360話 閑話 バレンタイン騒動 (※)
バレンタインデー。その話を聞いたテルアの魔物軍団たちは、こつこつと準備を重ねていた。日頃お世話になってる人へと感謝の気持ちを込めて、チョコレートという甘味を贈る行事。当然、魔物たちが贈ろうとする相手は決まっている。
自分たちの主であるテルア+その他だ。
そして、今。マサヤは魔物軍団の本気というものを空恐ろしい気分で眺めていた。マサヤが魔物軍団らに乞い願われて、仕方なしにテルアに内緒でここまで来たら、魔物軍団筆頭のチャップがグツグツグツと火にかけた大鍋をかき混ぜているところだった。
それだけでも魔女かよ! とつっこみが入りそうなものであるが、それ以上に、悪魔兵兵隊長のチャップが、ふふふふふ、と不気味に笑いながら鍋をかき混ぜてるのが、ホラーである。
そこに、三つ目蛞蝓のシヴァが色々とぶちこむものだから、もはや鍋の中身から変な臭いが漂ってきているように思うのは気のせいか。
ちなみに、センス抜群のブラッドと裁縫や布織りができるハイドは装飾担当であり、完成品を入れる箱を包む包装紙やリボンのことで熱い議論を交わしている。
「なぁ、他の奴らは? お前ら二人だけで、つくってんの?」
「違いますよ。他のみなは、私たちとは別の種類のチョコを作ることにしたようで、別行動になったんです。ナーガとサイガとヤマト、金閣銀閣とアンタレスのチームで動いてます。まぁ、まずは素材採取からでしょうね。珍しくて、美味しいチョコをつくるんだと、張り切ってましたよ。最後に、完成したチョコを一緒に箱に詰めて、お世話になった方たちに渡して回る予定です」
チャップの予定になるほど、と納得しつつ、鍋の中身について訊ねてしまう。すると。
「あぁ、これですか? 違いますよ、作っているのはチョコじゃありません。チョコに混ぜるためのものです」
「ちなみに、何?」
「お酒の元です。ウイスキーボンボン、でしたか? お酒を入れたチョコにしようと思いまして。これは、手を加えた後、ヤマトに頼んで発酵させてもらって、お酒にする予定なんです」
「へぇ。そんなんから、お酒ができるのか」
「はい。度数がきつくて、ドワーフ殺しという二つ名さえある、お酒で。今から出来上がるのが楽しみです」
にっこりと笑ったチャップは、ふと、思い付いて、シヴァに頼む。
「シヴァ。変わってもらえませんか。マサヤ様。良ければ私と一緒にみなの様子を見て回ってもらえませんか? 一応、明日中に完成させたいので、進捗状況を見ておきたいのです」
「まぁ、いいが」
ここまで乗りかかった船だ。別に一緒に見に行くぐらいなら、とマサヤは了承したのだった。




