36話 友達の奇運の発揮ぶりを目の当たりにする(※正也視点)
「兄貴ー! お風呂空いたよー!」
元気な声と共にガチャンと部屋のドアが開き、由美が部屋に入ってくる。正也は生返事をしながら、パソコンをいじっていた。
「何? なんか調べものでもしてんの、兄貴」
「ん? ちょっとな。調べものっちゃ調べものかな」
正也の返事は曖昧だ。由美は興味を惹かれ、兄が座る机へと近づいた。
正也がぎょっとするが、お構いなしに、正也の部屋の椅子を勝手に持ってきて隣に座る。
「何調べてんの?」
「お助けキャラについて、ちょっとな」
「あのおじいさん?」
今日、正也と由美は「ファンタジーライフ」というゲームで正也の友達である赤石輝と共にゲームをしてみた。
結果は、惨憺たるものだった。
初めていく迷宮でやられてしまい、外へと放り出された。さらに、所持金も半分になってしまったので、少々へこんではいたのだ。
だが。そんなことは本当に些細な出来事であった。
正也たちが一緒にゲームをプレイした赤石輝は、ゲーム内であり得ないほどの高ステータスだった。
レベル1にも関わらず、だ。
何かあると感じた正也は、独自に調べることにしたのだが。
掲示板でジャスティスの特徴をできるだけ細かく書いて情報を募集しているものの、なかなか有力な情報は集まらない。
「結構、特徴的なじいさんのはずだけどな」
転移魔法を使いこなして、さらには輝のあり得ないスキルのレベル上げにも協力した。
絶対に何かあるじいさんだと正也は、踏んでいた。輝の場合、初っぱなからそういうお助けキャラが味方につくのは、あまりいいことではないかもしれない。
正也は、前回自分が誘ったRPGゲームの二の舞になることを恐れていた。
あのゲームで輝がとてもショックを受けたことを知っている。
そうでなければ、高校に入学してから半年以上もゲームを避けたりしなかったはずだ。もしも、まだアカウントが残っていれば輝はきっとあのゲームをやっていた。そう思う。
偶然と、誰かの悪意が輝へと向けられた結果、輝はあのゲームをやめた。
とても、不本意だったはずだ。
そうならないよう、今回はきっちり輝のことを見張っておきたい。
今度こそ、友人が心の底からゲームを楽しめるように。
「ん? 新しく誰か書き込んできたな」
正也は新しい書き込みに目を通してみた。
112 ラルク:初めまして。ラルクといいます。実はお探しのお助けキャラについて、一人心当たりがあります。頭がはげていて、転移の魔法が使えて、名前がジャスティス。それは、おそらく魔神です。
魔神? 初めて聞く単語だ。正也はすぐに掲示板に返事を返す。
113 マサヤ:初めまして、ラルクさん。掲示板を立ち上げたマサヤです。早速ですが、魔神というのは一体どんな存在でしょうか? 詳しく教えてもらえませんか?(*^_^*)?
少し待つとまたラルクの書き込みがUPされた。
114 ラルク:俺も詳しくは知りません。ただ、俺の場合、冒険を始めたら、大量の魔物が出てきて襲われる!と思ったところを助けてもらいました。その時に出てきたじいさんが自分のことを魔神ジャスティスと名乗っていたので。どうも、名前の響きからして、魔物とか専属の神様じゃないかなって、勝手に思ってます(笑)。
115 マサヤ: 魔物専属の神様ですか!!(゜ロ゜ノ)ノ そんな神様いたんですね。 その神様が仲間になったりとかってあるんですかね?
116 ラルク: それはないんじゃないですかね。魔神って名乗ったくらいだし。迫力めちゃくちゃすごくて、会ったとき、俺なんてめちゃ、びびったくらいです。神様が仲間になったら、すっごいチート的なキャラになっちゃうんじゃないかなと、個人的には思いますし。でも、実際仲間になるとすごそうですね。転移魔法であちこち行けそうだし。
画面を見つめていた正也と由美は押し黙る。つい2時間ほど前に、ラルクの言うあり得ない状況に遭遇してる二人としては、ラルクの言うチートキャラになった実例を一人知ってる。
ここで、それを言うことなどもちろんないが。
117 マサヤ:ラルクさん、情報ありがとうございました。(*^_^*) 友達が会ったって話してたから、少し気になってしまって。明日学校で会えたら、ラルクさんから聞いた話をそのまま伝えようと思います。
118 ラルク:そうですね。でも、魔神に会うなんて、すっごく運のいい友達さんですね
(ゝω・´★)現時点では、魔神曰く、滅多にプレイヤーの前に出ないそうですから。
運がいいどころか、その魔神を仲間にしてるっぽい友達だ。
相変わらずの輝の奇運の発揮ぶりに、頭が痛くなってくる正也だ。
119 マサヤ:滅多に会えないなんて、ロマンがありますね。俺も一回会ってみたいです。情報提供、本当にありがとうございました。また、何かわかったら教えてもらえると助かります。(*^^*ゞ
120 ラルク:わかりました。魔神について何かわかったら教えますね〜。お互い、楽しいゲームライフを過ごしましょう!(^-^)/
121 マサヤ:はい!ってもう楽しんでますけどね(笑)。色々、ありがとうございました! そろそろ寝ますね〜。おやすみなさい。
(-_-)zzz
これくらいで話を切っておけば問題ないだろう。立ち上げた掲示板を封鎖して、正也は考える。
「俺が輝を見張るしかないか」
輝が二度と嫌な思いをしないように。
かつてのゲームの二の舞にならないように。
正也は輝のことをきちんと見張っておこうと、決意を固めるのだった。




