、夏仕様に変えてるんだよ、サイガは」

 マサヤはなるほど、と納得した。

「アンタレスって、案外器用でさ、俺らも驚いたんだけど、散髪とか洗髪とか、上手いんだ。結構複雑な編み方とかもやるし。あのハサミと足で」

「何気に繊細かつ高等テクだな、それ!?」

 アンタレスのハサミも足もその巨体に見合ったでかさだ。それを、器用に動かしてるとなると、さすがにマサヤも驚く。

「それ゛に゛、アンタレスの゛毒ば、魔物にもよく効ぐがら、村人にも゛重宝されでるぞ」

 サイガがすかさず補足を入れる。それはいいとして。

「で、なんでサイガは鼻栓を?」

「あ゛ぁ、実ば、この村の家の土壁には、ハザルっでサルの魔物の糞も混ぜ込まれででな。魔物避けや日射し避けにば適じてんだが、俺には我慢でぎないぐらいひどい臭いなんだ」

 へぇ・・・と、感心しかけて、マサヤはぎょっとする。

「って、つまりここの家とか全部混ざってんの!? その魔物の糞が!?」

「別に、そこまで珍しいことでもないぜ? 現に、ダークエルフの村とかでも、強い魔物の体液とか、魔物避け目的で村の周囲に巻いたりしてたし。臭いが強ければ強いほど、近寄ってくる魔物は少なくなるからな。魔物は本能的に強い奴はわかるんだ。臭いだけでも避けようとするから、それを利用するのは大体どこも同じだ」

「ぞうぞう。ナーガの言う通り」

 カルチャーショックを受けるマサヤを放置して、チャップは話題を変えた。

「それで、チョコはどうなっているんですか?」

「あぁ、チョコ作りな! 順調だぜ。まだ完成してねぇけど」

 ナーガは大丈夫だと請け負う。進捗は、良いようだが、どうなってるかさらに、訊ねると。

「今、村の連中がチョコの原料を乾燥させてるんだ。これしないと、後でえらいことになるって、滅茶苦茶言われて。その後、焙煎して、チョコつくるんだ、村のやつらが」

「自分達でやらねぇの!?」

「いやー、チョコつくるのなんて俺達初めてなんだぜ? 素人がどうこうできるプロセスじゃねぇって。無理にやろうとして、毛とか毒とか入ったら嫌だし」

「聞いた俺が悪かった。どうぞそのまま、プロに任せてください。お願いします」

 マサヤはすぐさま発言を撤回した。毛はともかく、毒は嫌すぎる。入らないと

は言い切れないので、安全に徹するのは間違いではない。

「ま、村には世話になってるし、俺らも、一応村人の役に立てるよう・・・」

 ズン! ズン!

 地響きが聞こえて、大きな影が差す。

 現れたのは、体長八メートルはありそうな大蛇だ。

 ナーガは振り向き素早く弓をつがえて、放つ。蛇の両目を射抜いた。

 それに合わせて、サイガを風の魔法で空高く舞い上げると、サイガは空中で槍を垂直にし、穂先を下に向けて投擲する。

 蛇の頭を易々と貫いて、大穴を空けて、槍は地面に突き刺さる。それと共に、どどーん、と蛇が横向きで事切れた。あっという間の出来事で、マサヤは言葉もない。

「こんな感じで用心棒やってるから、村のやつらにはむしろ感謝されてる。そこまで嫌われてねぇから」

 サイガもなんでもないように再び戻ってきて、アンタレスの前に座る。何事もなかったかのように散髪が再開された。

「では、問題なしですね。わかりました。私たちはもう一組の様子を見に行ってきますね」

 魔物を秒殺したことについて言及などせずに、チャップはマサヤと最後の一組のところへと移動した。


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