352話 緊急事態じゃのぅ
その場にいる、クレストのおじさんの眷属と、じいちゃんの視線が突き刺さる。クレストのおじさんは神経が図太いはずだが、今日は額に汗をかいてる。
「どういうことじゃ、クレスト神。儂は会議をさぼっとったから詳しく知らん。話してもらえるかのぅ」
「それがだな、バレンタインにかこつけて、イベントをしたいみたいでな? いや、きちんと俺は反対したんだぞ!? 反対したが、上がごり押ししてきやがったんだよ。俺は武闘大会だけでいいって主張したんだが、聞き入れてもらえずに、決定しちまった」
「あれ? っていうか、それ、僕らが聞いちゃダメな情報なんじゃ・・・」
クレストのおじさんは、首を横に振る。
「簡単なイベント名とイベント概要はもう告知が出てるはずだから、問題ねぇよ。問題はだ・・・ロードが、提案しやがった件なんだよ。じいさん、ちょっと耳を貸してくれるか?こいつらには聞かせたくねぇ」
じいちゃんは、渋々クレストのおじさんの側まで行く。クレストのおじさんが何事かをじいちゃんに耳打ちする。じいちゃんの顔も徐々に真剣味を帯びる。
「それは、由々しき事態じゃのぅ」
「だろ?」
「話だけでは生け贄は一人のようじゃが。避けられるなら自分の身に降りかかるのは避けたいのぅ」
一体、ロードは何を提案したんだろう? ろくでもないことだとは薄々察することができた。
じいちゃんは足取り重く、手伝いを呼びに行く。
「とりあえず、俺らもこれからこっちで話し会わなきゃいけないんだが。ゴーレム類を一旦引き取ってくれねぇか、テルア」
そういうことなら、と僕もゴーレムに命じて、みんなで手を繋いでもらう。明らかに、今安堵の息漏らした人間がいたけど。まぁ、いいや。
「お前らも、イベントの告知はされてるから、確認したらどうだ? 悪いが俺たちは緊急会議に入るから」
緊急会議ときいて全員の気が引き締まったようだ。
僕らはひとまずゴーレムをじいちゃんのところまで持ち帰ることになった。
確認してみると、本当にイベント告知がなされていた。ちょっとビックリだ。
「今回のは、どうもチョコ争奪戦みたいだね」
「うげ。なんだこれ。お前、出るの?」
「うーん、どうしよ。報酬が豪華だったらにするよ」
イベントの概要は、女の子からチョコをもらおうというものだが、クレストのおじさんの態度がおかしかったことから、絶対に何か、仕掛けてくると思う。
油断できないなぁ。この間のイベントもよくわからないうちに終わっちゃったし。
「あれ? なんか、フレンドメール来てる」
僕は、差出人を確認せずに、そのメールを開ける。メールは簡潔明瞭なものだった。うーん。
「マサヤ、僕、ちょっと会わないといけない人できたから、行ってくるね。・・・・・・送信、と」
こちらもメールを返信すると、了承の返事がもらえた。僕はマサヤをアールサンまで送ると、アールサンの街のギルドの一つに向かう。眼前の、年期の入った建物に入ると、すぐに、視線が飛んでくるが、僕は無視して階段を使う。メールの書かれていた通りに行くと、やがて応接室のような場所に辿り着いた。
ノックをすると、「入ってくれ」と中から応答があり、ありがたく中に入らせてもらう。
「よく、来てくれたな」
「ども、お久しぶり。僕に何か用、スレイさん?」
僕の前には、紅蓮騎士団のトップである、スレイさんがいた。




