339話 王墓の遺跡 5
案外ダンジョン探索はさくさく進んだ。と、いうかアンタレスが強いのだ。
アンタレスは尻尾の毒攻撃を上手く使いながら、後は天井や壁に登って、じっとしてるだけで魔物を倒してしまう。アンタレスと同じような黒蠍には効かないかと思いきや、効いた。
あれ?と思ってアンタレスのステータス確認をすると、猛毒攻撃のスキルがあった。ちなみに黒蠍はただの毒攻撃だ。そして、やっぱりユニーク魔物だった。
なんか、僕の側ってユニーク個体が多い気がする。
まぁ、こんなところで急ぐのもなぁ、ということでゆっくりのんびり、マサヤの訓練と、宝箱探し、マップ埋めを兼ねて端から端まで歩いてみた。
見つけた宝箱は全部で八つ。一階層につき二つというのは、ちょっと、少ない気がする。それに、当たったのが蠍の置物とか、どうしろって言うんだろ。
ちなみにこの蠍の置物、殺したい相手の名前を書いた紙を尻尾に巻き付けておくと一週間以内に書いた人物を暗殺してくれるという、えげつない効果があるようだ。こんな恨み買いまくりそうな代物、いらないよ。
他には、呪われた金と宝石のネックレスに、これまた呪われた包帯、呪われた死者の杖、王の黄金マスク(もちろん呪われている)、腐敗防止薬、ゴーレムレシピ1、アリジゴク脱出手袋&靴下(砂壁登りができるようになる)と、役に立たなさそうな代物ばかりだった。
まぁ、いいや。蠍の置物は、ネギボウさんにでも売っぱらえば。
あ、というか。
「テルア〜〜〜っ! もう、限界なんだが!?」
僕が前を向くと、マサヤが岩ゴーレムと力比べをしていた。いや、マサヤが潰されないように力んでるだけなんだけども。
「ん、わかった」
僕は魔剣ソーマを片手に持ち、風魔法で体を浮き上がらせて、岩ゴーレムに「光刹斬」を放つ。
首を落としてもまだゴーレムは動くが、コアの場所は見極めたので、僕はそこだけを剣で切り裂いた。さすがにコアを切り離されてはもう、動けない。そのまま、地魔法で岩を砂に変えてコアを回収する。
「なぁ、さっきからゴーレムの素材集めまくってるけど、何に使うんだ、それ?」
「ネギボウさんにコアの中身をクリーニングしてもらって、僕が魔力を補充して、マクアさんが、ゴーレムを造るんだよ。それで、またクレストのおじさん家に持ってくんだ。練習相手になると思うし」
「ふーん」
「なんか、ロードもかなり乗り気で手伝ってくれたんだ。マクアさんが、不死鳥の涙ゴーレムに混ぜ込んでたし」
不死鳥の涙は、それだけで素材として超一流であり、不死鳥の涙を使われた道具は半永久的に動くと言われている。
実際、マクアさんが造ったゴーレムは魔力切れもせずに魔力の補充もなしでずっと稼働し続けている。あれなら、練習相手としてすぐに動かなくなることはない。
「え?」
「あと、じいちゃんがゴーレム一つ一つにサイン入れてくれて。破壊不可の機能までついたんだよ。あれ一台で下手すれば一国滅びるんじゃないかなぁ。学習機能をネギボウさんが付けてたし。進化の可能性も秘めてます、って鑑定に出たから、ひょっとしたら今頃進化してるかも。さすがにあの力作ゴーレムはおじさんの眷属でも苦戦すると思う」
頑張ったよねぇ、あの、ゴーレム作製は。だって、簡単に壊れたら、練習相手にならないし。
そのため、みんなで話し合いながら丁度良いバランスを試行錯誤して。少しでも役立ってるといいなぁ。
「なんでだろう。聞くのが非常に怖いんだが、その力作ゴーレム何体造ったんだ?」
「丁度、五十体だよ。あと、マサヤがどうするんだよ、これ!?って叫んでた魔法具も乗せてみたから、遠距離攻撃もできるよ。武器は、一応木剣とか渡しといた。ヤマトが移動魔法に失敗してすごく大きな木に飛ばされた時に、たまたまおすそわけでもらった木材使ってる。丈夫でしなやか、持ち主の魔力(SP)自動回復付き。戦ってる間に相手の癖とか戦い方を覚えて自分のものにしていくから、一度見せた技は二度は使えなくなる、というか効果が薄くなっちゃうんだ」
マサヤの想像を越えてしまったらしく、マサヤは力なく笑うと、おざなりな返事を返す。
「ん、わかった。まぁ、クレスト神の眷属だし、死にはしないだろ。ん?」
ドドドドドッ。
前方から、何かがやって来る。大きな丸い岩を転がしながら、やって来たのは。
「ちょ、あれ、やばくねぇか!? あの大きさだと通路完全に塞いでるし、逃げ道ないぞ!?」
「うわぁ、おっきなフンコロガシだ」
「アンタレスに乗って天井に張り付くのは卑怯だろ、テルア! ってか、俺も乗せろよ!!」
下で文句を言うマサヤがうるさいので、僕はマサヤに鋼糸を垂らして上ってきてもらった。僕らの下をフンコロガシが通りすぎていく。
「危機一髪だったな」
「そだねー」
「もしもーし。誰かいるなら助けてもらえませんかー?」
僕らが危機を回避したすぐ後で、どこからか男の声が聞こえてきた。
辺りを見回すと、丁度小さな横道があり、その横道の中央には大きく深い穴があった。僕が下を覗きこんでみると。
見た目十四、五の少女と青年が穴の中でギャーギャーと喧嘩していた。
「あれ? 助けてって声が聞こえたと思ったけど、ただの痴話喧嘩か。心配して損した」
僕が言い放つと、穴の下の二人がぽかんとしたのだった。




